203.賑やかなピラミッド
「にぎやかだねぇ」
楽しそうな空気に、メイは思わず尻尾を振る。
ルナイルに現れた、二つ目のピラミッド。
壁画の描かれた出入口から、三人はその内部へと入り込む。
「おらー! 行くぜー!」
「おう!」
ピラミッドにはすでに、多くのプレイヤーが駆け回っていた。
隠し通路探しのため、各所に描かれた紋様に張り付いている冒険者も見える。
まさにゴールドラッシュの様相だ。
内部は思ったよりも広く、各所に置かれた宝珠灯のおかげで視界も良好。
「まずは深部目指して進んでみる?」
「うんっ」
「それでいいと思います」
そんな中メイたちは、メインとなっているのであろう通路を進んで行く。
前後にも複数のパーティがいる状況は、どことなく観光地っぽい。
「……みんなあっちには行かないの?」
そんな中メイが、柱の陰になっている壁を指さした。
そこは他の部分とわずかに造りが違い、押すと扉のように道が開く。
「「「ッ!!」」」
それを見て、付近のプレイヤーたちが目を見張る。
「道が開いたぞ!」
「こんなところに通路があったなんて……!」
「行け! 行けー!」
「うわわわっ!」
探索者たちは、メイの開けた道に我先にと駆けこんで行く。
その勢いに、驚かされるメイ。
「へへ、ありがとよ! お宝は俺が頂くぜ!」
その先頭を行く剣士プレイヤーは、得意げにそう言って駆けていく。
続く道の先には、一つの大部屋。
メイたちが続いて部屋に入ろうとすると――。
「うわっ!」
突然上から扉が落ちてきて、部屋への路を封じてしまった。
「道がなくなったのか、先行プレイヤーたちが閉じ込められたのか……どっちかしら」
「中の状況は分かりませんね」
「でもなんか、騒がしい音がするよ」
三人立ち止まっていると、やがて落ちてきた扉がゆっくりと戻り始めた。
「行ってみましょうか」
「何があったのかな……」
「ドキドキしますね」
メイとツバメは、レンの腕に抱き着きながら部屋の中へ。
中は思ったよりも広く、そこには倒れ伏す冒険者たち。
その中に、先頭を走って行った剣士の姿が。
「おつかれさまです! 先死んどきました!」
「先死んどきましたって何よ」
レンとの掛け合いに、思わず笑うメイとツバメ。
剣士も楽しそうに、笑いながら消えていった。
「楽しい人ですね」
「お祭りみたいな状況だし、すぐリスポーンして戻ってくるんでしょうねぇ……さて」
再び扉が落ち、広い空間が密室になる。
「何が起きるのかなぁ……っ」
メイが尻尾を震わせていると、足元に無数の魔法陣が現れた。
360度、完全包囲の魔法陣。
そこから一斉に上がってきたのは――。
「ミイラだー!」
魔法陣から現れたのは、約30体のミイラたち。
古めかしい武器を抱えた戦士たちが、一斉に牙をむく。
「やっぱりピラミッドと言えば、ミイラの出てくる罠よね!」
「冒険って感じがするよー!」
メイも目をキラキラさせる。
「盗掘者用の罠というところでしょうか。一気に雰囲気が出ました」
各々違った武器を手にしたミイラたちは、がむしゃらに得物を振り回す。
仲間に当たろうがお構いなし。
この勢いと乱舞が、全方位から向けられる。
これが先行プレイヤーたちが壊滅した要因だ。
「よっ」
しかしメイはこれを、数センチのところで回避して反撃。
複数の魔物に囲まれた状態は、かつての日常と変わらない。
「それっ!」
一度の振りで三体という効率の良さで打倒する。
ツバメも左右の短剣による二連撃からの回避という戦い方で、敵数を減らしていく。
「数は多いけど、動きが速くないのは救いね【ファイアウォール!】」
レンは炎の壁で、一部の進攻をせき止める。
「これならどうにかなりそうです」
「でも、どうせなら一気に行きたいわね。道を作ってもらえない?」
「はい! 【アクアエッジ】【四連剣舞】!」
早い水刃の一撃が、道を開く。
するとレンは、部屋の角を目指して走り出した。
「【加速】【電光石火】」
「【バンビステップ】」
露払いはツバメとメイ。
無事に大部屋の角にたどり着いたところで、レンが振り返る。
「それじゃメイ、お願いしてもいいかしら」
「はいっ! おまかせください!」
そして追ってくるミイラたちを待つ。
「レンちゃん?」
レンはメイの両肩に手を乗せたまま、動かない。
「もう少し待って」
じっくりと状況を見定める。
「……レンさん」
「もうちょっと」
ミイラたちは止まらない。
立ち止まったままでいるメイたちのところに向けて、しっかりと集まってきたところで――。
「今ね! それじゃメイ、お願いするわ!」
「りょうかいですっ! 【装備変更】!」
メイは頭装備を【狐耳】に換えて剣を引く。
「それではいきます! 【フルスイング】エクスプロード!」
【狐火】によって、叩きつけた剣から広がる青の豪炎。
ギリギリまで引き付けたミイラたちの全てが、一体残らずまとめて燃え尽きた。
そんな光景を前に、気持ち良さそうにメイを抱きしめるレン。
「こういう状況って、これが気持ちいいのよねぇ……」
「分かります」
集めた魔物を、一撃でまとめて消滅。
さっきまでの惨事が、嘘のように静まり返る。
「おーい! こっちに通路があるぞ!」
余韻に浸っていると、この道を見つけた後続の声が聞こえてきた。
新ピラミッドには、まだまだ新たなパーティが参戦してくるようだ。
「後続が来そうね。私たちも先に進みましょうか」
「いきましょうっ!」
「この道は、一体どこに続くのでしょうか」
ミイラ部屋の奥にはまた、金属製の扉。
定番のミイラ攻めを気持ち良く乗り越えた三人は、続く扉に手を伸ばすのだった。
ご感想いただきました! ありがとうございます!
幸運値が高ければ、スティール失敗でツバメが白目もむくことも減りますね!
そしてメイの知力値が上がる日は果たして来るのか……っ。
お読みいただきありがとうございました!
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