247.語る錬金術師
『――――ウェーデン雪合戦、終了時間です!』
盛り上がった雪合戦も、終わりの時間を迎えた。
メイたちは見事に全員生存し、三人並んで民家前の段差に腰を下ろしていた。
「ああー、楽しかったねぇ」
「こういうイベントは自由な感じでいいわよね」
「最後の大雪玉には笑ってしまいました」
大玉を投げて転がしての攻撃。
それを受け止めたり、投げ返したり。
これまで類を見なかった合戦模様に、参加者の多くがわき上がった。
「やはり、皆さんと一緒の『星屑』は楽しい事ばかりです」
「本当だねっ!」
「結局私たちの中では、メイが一番高ポイントだったのかしら?」
「そうなりますね」
早い移動と二刀流投げで稼いだツバメは58ポイント。
スナイパーのような戦い方をしていたレンは41ポイント。
そして前半密集地にいたメイは77ポイントとなった。
なかなかの好成績だ。しかし。
『――――第3位は『エナドリ大臣』! 80ポイント!」
「おおーっ! すごいねぇ」
上位の発表に合わせて、ぱちぱちと拍手するメイ。
『――――第2位は『紺碧侍』! 83ポイント!」
「あの毛皮の子は入ってないのかね」
「時間の大半を大玉軍団との大立ち回りに使ってたからな。ポイント稼ぎの時間がなかったんだろ」
「特別賞があったら、間違いなくあの毛皮フードの子だよな」
大雪玉ぶん投げ隊との熱戦。
結果として多くの参加者を楽しませたメイに、気づいた参加者が声をあげる。
「おーい! 最高に楽しかったぞー!」
「ありがとうございますっ!」
そんな声に、ぴょんぴょんしながら大きく手を振り返すメイ。
「ふふ、顔が分からなくてもメイはこうなるのね。そういえばメイはラフテリアのイベントの時はMVPをもらってなかった?」
「うんっ、それが【猫耳】だったんだよ!」
「猫耳はラフテリアイベントの報酬だったのですか……好判断です」
ツバメは耳装備メイの誕生のきっかけとなったイベントに感謝する。
そんな中、発表される優勝者。
『――――そして1位は『なーにゃ』! 121ポイント!」
「なーにゃかよ!」
「雪合戦になーにゃが来てたんか」
ざわめきが上がる。
一つケタの違うポイント数。
そして何より、その名前には覚えのある者も多い。
「トッププレイヤーが出てたのか……」
表彰式を眺めていた参加者が、感嘆の声をあげる。
『――――圧倒的なポイントでの勝利でした』
「この子たちのおかげですなぁ」
壇上に上がった長い桃髪の少女、なーにゃ。
目立つ装備は、金の紋様が入った黒マント。
16歳だが背は小さく、子供と間違われそうな外見をしている。
かなり力の抜けた雰囲気の少女が呼び出したのは、二体のホムンクルス。
『星屑』では『ドール』と呼ばれるシステムだ。
「おお……本当に二体同時に使うのか」
【錬金術師】が生成使役するホムンクルスは、用途に合わせて『指示』『作戦』『自立』で動きを使い分けることができる。
装備の換装が可能でスキルまで使えるという、どこまでもこだわれる仕様となっている。
そのためハマる人も多く、沼から抜けられなくなる者が続出している状態だ。
そんなこだわりを、二体同時に詰め込めるのはトッププレイヤーならではだろう。
『――――大活躍だったドール。こだわりはどこですか?』
「ッ!!」
運営がドールの話題を振った瞬間。
くたっとした雰囲気の少女が、突然目を輝かせた。
「まずはこっちの『アルカナちゃん』ですな! 衣装や装備はもちろん、髪の長さ、色、房の一つにまでこだわっております! 『星屑』は同じ装備品でも色違いがあったりするから、それを手に入れるために数十日同じモンスターを狩り続けるのも日常茶飯事でございました!」
運営側の質問に「どやぁ」とばかりに応えるなーにゃ。
『――――ええと、それではこちらのドールのこだわりは?』
聞きたかったのはスキル方面だったため、その勢いに若干引きながら問う運営。
「『ヘルメスちゃん』は、とにかく『強いのに可愛い』がコンセプトですな! まずは本体の見た目作成に12時間ほど――」
なーにゃはすぐさま説明を開始する。
「楽しそうだねぇ」
そんなトッププレイヤーの熱い語りを見て、よく分からないけど楽しそうなメイ。
「一番のこだわりどころでしょうからね。錬金術師はドール会を開いてお披露目するのが楽しみみたいなところもあるし」
「……なんとなくですが、レンさんも似合いそうな気がします」
「うっ、まあ確かに『ドール使い』に憧れた時期はあったわね」
黒の装備をまとわせて、後衛である自分を守る攻撃的なホムンクルスを作る。
それは以前、本気で考えていた可能性の一つだった。
「錬金術師は、しっかり構成してレベルを上げたドール二体と一緒に参加すればこれだけの結果が出せるのね」
「すごいねぇ」
止まらないドール話に、熱くなるなーにゃ。
「あれ、何かメッセージが来てる」
そんな中、メイに雪合戦運営から第4位の賞品が届いた。
【蜘蛛の糸】:狙いの地点に射出して物を引き寄せたり、ぶら下がったりが可能になる消費アイテム。
「いいアイテムですね。ちょっとターザンロープを思い出しますけど」
「まあ、大々的に『毛皮マントの正体はメイ!』ってバラされなくて良かったじゃない」
3位に入れば表彰で名前を呼ばれてしまう。
回避できて良かったわね、と笑うレン。
「……このマントを着ての「あーああー!」には気をつけないと……っ」
一方メイはあらためて、毛皮マントで「あーああー」はマズいと自分に言い聞かせるのだった。
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