250.野生児の宅急便
『――――それでは大型イベント【ウェーデンギルドは大忙し!】スタートです!』
「「「うおおおおおーっ!!」」」
イベントの開始と同時に、参加者たちが各所のギルド館に駆けていく。
「おおーっ!」
一緒に拳を突き上げたメイも、レンやツバメとギルド本館に向かう。
レンガ積みのウェーデンのギルド館には、暖炉の前に大きな掲示板が設置されている。
そこには、無数のクエストが貼り出されていた。
クエストごとに参加パーティ数も決まっており、その中での競争もあるようだ。
「どれがいいかなあっ?」
メイはツバメやレンと、無数に貼り出されているクエストを吟味する。
高レベルモンスターの討伐や、難易度の高いものはポイントが高く、ミニゲームで競争するようなものもある。
そんな中でツバメは、一つのクエストに目をつけた。
「犬ぞりを使った、お急ぎ便の配達……」
「犬ぞりっ!?」
「楽しそうじゃない」
ポイントは低いものの、メイとツバメは『犬ぞり』という言葉に夢中になった。
そしてレンも、メイやツバメと犬ぞりに乗って駆けるというのは楽しそうだと判断。
「まずは軽く、これで行ってみましょうか」
「はいっ!」
「いいと思いますっ」
参加可能パーティの数は三つ。
受注するとすぐに、ギルド端に置かれた配達部署に三つのパーティが集まった。
「これらはどれも急ぎでね。指定の時間以内に配達をすませてくれたパーティに評価をつけさせてもらうよ」
制限時間があると知り、気合の入る参加パーティ。
「犬は三頭いるんだが、一頭だけ機嫌が悪くてねぇ」
「「ッ!!」」
職員の言葉を聞いた二つのパーティは、大急ぎで機嫌のいい二匹の犬を捕まえにいく。
その姿にきょとんとするメイ。
「この子は、そんなに気難しいのですか?」
「ああ、その子は速さだけはあるんだが言うことを聞かないタイプでね。扱いが難しいんだ」
残ったのはどうやら、ハズレ犬のようだ。
その態度も見るからに不機嫌そうな感じをしている。
「配達先は、そこの地図に書いてある」
「よし、俺たちはこれだ! 犬もよく言うことを聞くいい子だぞ!」
「いいマップが取れて良かった! これなら余裕だな!」
さっさと犬を決めた二つのパーティは地図を選び、嵐のような勢いでギルド館を出ていった。
レンは残されたマップを手にする。
「それはちょっと、運ぶのがやっかいなものばかりでねぇ」
職員が息をつく。
残されたマップを見ると、配達先は高い建物の上階や入り組んだ路地などだ。
「……なるほどね。言うことを聞かない犬と、面倒な配達先。この二つを避けて配達を組むのがこのクエストの要点ってことかしら」
三頭の犬と、三枚の配達地図。
その組み合わせ次第で苦楽が決まる。
メイたちに残されたのは、言うことを聞かない犬と面倒な行き先。
選択の瞬間から始まっている競争。
最悪の組み合わせを引いたと気づいて、苦笑するレン。しかし。
「一緒にがんばりましょうっ!」
メイがそう言って犬の頭をなでると――。
【自然の友達】を持つメイの言葉に、犬は素直に「ワン!」と鳴いて応えた。
「これなら問題なさそうね」
メイの周りをクルクル回り出す犬を見て、レンは自然とほほ笑んだ。
「それでは……しゅっぱーつ!」
こうしてメイたちも、先行グループに遅れてのスタート。
「わあーっ、風が気持ちいいーっ!」
レンの期待通り、犬はしっかりメイの言う通りに走る。
本来は速い上にめちゃくちゃな走りをするため、オブジェクトにぶつかり放題になる危険な犬。
しかし指示通りに動くのであれば、その速さは武器になる。
あっという間にたどり着いたのは、猥雑に建物が作られた歓楽街。
店や民家があり得ない密度で寄せ集められたその区域は、もちろん迷わせて時間を奪うためのものだ。
「ここは私におまかせください」
しかし地図がある以上、ツバメが迷うことはない。
現代ではありえない密集住宅の作りに、ワクワクしながら道を行く。
「おーい、荷物はこっちだ」
すると入り組んだ建物の上階、窓から一人の男が声をかけてきた。
「お届け物でーすっ!」
メイがブンブンと手を振ってあいさつする。
「ああ、すまないな。そこの角を曲がったところに狭い路地があるからそこに入って、三つ目の郵便受けを右に曲がってすぐのところにあるハシゴを上ったら、インチキ武器屋の中を通って、店の外で店主みたいな顔で座ってるトロル風の少年に合言葉を――」
「【モンキークライム】!」
跳躍系スキルで届かないように作られたその場所へも、『登る』スキルなら問題なし。
実はここからが『迷いどころ』の区画。
メイは家から家へと見事に跳んで、一発で男のいる窓際へ。
「どうぞっ!」
「……あ、ありがとう」
余裕で最初の配達を成功。
迷わせるための密集市街地を、あっさりクリアしてみせた。
「な、なんだあの移動方法は……?」
そんなメイたちを見て、絶賛迷子中の先行パーティが驚きの声をあげたのだった。
「ええと、次は魔術研究所よ」
「新しい鐘を時計塔に届けるんだね!」
「なるほど、この大きさの荷物をあの高さまでもって上がれって内容なのね」
「これは大変そうです」
「研究用のモンスターが暴れ出したぞー!」
「……大変で間違いないみたいね。要はこの鐘を抱えてモンスターと戦いながら配達しろってことでしょう?」
苦笑いのレンはしかし、余裕を崩さない。
中央の吹き抜けには庭。
時計塔は庭に隣接していて、高所にある。
「あっ!」
「そういうことね」
騒がしくなる研究所。
しかしメイたちはそのまま中庭に向かい、種を撒く。
「それではいきます、大きくなーれっ!」
伸びる樹の枝に乗って、時計台の古い鐘の下に新しい物を置く。
「お届け完了です!」
「両手も空いたし、帰り際にモンスターも倒しておきましょうか」
「はいっ!」
案の定、時計塔上階へ続く道の前をうろついている大きな花型のモンスター。
その動きは明らかに、鐘に向かうプレイヤーを狙うためのものだ。
そのため、こちらには気づいていない。
「【アサシンピアス】」
先に鐘を届けた状態で、戻り際に戦闘が行われるとは運営も予想もせず。
必殺の刺突によって、一撃で粒子に変えた。
そのまま階を降りていく三人。
「大変だ! 花のモンスターが暴れ出して――」
「もう倒したわ」
「鐘も届けておきました!」
「…………君たちのおかげで助かったよ!」
明らかに会話が飛んだ感じの職員を見て笑うツバメ。一方。
「お、おい、聞いたか? モンスターが暴れてるらしいぞ」
「研究所だからな、危険なモンスターもいるんだろうな……」
すでにメイたちに倒されたことを知らない二つ目の先行パーティは、もういない敵を警戒しながら恐る恐る階段を上っていくのだった。
「次で終わりね。行き先は……」
「次はどこかなぁ」
「楽しみですね」
ここまで、誰も予想できないほどの余裕ぶりで配達をすませたメイたち。
魔法研究所の見慣れぬ光景や、古めかしい調度品を眺めて楽しんでいたメイとツバメは次の行き先にも期待する。
「最後は……盗賊街」
どうやらメイたちの配達先は、最後まで大変な物のようだ。
ご感想いただきました! ありがとうございます!
変わらずメイたちはポイントよりも楽しさ優先でございます! シオールの相棒は今後少しずつっ!
お読みいただきありがとうございました!
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