248.鎮魂歌
雪合戦イベントも無事終わり、メイたちは階段に座って雪の街並みを眺めていた。
大通りには、これまでよりも人通りが多くなっている。
「この辺りを使ったイベントだって! 楽しそう!」
それはウェーデン一帯を舞台にした大型イベントの告知があり、そのためにプレイヤーが集まってきているからだ。
街中に掲示されたイベント告知を見て、さっそくメイが期待に胸をふくらませる。
「せっかくだし参加してみる? 大きなイベント自体はヤマト以来かしら」
「いいですね、どんなイベントになるのでしょうか」
楽しそうだねと、笑い合うメイとツバメ。
「ッ!?」
そんな中、突然レンがビクッと身体を震わせた。
その視線の先には、重厚な黒の鎧を全身にまとった騎士の姿が見える。
「ちょっとメイ、隠れさせて!」
そう言って、慌ててメイの背に隠れるレン。
「どうしたの?」
その慌てように、首をかしげる。
すると黒騎士は、メイたちの姿を見つけてゆっくりとこちらに歩き出した。
「……聖城レン・ナイトメアだな」
「人違いよ」
黒騎士の言葉に、レンはメイの背に隠れたまま素っ気なく応える。
「人違いだと?」
「人違いよ」
「その【銀閃の杖】は、ナイトメアが吸血城の崩れかけ女神像を前に、闇の使徒としての思いを語った際に手に入れたものだ」
「ち、違うわ」
「それに長い銀髪を飾る赤のリボンは、自らの鮮血で染めた狂気の品だとあの時自慢げに言って――」
「それ以上はやめておきなさいよ! 私の頭の方がよっぽど狂気じゃない!」
レンは顔を真っ赤にしながらツッコミを入れる。
「やはりナイトメアだ」
「うっ……まずナイトメアって呼び方をやめて」
「どうしたのかねー?」
そんな二人のやり取りを見て声をかけに来たのは、一人の錬金術師。
雪合戦で1位を取ったドール使い『なーにゃ』が、黒騎士に声をかけにきた。
「この者はかつて、共に戦った闇の使徒だった」
「なんと。古き友との再会とは、良き瞬間でございますな」
なーにゃは変わらず、肩の力が抜けまくった感じで笑う。
そしてメイやツバメに「いやぁ、どうも。初めましてですな」とマイペースにあいさつ。
メイも「こちらこそっ。よろしくお願いいたしますっ!」と元気にあいさつを返し、ツバメは「初めまして」と丁寧に頭を下げた。
「闇の使徒の職務を残したまま突然の失踪……ナイトメアよ、これはどういうことだ?」
「どうもこうもないわよ。その前に、そろそろ自分の言った言葉に『私何言ってんだろ……?』って思ったりしてない?」
「何を企んでいる」
「……まあ、これで話が通じるようなら私ももっと早く目が覚めてたわね。闇の使徒はやめたってだけ」
「何かやまれぬ理由があるというわけか。どうやらナイトメアには『密命』があるようだな」
「密命? なんでよ?」
確信があるとばかりに言い放った黒騎士に、思わず首をかしげるレン。
すると黒騎士は、メイたちに視線を向けた。
「腕の立ちそうなアサシン、そして顔を隠したフードの者……これが闇に紛れての行動でなくてなんだというのだ」
「す、すごい偶然だわ……っ」
あらためて確認すると、確かにそう見える装備状況。
そのうえレン自体も、装備品は黒ずくめのままだ。
まさかの状況に、たじろいでしまう。
そんな二人のやり取りを見て、のんびり笑うなーにゃ。
「それじゃあそろそろ行きましょうかねぇ。雪合戦で街の空気は分かったけど、フィールドの感じも見ておきたいのだよ」
「いいだろう、約束通り案内しよう」
そう言って歩き出す、錬金術師と黒騎士。
ブンブンと手を振るメイと頭を下げるツバメに、なーにゃも「どもー」と手を振り返す。
「ナイトメア。闇の使徒としての暗躍の先に何があるのか、日をあらためて聞かせてもらうぞ。組織の集まりの中でな」
「間に合ってます」
そう言い残して、黒騎士は立ち去っていく。
「とても個性的な方でしたね」
二人の背を見送りながら、ツバメがつぶやいた。
「闇の使徒を名乗って活動しているプレイヤーの一人よ。一応、一身上の都合により退職しますって告げてあったんだけどね……」
レンは目を虚ろにしながらため息をつく。
「当時から私よりレベルが上だったし、ああ見えてステータスとかスキルの構成なんかも巧みだったけど、トッププレイヤーの子と仲が良かったのね」
「楽しい子たちだったねぇ。レンちゃん、わたしも闇の使徒になれるかな?」
メイはちょっと期待しながら問いかけた。
「わたしの目が黒いうちはさせないわ」
いざとなると目を金色にするレンが、真面目な顔で応える。
「そういえばあの黒騎士さん、なんというお名前なのですか?」
ツバメの問いに、息をつく。
そしてレンは、虚ろな目のまま口を開いた。
「――――黒神リズ・レクイエムよ」
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