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172.思い出しログインです!

「本当に……ありがとうございましたっ!」


 とにかく感謝感謝のメリー。

 丸っこい鳥を抱えて、はしゃぎながら帰路につく。


「またねー!」


 ブンブンと手を振るメイに、メリーも飛び跳ねながら応える。

 こうして三人は、教えてもらった隠し通路を進むことにした。


「あの絶妙なふてぶてしさ……じわじわくるものがあります」


 ツバメは「良いテイムモンスターです」とうなずきながら進む。

 到達者の少ない18階。

 正当なルートから外れた位置にあるその洞穴は、まだ誰にも気づかれていないようだ。

 木々の根やツルで覆われた道は、隠れ続けていたメリーだから見つけられたのだろう。


「レンちゃん、ツバメちゃん」


 19階へと降る隠し通路を行く途中、メイの言葉で木々の根に身を隠す。

 するとリザードマンたちが、何かの卵を抱えてやって来た。

 洞穴の奥へと進むトカゲたちは、辺りを気にしながら最奥へ。

 三人は少し距離を開けながら、こっそり後を追う。


「わあ……」


 メイが感嘆の声を上げた。

 そこは19、20、21階をぶち抜いて作られたドーム状の空間。

 一面の岩壁。足元はなく、落ちたら即死であろう深い穴からは激流の音がする。

 その広い空間には、魔法陣の描かれた二メートルほどの正方形のブロックがいくつも浮いている。

 リザードマンたちは、すでに最上部にいた。

 いかにも豪華な作りの金ブロックの上に卵を安置すると、下から昇って来た銀色のブロックに乗りかえる。

 そして緑色の輝きと共に、どこかへ転移していった。


「……供え物みたいな雰囲気だけど、あの卵がここの宝ってことかしら」


 ドーム内に唯一せり出した小さな岩の足場には、透明な結晶が突き出している。

 これをレンが杖で叩くと、下から一つのブロックが昇って来た。


「ブロックと結晶を使って、あの卵にたどり着けということですね」

「そういうことなら、【浮遊】」


 レンは浮き上がると、そのまま直に金のブロックを目指して飛び上がる。しかし。


「うわっ!」


 ものすごい勢いでブロックの一つが飛んできた。

 慌てて【浮遊】を解除して着地。

 ブロックはそのまま、岩壁に突き刺さる。


「ショートカットは認めないってことね」


 しかたなく手前のブロックに乗ると、ゆっくり浮かびだす。

 そして数メートル上部にあった、別のブロックに隣接した。


「乗り換えでしょうか」

「まあそう考えるのがふつうね」

「すごい仕掛けだねぇ」


 古代遺跡のような不思議な雰囲気に、メイは尻尾をブンブン。

 新たなブロックは、ドーム中央部分に向けて水平移動していく。

 すると途中で、前から一つのブロックがやって来た。

 そのまま自分たちの乗るブロックと隣接するのかと思いきや、二つはそのまますれ違う。


「待って! これって乗り換えが必要なパターンじゃない!?」


 レンは大慌てでブロックを乗り換える。


「そういうことですか【跳躍】!」

「え、ええっ? 【ラビットジャンプ】!」


 メイたちが乗ってきたブロックは、直進して停止。

 突然浮力を失い、激流の中に落下して消えた。


「……やっぱり」

「レンちゃん! なんかすごいスピードでブロックが飛んで来るよ!」


 メイが指を差す。

 高速で飛来するブロックは、一直線にメイたちのところに向かって来る。


「これは玉突きになりそうだわ! 向こうに飛び乗りましょう!」

「りょうかいですっ!」

「はいっ」


 二つのブロックがぶつかる瞬間、三人は飛んできた方に飛び移る。

 するとメイたちの立っていたブロックは弾かれて、そのまま壁に激突。

 浮力を失って激流へと落ちていった。


「……アクションゲームさながらね」


 メイたちの新たなブロックは、真っすぐ上昇して停止。

 すると今度は、ドーム中央から壁際にかけてを往復しているブロックが隣接してきた。

 壁際にはまた別のブロックがあり、そこに結晶が輝いている。


「あれを起動させろってことなんでしょうね」

「ですが……」


 行き来しているブロックの上部は、赤い結晶の力で燃え盛っている。


「向こうのブロックにたどり着く前に焼けてリスポーンね。高速のHP回復スキルか、炎耐性の装備品なんかがないと厳しそうだわ」


 現れた炎の仕掛けに、悩み始める三人。


「あのブロックの側面に抱き着ければいいのになぁ」

「ふふ。メイの【腕力】なら、つかまるところさえあればできそうね」


 メイの意外な感想に、思わず笑うレン。

 その動きが、不意に止まる。


「ちょっと待って。ぶら下がるのが無理でも手はあるわ」

「どうするの?」

「ブロックだって横面は壁でしょう? ツバメの【壁走り】って『壁に張り付く』こともできたわよね?」

「やってみましょう」


 やって来たブロックの側面に、ツバメはさっそく飛びついてみる。


「……いけます」


 側面であれば、上面の炎は問題なし。

 ツバメはそのままブロックに張り付いたまま移動して、結晶を起動した。

 すると炎のブロックが力を失い落下、代わりにメイたちの乗ったブロックが動き出す。


「ありがとうメイ。いいヒントになったわ」

「いえいえ、レンちゃんよく思いついたねぇ」


 二人は軽くハイタッチして笑い合う。

 少しして二人の乗るブロックは、ツバメのいるブロックと隣接。

 メイたちも、ツバメのいる側に乗り換える。

 するとその直後。


「「「ッ!?」」」


 真上から落ちて来たブロックが、メイたちが乗ってきたブロックに激突。

 ガゴーン! とけたたましい音を鳴らし、そのまま一緒に落下していった。


「あ、あぶなかったねぇ……」


 思わず息をつくメイ。

 三人が乗ったブロックはわずかに上昇すると、再びドーム中央に戻っていく。

 その先には新たな一つのブロック。

 そして二つの結晶。

 左の結晶を起動すると、いくつかのブロックに接近する軌道で移動する。

 ただ、飛び移るには遠い距離を移動して元の場所に戻ってきてしまう。

 右の結晶は一度上昇し、その後さまざまなブロックに隣接する。

 しかしそのどれに乗っても、結局元の場所に戻ってきてしまう。


「これが最後のブロックよ」


 右の結晶を起動し、乗り込む新たなブロック。


「今度は少し軌道が違うね」


 いつもと違う展開に、三人は期待する。

 そんな最後のブロックが、行きついた先は――。


「……まさか、一番最初のせり出しに戻ってくるとはね」


 レンはため息を吐く。

 なんと、このドームのふりだし地点に戻ってきてしまった。


「仕方ないわね、一度夕食に戻りましょう。そのあとまた考えればいいわ」

「そうしましょう」


 こうして三人は一度ログアウト。

 あらためて出直すことにした。



   ◆



「ダメだったね……」


 夕食後の再挑戦。

 しかしどのブロックに乗っても、最上部の金ブロックにはたどり着けなかった。


「仕方ないわ。今夜はもう寝ましょう」


 ログアウトしてきた三人。

 レンは電気を消し、布団に横になる。

 それからしばらく。


「…………そういえば」


 不意にツバメが沈黙を破った。


「炎のブロックをこえた後、上から落ちてきたブロックが激突して二つ一緒に落ちていく部分なんですが……落ちて来た方のブロックが、後で元の位置に戻っていくのを見ました」

「……どういうこと?」

「二つのブロックがぶつかった瞬間、落ちていくブロックの上側の個体に飛び乗ることはできないでしょうか」

「安全なブロックに残るんじゃなくて、落ちて来たブロックに乗って一緒に落ちてみるってこと?」

「自信はないのですが、落ちて来た方のブロックがその後戻って行くのは少し妙だなと思って……」

「…………」


 見つかった、意外な可能性。


「……やってみる?」


 思わずレンが、つぶやいた。


「うんっ!」

「いきましょう!」


 メイは布団を跳ね飛ばすようにして起き上がる。

 そのまま三人は、『星屑』に再突入。

 ツバメの言葉通り、落ちてきたブロックに飛び乗った。

 するとドーム上辺に戻っていくブロックは、そのまま金のブロックの隣に停止。


「ツバメちゃん! ナイスーっ!」

「やるじゃない!」


 正面から抱き着くメイ。

 レンもツバメの小さな背中を抱きしめる。


「あ、ありがとうございます」



【鮮やかな色の卵】:リザードマンたちが洞窟外から盗み取ってきたもの。奪われた親鳥は卵を探し回っている。



 レアアイテムを手にした三人は、「せーの」でハイタッチ。

 銀の転移ブロックで22階の中央部分に到達し、見事踏破したところで気持ちよく就寝となった。

誤字報告ありがとうございます! 適用させていただきました!


お読みいただきありがとうございます。

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