254.力を合わせて戦います!
雪原の木々の中、襲い掛かってきたイエティ。
その狙いはメイ。
始まる毛皮vs毛皮の戦い。
「よっ、それっ」
メイは迫る棍棒の連打を、右に左に軽々かわす。
ただし狙いは、反撃ではない。
「グオオオオオオ――――ッ!!」
「くるっ!」
大きな踏み込みから空中で一回転。
強烈な棍棒の叩きつけは、衝撃波をともなう一撃だ。
「【ラビットジャンプ】!」
今度はきっちり、距離を取る。
「【ライトニングアロー】!」
大きな一撃によって生まれた隙。
アニタの放った矢が、見事イエティに突き刺さった。
「ないすっ!」
メイは拳を突き上げる。
その狙いは、アニタの攻撃のために隙を作ること。
「【連続魔法】【ファイアボルト】!」
追撃はレン。
これをイエティは、木の陰に入ることでかわす。
「【曲射】!」
しかしそこに、木を避けるようにして飛んできた矢がさらにイエティのHPを削った。
アニタの攻撃をメイン火力にする、見事な連携だ。
イエティは狙いを後列のアニタへ。
猛然と駆け寄るが、その前にツバメが立ちふさがった。
棍棒の豪快な振り回しをかわすと、イエティはわずかに胸元をふくらませた。
そのモーションには、すごく覚えがある。
「グオオオオオオ――――ッ!!」
「【跳躍】ッ!!」
目前での【咆哮】を、ツバメは後方への跳躍でかわしていく。
「【咆哮】を……避けた」
初見の敵が使う、前動作の少ないスキル。
その鋭すぎる回避に、アニタは驚く。
「高速【ファイアボルト】!」
続いたのはレン。
燃え上がる炎と生まれたわずかな隙に、ツバメはスキルを発動。
「【紫電】! お願いしますっ!」
「はいっ! 【ライトニングアロー】!」
その隙にアニタが矢を放ち、またもHPを減らすことに成功。
「ツバメちゃんすごーい! よく【咆哮】を避けられたねっ!」
「メイさんのおかげです」
「……そうなの?」
首を傾げるメイ。
残りHPは半分ほどだ。
するとイエティは棍棒を放り捨て、倒木を持ち上げた。
武器を変更し、猛然と走り出す。
狙いはメイ。
正面からの叩きつけ、そこから二回転の振り回しへとつなぐ。
派手に舞い散る雪を見て、アニタは思わず息を飲む。
「すごい勢いです……っ」
しかしどこかで見たようなその攻撃。
メイは足を一歩だけ引くことで軸をずらし、しゃがむことで攻撃の全てを回避する。
そして一転獣のような低い姿勢の走りで駆け出すと、そのまま懐に飛び込んだ。
「【キャットパンチ】!」
一撃入れてひるませたところで【雄たけび】を発動。
「がおおおおーっ!!」
「ここ、大きな隙ができます!」
ツバメが呼びかける。
メイは倒木をひろい上げ、そのまま大きく踏み込んだ。
「いっくよー! 【フルスイング】だああああーっ!」
オブジェクトによる一撃は、イエティの振り回しを遥かに超える。
吹きすさぶ雪風。
両者の倒木が砕け散るほどの勢いで、イエティを弾き飛ばした。
ダメージ判定は衝突だが、受け身も許さぬその威力。
もちろんこの隙を、アニタは逃さない。
「【ライトニングアロー・バースト】!」
見事な一撃で、大きくダメージを与える。
矢で狙いをつけるのには多少本人の能力が必要になり、自信がなければ【技量】を高めるのが基本。
ソロがメインゆえに【敏捷】【腕力】にもステータス振りをしているアニタは、自身のエイム能力をしっかり磨いているようだ。
「グオオオオオオ――――ッ!!」
ここで残りHPが3割ほどとなったイエティが、怒りの咆哮をあげた。
「ッ!!」
倒木の連続振り回しは、巻き起こる雪風に体勢を崩されるほどの威力になる。
攻撃力と共に、振り回しの速度も向上。
中でも降り下ろしは、地面に穴が開くほどの勢いだ。
「【バンビステップ】!」
合わせてメイは足の運びを速くする。
ツバメも【加速】からの【リブースト】を使い、移動力を上げていく。
二人はしっかり、既視感強めなイエティの攻撃に順応していた。
「ラ、【ライトニングアロー】!」
しかし。これに慌てたアニタの矢が当たらなくなる。
大きく雪が舞う演出、倒せなければトップに奪われるという事実が、緊張感に変わってしまったようだ。
「ごめんなさいっ」
慌ててつぶやくと、再び放った矢もイエティの横を通り過ぎる。
「ご、ごめんなさいっ!」
そしていよいよ、アニタは責任を感じ出す。
そんな中、メイはピタリと足を止めた。
「大丈夫だよ」
そう言って元気よく振り返ると――。
「百回でも千回でも、隙を作りますっ!」
そう言いながらイエティの攻撃を【アクロバット】であっさりかわし、「にっ」と笑ってみせる。
するとツバメもわざと、イエティの振り降ろした倒木の上に乗ってVサイン。余裕を見せた。
二人が前衛なら、本当に何百回でも隙を作れる。
それが分かった瞬間、アニタの緊張が解けた。
「【ライトニングアロー・バースト】!」
放った弓の一撃が見事、イエティを打ち抜き炸裂。
ここからはこれまでのミスが嘘のように、次々に命中させていく。
「【ファイアウォール】」
残りHPはわずか。
レンが炎の壁で敵の動きを制限する。
「【加速】」
オトリになったツバメに迫る、全力の振り降ろし。
「【リブースト】!」
ツバメがこれをかわしたところで、飛び込んできたのはメイ。
「【装備交換】! とっつげきー!」
【鹿角】による突撃で、イエティは雪煙をあげて転がった。
三人の視線は同時に、トドメの一撃に向けられる。
「いきますっ! 【光の大弓】!」
最後は弧を描いて飛ぶ、三本の青光の矢。
命中し、炸裂する。
HPゲージが全損し、イエティは粒子となって消えた。
「やったー!」
それを見て、駆けつけてきたメイがアニタに飛びつく。
「やりましたね」
「やるじゃない!」
レンとツバメも、肩を抱いて激励する。
「ありがとうございます……っ」
見事、弓矢による攻撃を中心にイエティを倒してみせたメイたち。
その素晴らしいフォローぶりで、アニタはしっかりとイエティ打倒を実感することができた。
「……素晴らしいパーティですね」
思わずつぶやくアニタ。
「まあ、メイが中心にいるパーティだからね」
レンはそう言って、少しだけ得意げに笑って見せたのだった。
◆
「足跡が……消えた」
黒馬が足を止め、リズがわずかに戸惑う。
「どうしたんだいー?」
突然途切れた足跡。
これまで順調に進んできたにもかかわらず、急に動きが止まったことに、なーにゃも首をかしげる。
「【索敵】が止まった」
「先を越されたってことですかな? 一番に受注して馬で真っすぐ来たのに、驚きですなぁ」
「見てください、やはり戦闘自体は起きていたようですねぇ」
シオールが指さした先には、数本の倒木。
そして強烈な衝撃で吹き飛ばされたかのような、無数のくぼみ。
「もらえるポイント量を考えれば、そうすぐに倒せる相手ではないはずなのですが……不思議ですねぇ」
「偶然この辺りにいたパーティが倒したんじゃないかな? クエストを受けなきゃ戦えない敵でないんだったら、おかしくはないかもっ」
ローチェはそう言って、馬上で笑ってみせた。
「その可能性が高そうでございますなぁ」
「クエストの一つや二つ、ハンデ代わりにくれてあげちゃいましょうっ」
「こういう事もあるんですねぇ、では戻って次のクエストに向かいましょうかぁ」
意外な結末。
しかしシオールたちは、落ち込むこともない。
いまだトップなのは変わらず、他とは大きなポイント差がある。
余裕の足取りでウェーデンのギルドへと戻っていく。
「どうしたんだいー?」
「……いや、何でもない」
少しずつ自動修復していく、雪渓の戦闘跡。
木に残った『焼け』を見てわずかに目を取られたリズだったが、すぐに視線をウェーデンの方角へと戻したのだった。
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