251.最後の配達先は
「ここが最後の配達先ね」
「ありがとうっ」
そりを引いてきた犬の頭をわしゃわしゃとなでるメイ。
ハズレだったはずの犬は、尻尾を振りながら素直に座って待つ。
荷物は片手に収まるサイズの箱。
綺麗なウェーデンの街には似つかわしくない、荒れた雰囲気の地区。
酒瓶や樽、放棄された建築資材などが辺りに転がっている。
メイたちが配達先へ向かおうとすると――。
「もらったぁ!」
「うわっと」
突然飛び込んできた男が、手にした荷物を奪いに特攻してきた。
これを軽い身のこなしで、スルッとかわすメイ。
「ひったくりまで出るのね」
「「「「もらったぁ!」」」」
「えええええーっ!?」
「ひったくり団も出るのね」
メイが手にした荷物を狙って、駆けつけてくる盗賊の集団。
「【バンビステップ】!」
一斉に飛び掛かってくる盗賊たちを、メイは早い足の運びでかわす。
どうやら、荷物を奪われずに配達を済ませろというクエストのようだ。
盗賊団は、全方位から一斉に迫りくる。
「【ラビットジャンプ】! ツバメちゃん!」
「はい!」
メイは飛び掛かりを垂直跳びでかわすと、荷物をツバメのもとに投擲。
これをキャッチしたツバメは、一気に駆け抜ける。
「【加速】【リブースト】……ッ!!」
しかし盗賊たちの手に見えたスキルの輝きに、慌てて【投擲】を使用。
「レンさんっ!」
無事に盗賊の【スティール】乱舞をかいくぐった。
「なぜでしょう。絶対に盗まれる気がしました」
目当ての物を盗めないのに、盗まれる。
もはやツバメ、自身の『運』への信用はかけらもなし。
「そういうことなら【浮遊】!」
ここでレンは、空を行くことを選ぶ。
ふわりと宙に浮かび、うまく盗賊たちの手から逃れるが――。
「【跳躍】!」
身軽な女盗賊がなんと、上昇中のレンの太ももに飛びついた。
「ええっ!?」
するとさらにその女盗賊に別の盗賊がしがみつき、その盗賊に別の盗賊がしがみつく。
そのまま、引きずり降ろされていくレン。
「た、助けてメイっ!」
「おまかせくださいっ! レンちゃんのおかげでみんな一か所に集まってますっ!」
メイは固まっている盗賊たちの前に跳び込んでいく。
「がおおおおおお――――っ!」
「「「う、うおおおおーっ!?」」」
そして【雄たけび】一つで、盗賊団をまとめて転がした。
「ありがとうメイ! これで一気にって……まだ続くの!?」
現れる多数の盗賊たちに、思わず悲鳴をあげるレン。
「ツバメ、お願いっ」
真っすぐに駆けてくる盗賊たちを前に、荷物をツバメにパス。しかし。
「思うように進めそうにありませんね……」
盗賊たちは陣を張ってツバメを待ち受けている。
「そうだ! ツバメちゃん!」
閃くメイ。
駆けつけてくる盗賊団を前に、遠く前方を指さした。
「そういうことですか……っ」
メイの狙いに気づいたツバメは、迫る盗賊を引き付ける。
そして【スティール】が来る直前に、メイにパス。
「お願いします、メイさんっ!」
再び荷物を受け取ったメイは、大きく振りかぶった。
「いっくよー! そーれえっ!!」
そのまま前方へ投擲。
遠く荷物を放り投げたところで、構えを取る。
「【装備変更】【バンビステップ】……よーい、どんっ!」
頭を【鹿角】に変更して走り出す。
「右、左、右、右右左っ!」
「な、なんだこいつ、速いぞッ!?」
そのまま盗賊団の隙間を華麗に擦り抜け、投じた荷物を追いかけていく。
「行かせるかあっ!」
スピードに乗ったところで、一斉に出てくる新たな盗賊たち。
飛び掛かってくる大量の邪魔者たちを前に、しかしメイは止まらない。
立ちふさがった盗賊たちの手が、身体をつかもうとしたその瞬間。
「【ラビットジャンプ】からの【アクロバット】!」
大跳躍。
そのまま空中で大きく一回転して、盗賊たちを全て置き去りにした。
「よいしょっと!」
そして配達先の家に生えた木の枝に着地したメイは、自分の投げた荷物を受け取ってみせる。
「……アメフトみたいだわ」
「自分で投げて自分で取るスタイルは初めて見ました」
「お待たせいたしましたっ!」
出てきた中年の男に、荷物を差し出すメイ。
「お届け完了です!」
木の上から大きく手を振って、レンたちに『配達完了』を伝える。
「あんな配達員さんが来てくれるのなら、毎日でも荷物が届くようにしたいです」
「お金がいくらあっても足りないわね」
そんなツバメのつぶやきに、笑うレン。
「そもそも、よくこんなところに住んでいられるわねぇ……」
メイに追いついたところで、思わずつぶやく。
「当然だろう、俺は盗賊団の首領だぞ」
「だとしたら教育はもっとしっかりしておきなさいよ。首領宛ての荷物も問答無用で盗むつもりだったのよ、部下たちは」
思わずツッコミを入れる。
こうして一番厄介な犬と配達先を引かされてしまったメイたちは、見事に配達クエストを完了した。
「もうおしまいかぁ。せっかくだし、少し遠回りして帰りたいなぁ」
「いいじゃない。もう少し走ってから帰りましょうか」
「うんっ」
うれしそうに笑うメイ。
三人は街の外縁を回りながら、たっぷりと犬ぞりを楽しんだのだった。
◆
「配達は無事に成功したようだな、助かったよ」
「やったあ! 犬ぞり楽しかったねぇ」
「とても名残惜しいです」
メイのおかげですっかり犬との好感度も上がり、別れを惜しむ三人。
ブンブン尻尾を振りながらメイと戯れる犬に、レンとツバメは思わず癒される。
この瞬間も次から次へと新たなクエストへと挑戦していく参加者たちとは、一線を画すのんびりさだ。
「おい見ろよ、なーにゃたち」
「早くも1位に躍り出たか……」
「いきなり高レベルの討伐クエストを連続で受けてたもんなぁ」
聞こえてきた声に、レンが大掲示板の一角を見る。
「……完全にリズが付けたパーティ名ね」
その最上位に名を連ねた、【闇の血盟】というネーミングにため息を吐くレン。
大方の予想通り、トッププレイヤーのチームは3ケタのポイントを取り、いまだ2桁ポイントの2位パーティに大きく差をつけていた。
犬ぞりで楽しんでいたメイたちは、現状百位にも入っていない。
するとそこに、闇の血盟の面々が戻ってきた。
「今回も余裕がありましたねぇ」
「四人いれば敵なしですな」
メガネのお姉さんシオールと、錬金術師なーにゃは笑い合う。
一方メイは、お姉さんの素敵さに目を輝かせる。
「ナイトメア」
「だ、誰のことかしら」
やって来た黒騎士を前に、すっとぼけるレン。
「上位十組にも入っていないとはどういうことだ? これでは闇の使徒としての名が廃るぞ」
「廃って欲しいのよ。できるだけ早く」
そう言うと、黒神リズ・レクイエムはレンに背を向けた。
「……やはり、何かの密命を負っているのだな」
「なんでそうなるのよっ!」
こうしてレンは、立ち去っていくリズの背にツッコミを入れたのだった。
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