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235.崖の上には

「本当にきれいだねぇ」

「ずっと眺めていられます」


 メイは広がる雪渓を眺めながら、スキップで雪山を登っていく。

 その足取りに合わせて、尻尾も揺れる。

 長らく膠着状態だったミニゲームで、2年ぶりに記録を更新したメイたち。

 天候の良さもあり、三人はそのまま雪山を進むことにしたのだった。


「わあ! あっち側すごいよ! 崖になってる!」


 山頂までは残りわずか。

 しかし頂上付近は、鉛筆を刺したかのような岩山が突き出している。


「これは途中で落ちたら即死ねぇ」


 鉛筆山を途中まで登ったところで、レンはそーっと下をのぞいてみる。

 切り立った山の崖側は、落ちたら当然死に戻りだ。

 いよいよ剣のような鋭さになってきた岩山には、細道が巻き付くように続いている。

 その道の細さは、壁に張り付いて進んでも不安に感じるほどだ。

 足場は何か所も崩落しており、進むつもりならジャンプで越えていかなくてはならない。


「お前先行けよ、こういうの得意だろ」

「お、押すなって、行くから」

「そうだぞ。絶対に押すなよ、絶対だ」

「前振りやめろ! よし、見てろ……っ!」


 盗賊プレイヤーはそう言って、三歩ほど下がり距離を取る。


「いくぞ! 【ワンステップ】! おらーっ!」


 そして片足でも大きな跳躍を可能とするスキルを使い、そのまま谷底へと消えていった。


「「落ちるの早すぎだろ!」」


 方向をわずかに間違えた盗賊が消えた後、残り二人のプレイヤーもあとに続く。


「【三段跳び】」


 先行の大剣使いは、点在型の足場を早く大きな二度のステップでポンポンと跳躍。

 最後の大ジャンプへと続ける。


「うおっ!」


 しかし三度目の跳躍が、わずかに足場をいきすぎる。

 かかとが岩の先についたものの、滑ってそのまま尻もちを突いた。


「おおおおおっ!!」


 どうにかその場にとどまろうと、慌てて足場にしがみつくが――。


「うわああああああ――――っ!!」


 その手も滑り、谷底へと消えていった。

 残った最後の魔法剣士は、見事に足場から足場への跳躍を決める。しかし。


「あっ」


 空中で気づく。

 今度はわずかに距離が足りてない。


「アアアアアアア――――ッ!!」


 そのまま真っ逆さま、崖下へと落下した。


「ここを進むのはかなり難しいみたいね。先に何かあるのかしら」


 問答無用の落下死ポイント。

 剣のように突き立った雪の岩山は、その外縁を巻くようにして登っていけるな感じだ。

 とはいえ、たまたまそうなっているだけの可能性も捨てきれない。

 ただそれっぽい作りに見えるだけで、途中で『行くも帰るも不可能』になることもあるだろう。


「私がちょっと頂上まで見に行ってきてもいいけど」


 そう言ってレンは、【浮遊】でふわりと宙に浮く。


「わたしも行くよ! 【モンキークライム】!」


 メイは走り出すと、足場から足場へと余裕の足運びで進んでみせる。


「私も挑戦してみようと思います」


 そしてツバメも【壁走り】であとに続く。


「ここを進むのにこれだけ苦労しないパーティ、なかなかないでしょうね」


 もはや足場の必要がないレンが、ふわふわしながら笑う。


「そうかもしれないねっ」


 普段から枝から枝へ跳ぶようなことも余裕でこなしているメイも、全く問題なし。

 そんな中、ツバメは少しわけが違った。


「っ!」


 壁走り後に一度足を着くのがやや難しく、直後にバランスを崩した。


「ツバメちゃんっ!」


 そう言って一つ前の足場のメイが、両手を開く。


「【跳躍】っ!」


 その意図を即座に理解したツバメは跳び、そのままメイの胸元に。


「よいしょっ!」


 跳んできたツバメを、メイはしっかりと抱きとめた。


「助かりました。ありがとうございます」

「いえいえー」

「そのまま、メイに連れて行ってもらえばいいんじゃない?」

「……えっ?」


 まさかの提案に、ツバメはメイに抱きかかえられたまま硬直する。


「りょうかいですっ!」


 ここでメイの【腕力】が活きる。


「【モンキークライム】」


 ツバメを抱きかかえたままでも問題なし。

 メイは余裕で足場を飛び越えていく。


「あ、あの」


 メイに抱き留められて、顔を赤くするツバメ。


「大丈夫! おまかせくださいっ!」


 そう言ってメイは、にこっと笑って見せた。

 ツバメは戸惑っていたものの――。


「……おねがいします」


 そう言ってメイに、しっかりと抱き着いたのだった。


「到着!」


 見事な足運びで、登頂を成功させたメイ。


「あ、ありがとうございました」


 ツバメは顔を赤くしたまま、頭を下げる。

 するとメイは「このくらい問題ありませんっ」と、笑ってみせた。


「メイ、ツバメ、こっちよ」


 先に到着していたレンが手招きする。


「わあ……」


 そこにはさらなる絶景が広がっていた。そして。


「どうしたの?」


 レンがたずねると、うずくまっていた全身ボアの耐寒装備で身を固めたNPC少女が顔をあげた。


「ここまで登ってきたのは良かったのですが……帰れなくなってしまったんですぅ!」


 半泣きのNPCの訴え。

 思わぬマヌケなクエストにレンは笑う。そして。


「それなら私はこの子を連れて【浮遊】で降りようかしら。メイはツバメをよろしくね」

「りょうかいですっ!」

「ええっ!?」


「どうぞ!」と、両手を開いて待つメイ。


「…………し、失礼します」


 ツバメはまだ赤い顔のまま、再びメイに抱き着くのだった。

ご感想いただきました! ありがとうございます!

果たして掲示板勢は、どう動くのでしょうか!

総合掲示板の人たちは特に注視していますからねぇ。「原木……?」となりそうです……!

メイがソリを引く……確かにできてしまいますね! 絵面が面白すぎますっ!


お読みいただきありがとうございました。

少しでも「いいね」と思っていただけましたら。

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― 新着の感想 ―
[一言] メイちゃんがツバメちゃんを抱っこする貴重なシーン……「てぇてぇ」
[良い点] まさかの帰れないNPC少女w これ到達できたプレイヤーも流石に一緒に堕ちそう。 [気になる点] 前3人のプレイヤーは後日動画に上げたいぐらい鮮やか。
[良い点] このまま鉛筆山でダウンヒルですね、分かります。 さっそく原木ボートの出番ですねw
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