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279.悪夢への鎮魂歌

「【暗衝】!」


 猛烈な突撃からの振り上げ。

 ナイトメアが後方へのステップでかわすと、レクイエムは続けざまに剣を振り下ろす。


「【暗夜剣】【闇十字】!」


 飛来する十字型の闇波動。

 これを横へ飛び込むような形で回避すると、レクイエムは左手を振り払う。


「【黒炎魔手】!」

「っ!」


 付近一帯を焼き払う黒い炎に、慌ててバックステップ。

 少し前身を焼かれたが、ダメージを減少させることができた。

 これまでのダメージは両者共に、ゲージ1割に届かないほど。


「高速【誘導弾】【連続魔法】【フレアアロー】!」


 即座に高速魔法による反撃を仕掛ける。


「くっ! 【暗夜剣】!」


 かすめていく炎矢に、うめきながらの反撃。

 さらにこれもかわして、ナイトメアは攻撃を続ける。


「高速【誘導弾】【連続魔法】【フレアアロー】!」

「やっかいな……っ!」


 誘導をかけることで、曲線を描くビームのようになる炎矢。

 この組み合わせの連射は、回避してもHPを削っていくいやらしい攻撃になる。


「高速【誘導弾】【連続魔法】【フレアアロー】!」


 削られていくレクイエム。

 さがりつつ放つ高速誘導弾で、ナイトメアは優勢を奪い取った。しかし。


「【闇の翼】!」


 背中に広がる闇色の翼。

 直線短距離移動の【暗衝】とは違い、闇の粒子を噴き出しつつ離陸するような形で上昇。

 滑空して【フレアアロー】を飛び越えてくる。


「【暗夜旋回】!」


 そのままナイトメアに迫り、放つ空中からの回転斬り。


「まずッ!!」


 闇の波動が、付近を薙ぎ払う。

 これをとっさの伏せでかわして振り返ると、暗夜剣を振り払ったレクイエムの背中が見えた。

 ナイトメアは杖を構える。しかし。


「【ダークフラップ】!」

「なッ!?」


 翼の羽ばたきが、背後に闇の粒子を噴き出した。


「変わったスキルを……っ!」


 後方への攻撃という意外なスキルに吹き飛ばされ、ナイトメアは地面を転がる。

 もちろんレクイエムは、この隙を逃さない。


「どうしたナイトメア! 隙だらけだぞっ!!」

「【ブリザード】ッ!!」


 迫る黒騎士を、吹雪の壁でけん制する。

 氷雪風に阻まれ、足を止めるレクイエム。


「【暗衝】!」


 視界を奪う吹雪が晴れるのと同時に放つ特攻に、しかしナイトメアは薄く笑う。


「猪突猛進で、魔導士が捕まえられると思っているの?」


 足元には、輝く魔法陣。

 指を鳴らすと、【設置魔法】【フレアバースト】が炎を噴き上げる。


「ぐあああああーっ!」


 爆炎は容赦なく付近一帯を吹き飛ばす。

 残りHPは6割強。

 必死に体勢を立て直したレクイエムは、お返しとばかりに左手を突き上げた。


「ならばっ!! 来たれ【盟約の騎士たちよ】!!」


 一転、ナイトメアの足元に広がる魔法陣。

 現れたのは片手剣を持った黒影の騎士。

 放つは飛び掛かりからの二連撃。


「っ!」


 これを回避したナイトメアのもとに、入れ替わる形で特攻してくる黒槍の槍士。


「そういうことっ!」


 迫る突きを足の運びで避けると、背後から伸びる大男の影。


「ッ!!」


 振り回す斧が、豪快な風切り音を鳴らす。

 腰を落として回避すると、ナイトメアを取り囲むようにして三体の黒剣士が現れた。

 正面の剣士が放つ二連撃が、生み出す衝撃波。

 そこへクロスするように駆けてくる大剣士の振り降ろしが、地面を割る。

 これを決死の横っ飛びで回避すると、最後の剣士が突撃して来た。


「ああもうっ!」


 肩口をかすめる刺突に思わず顔をゆがめたところに、追い打ちのように現れる騎士。


「これ以上は、さすがにムリだわ……っ!」


 続くのは、闇の波動をまとった二連撃。


「ああああっ!!」


 振り降ろしからの斬り上げ。

 闇の刃に裂かれたナイトメアは、HPを残り5割のところまで減少させた。


「どうしたナイトメア! その程度で使徒たる覚悟を語るつもりかっ! 【暗天の大剣】!!」

「ッ!?」


【暗夜剣】に、闇のエネルギーが充填される。

 放つ回転斬りは、付近一帯を薙ぎ払う一撃。

 ナイトメアは転がってこれをかわすが、レクイエムはさらにもう一回転。

 斜めの振り上げに、慌ててもう一度横っ飛び。

 ギリギリのところにすべり込んで息をつくも、黒騎士は高く【暗夜剣】を掲げていた。


「ま……ずっ!」

「これが――――裏切者へのレクイエムだ」


 叩きつけられた一撃は、黒炎の爆発を巻き起こす。


「きゃああああーっ!!」


 吹き抜けていく猛烈な闇の波動に、ナイトメアは吹き飛ばされた。

 HPは一気に、残り2割ほどまで落ち込む。


「とどめだあっ! 【闇の翼】!」


 さらにレクイエムは、低空飛行で追撃を仕掛けてくる。


「やっぱりこの距離だと厳しいわね。何とか、何とか一度離れないと……っ! 【ファイアウォール】【フレアバースト】!」

「チッ!」


 今度は炎の壁でけん制し、続け様に放った爆炎で視界を奪う。

 レクイエムは【設置魔法】を警戒し、その場で炎が消えるのを待つ。すると。


「…………いない、だと」


 ナイトメアの姿は消えていた。


「逃げたというのか? いや、そんなはずはない……っ」


【闇の翼】で付近を見回し、すぐに黒コート姿のナイトメアを発見。

 そのまま滑空で追いかける。


「何の真似だ、ナイトメアッ!」

「…………」


 しかし、返事はない。


「勝てぬと知って逃げを選んだか?」

「…………」

「それとも何か、策があっての退避だとでも言うつもりか?」

「…………」

「答えろ! ナイトメアッ!!」


 それでも動かないナイトメアに、詰め寄るレクイエム。

 コートの襟首をつかんで詰問する。すると。


「ええと、ごめんなさい」


 そう言って突然、ナイトメアが煙に包まれた。

 代わりに現れたのは、見知らぬ男性プレイヤー。


「だ、誰だ貴様はッ!?」

「頼まれちゃいまして……実はこれで化けてたんですよ」


 その手には、一枚の葉っぱ。

【タヌキの葉っぱ】は、使用者が一度でも見た人物、オブジェクトに姿を変えられるアイテムだ。


「なんだと……ならばナイトメアはどこにいるッ!?」


 嫌な予感に思わず叫び声をあげ、慌てて付近を探し始めたところで――。


「なっ!? ぐああああああ――っ!!」


 飛んで来た猛烈な爆炎が、レクイエムを吹き飛ばした。


「な、なんだ!? どこから攻撃しているっ!?」


 困惑するレクイエムのもとに飛んで来る炎砲弾。


「くっ! 【黒衝】っ!」


 その速度は早く、移動攻撃スキルを使うことで必死に回避する。

 だが、飛来する高速魔法は止まらない。


「高速【魔砲術】【誘導弾】【フリーズストライク】!」


 ナイトメアは、得意の遠距離魔法を連射する。


「高速【魔砲術】【誘導弾】【フリーズブラスト】!」

「ぐああっ!!」


 氷雪の爆発に吹き飛ばされ、地を転がるレクイエム。


「高速【魔砲術】【誘導弾】【フレアストライク】! まだまだっ! 高速【魔砲術】【誘導弾】【フレアバースト】!」

「くっ! ああああああっ!!」


 通常のものより明らかに速く、そのうえ自分に向けて曲がってくる魔法の連射。


「クッ! 来い黒馬ッ!!」


 容赦のない攻撃に、レクイエムは慌てて黒馬にまたがり全速力で『発射地点』へ。


「……言ったでしょう? 私は手段を選ばないと」


 ナイトメアはそう言って、薄く笑みを浮かべた。


「上っ面ばかりを見ているから騙されるのよ」

「うるさいっ! 黙れ黙れ――ッ!!」


 二人は再び、【設置魔法】の魔法陣を前に向かい合う。


「……ところで、知っているのかしら?」


 そしてナイトメアは、さらにたたみ掛けにいく。


「お前たちの背後にいる貴族こそ、ヴァイキングにフィンマルクを襲わせ、国を奪おうとしている……黒幕だという事を」

「な……に?」

「フィンマルク国の貴族という『立場』に騙され悪事に手を貸した。それが今のお前たちなのよ」

「……そんな、まさか」

「だから私は立場を捨て、新たな旅を始めた」

「……ッ!」

「『光』『闇』……言葉や立場に惑わされることなく真実に至る、『真眼』を得るために!」


 まさかの裏情報に、言葉を失うレクイエム。

 もちろんナイトメアが、この会話をここで行ったのには訳がある。


「さて、時間は十分稼げたわね。終わりよ……レクイエム」


 そう言って、すっかり足を止めてしまっていたレクイエムに薄い笑みを向けた。


「な、にぃ……ッ!?」


 突然の爆発に、弾かれるレクイエム。

 その背中で弾けたのは、低速【誘導弾】で放った【連続魔法】【フレアアロー】

 二人を大きく回り込むようにして飛んで来た炎矢に押された身体が、魔法陣の中に吸い込まれる。


「解放っ!!」


 もちろん、この好機を逃したりはしない。

 ナイトメアは即座に【設置魔法】【フリーズブラスト】を開放。

【コンセントレイト】によって威力を上げた一撃が、猛烈な氷嵐を噴き上げる。


「ぐうううううっ!!」


 視界を白く染める氷片の嵐に飲み込まれ、必死にこらえるレクイエム。


「……なんだ?」


 そんな中、聞こえてきたのは――。


「黒燐揺れる果て無き夜天、放つ葬火は天討つ魔剣、邪神よ……嘆き、忌み、永久の螺旋となりて討滅せよ――――」

「なんだ、一体何が起こっている!? 何が起きているというんだッ!?」


 激昂するレクイエム、晴れていく氷嵐。

 ナイトメアは、その金色に輝く目と共に【ワンド・オブ・ダークシャーマン】を向けていた。


「溺れなさい。終わることなき悪夢に――――【ダークフレア】」

「ッ!! 【闇の翼】ーッ!!」


 その迫力に、慌てて動き出すレクイエム。

 しかし間に合わない。

 集束していく闇の粒子は、一瞬の静寂と共に凝縮。

 乱れ咲く黒炎の爆発を巻き起こす。


「……終焉フィナーレ


 天高く吹き上がる、闇色の炎。


「……これが、深淵に手を伸ばす者の覚悟……か」


 レクイエムが倒れ伏し、ナイトメアの金色の目から輝きが消えていく。

 銀色の髪を振り払って杖を降ろすと、優雅な挙動で戦場に背を向けた。


「…………メイ」


 そして、同じく戦いを終えたばかりのメイのもとに歩を進めると――。


「――――私を斬って。全ての記憶ごと」

「ええっ!?」


 羞恥で真っ赤になったその顔で、そんな懇願をしたのだった。

ご感想いただきました! ありがとうございます!

今回もご感想欄にてっ!


お読みいただきありがとうございました!

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[良い点] 此れが後の混沌の使徒の始まりであった。 [気になる点] 戦闘始まってから地の文章がナイトメアとレクイエム呼びとは [一言] 彼女は大好きな雪山に行っていることを知っていた。 そちらでイベン…
[一言] 気持ちがわかるわぁ 羞恥心MAXになると斬り捨てて欲しいと懇願しそう
[良い点] まさかのレンちゃんのオリジナル詠唱……感無量です。 これも全てツバメ(あかぺん)先生のおかげですね! 厨ニチャレンジ、1年生!(やめてさしあげろ) [一言] とりあえず最後のレンちゃんが過…
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