171.リザードサマナー
枯葉をつけた木々が並ぶ森林地帯。
その中でも荒涼とした、開けた草原に立つ一体のリザードマン。
他種よりも一回り大きな体躯を麻のローブに包み、怪しげな雰囲気をしている。
「こいつを倒すことで一段落って感じかしら」
明らかな大物の登場に、自然と杖を構えるレン。
「また、トカゲだあ……っ」
その目を燃やすメイ。
ツバメも静かに武器を構える。
するとローブのリザードマンが、杖を掲げた。
宙空に魔法陣が描かれ、そこから多数の狼たちが飛び出してくる。
「敵はリザードサマナーってところね……っ」
「メリーちゃんをこれ以上、ダンジョンに住ませるわけにはいきませんっ!」
その数の多さを見て、まずはメイが先行。
敵はこれまでよりも早く獰猛な狼。
しかし剣を使ってのシンプルな攻撃は、速く強力。
メイは確実に敵を仕留め、撃ちもらしもなし。
するとリザードサマナーはここで、新たな召喚を開始。
大きな巻き角を持った二頭の山羊、バイコーンが飛び出してきた。
「ここは私が! 【加速】【紫電】!」
対応したのはツバメ。
二頭同時にダメージを与えてターゲットを奪う。
リザードサマナーは召喚を続ける。
新たに現れたのは、大きな黒いヘビが三匹。
その全てが、メリーに向けて突っ込んでくる。
「狙いはあくまでテイムモンスターってことね! ……発動!」
すでに準備を終えていた【設置魔法】が火を噴き、三匹全ての蛇を焼き尽くす。
リザードサマナーの召喚は止まらない。
空中に浮かぶ魔法陣から飛び出してきたのは、深紅の巨鳥。
その口元に、メラメラと炎の輝きが灯る。
「おまかせくださいっ!」
あっという間に狼を片づけたメイが、メリーの元に戻ってくる。
「大きくなーれ!」
手にした『種』をまき、【密林の巫女】を発動。
種はすぐに発芽し、樹木の壁となる。
これによって、迫る炎を遮断。
樹木のバリケードで、見事メリーたちを守ってみせた。
「【誘導弾】【フリーズストライク】!」
すると炎を吐いた直後の鳥を、レンの魔法が吹き飛ばす。
「ありがとうレンちゃんっ!」
怒涛の召喚劇は、それでも止まらない。
足元に現れた二つの大型魔法陣。
大きな斧を持った、見上げるほどの体躯の人型の名はギガース。
手にした斧を振り上げると、強烈な風の砲弾が放たれる。
「きゃっ!」
慌ててメイの樹の後ろに隠れるメリー。
これも見事、樹の幹が盾となってくれた。
この隙に駆けていたツバメは、ギガースの足元へ【加速】で忍び込む。
「【紫電】」
「【フリーズストライク】!」
駆け抜ける雷光で硬直させたところに叩き込まれる氷塊。
体勢を崩したところで、さらにツバメが追撃を叩き込む。
「【四連剣舞】!」
「【フレアストライク】!」
トドメはレン。
こちらも怒涛の攻勢で、ギガースを打ち倒す。
「メリーちゃんっ!」
もう一体が巨斧を【投擲】で放つ。
メイが飛び込みでメリーを押し飛ばすと、巨斧は樹を切り倒した。
「【魔眼開放】【フレアストライク】!」
その隙にレンが放った魔法が、体勢を崩す。
「【四連剣舞】!」
一気にツバメが距離を詰め、追撃。
「【連続魔法】【ファイアボルト】!」
四連続の炎弾で一気に削り切る。
しかし、そこに現れたのは最後の大物。
召喚で呼ばれたギガースの中でも最も大きな個体が、一直線にメリーのもとへ駆けていく。
「きゃあーっ!」
その腕に『ふてぶてしい鳥』を抱えたまま、大慌てで逃げるメリー。
すると走り出した大型は、大きく跳躍。
「と、跳んだッ!?」
その手に斧を持ったまま、予想外の大跳躍。
狙いはもちろん、メリーとその腕に抱かれたテイムモンスターだ。
「ッ!!」
それでもメリーは、抱きしめた鳥を離さない。
迫るギガースから鳥を守るように背を向ける。
一緒に帰れないのなら、ここで死に戻る覚悟だ。
「……メリーちゃんたちは、わたしが守りますっ!」
そう叫んでメイは、斬り倒されたばかりの樹木をとっさにつかんだ。
「いっくよぉぉぉぉ――――ッ!!」
倒木を両手で抱え、そのまま全力で振り回す。
「【フルスイング】だああああああ――――ッ!!」
まさかの一撃は、見事直撃。
【フルスイング】の上位版のみ使用可能となる『オブジェクト』振り回し。
ドガッ! と重たい音を立て、飛び込んで来た大型ギガースを打ち返した。
判定は『衝突』となり、ダメージこそ抑えたものになったが、敵は砂煙を上げて転がり地に伏せる。
「す……ご……っ」
その圧倒的な豪快さに、驚きの言葉が続かないほど唖然とするメリー。
「と、倒木を振り回した……」
「とんでもないですね……」
対して同じく驚きの中にあったレンたちは、『生まれた隙』に気づいて我に返った。
「【電光石火】!」
駆け抜ける一撃で、敵の意識を引き付ける。
直後、起き上がったギガースの叩きつけがツバメに直撃。
しかしそれは残像。
消えたツバメの残像の足元にあったのは【設置魔法】の陣。
燃え上がる炎が敵を焼く。
そこに再び飛び込んで来たツバメは、グランブルーを手にスキルを発動。
「【アクアエッジ】【四連剣舞】」
舞い散る水しぶきに、即座にレンが反応する。
「【フリーズブラスト】」
氷結するギガースの足元。
凍結面積は少なく、生まれる隙はわずか。しかし。
「最後は、まかせてもいい?」
「おまかせくださいっ!」
メイには、それだけあれば十分だ。
この時を待っていたとばかりに、猛スピードで駆け込んでいく。
「【ラビットジャンプ】!」
大きな跳躍から【アクロバット】で一回転。
「いっくよォォォォ……ジャンピング【フルスイング】だああああッ!!」
そのまま全力の振り下ろしで一刀両断。
HPゲージ全損。
見事な連携で、最後のギガースを打倒した。
すると力を使い果たしたリザードサマナーは崩れ落ち、ギガース共々粒子となって消えた。
「どうかな、テイムできた?」
メイが笑顔で振り返ると、メリーは目を輝かせながら顔を上げる。そして。
「ありがとうございましたぁぁぁぁーっ!」
そのままメイに抱き着いた。
「おかげでこの子を連れて帰れます! これからはずっと一緒ですよーっ!」
メリーは大喜びで、メイに抱き着いたまま飛び跳ねる。
「この子をテイムするのが夢だったんです!」
「よかったー!」
抱き着いたまま、何度も感謝するメリーにメイも一緒に飛び跳ねる。
「よかったわねぇ。でも、この子がすぐに戦力になるとは思えないんだけど……無事に帰れるの?」
「それがですね。さすがにテイムは一度してしまえば、リスポ-ンしても没収はされないんです」
「考えたわねぇ」
リスポーン時に『アイテムの類』は『回収費用』としてギルドに没収される。
そこに『モンスター』が入るというのは、確かに妙な話だ。
システムの穴を突いたやり方に、思わず笑うレン。
「それもあって、難易度高めのクエストだったのでしょうね」
大喜びのメリーはレンとツバメにも飛びついてクルクル回る。
そして、思い出したかのようにポンと手を打った。
「そうです! お礼と言ってはなんですが……ずっと逃げ回っていた中で見つけた道があるんです」
その言葉に、メイの目がキラリと輝く。
「……それってもしかして、隠し通路!?」
誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
ターザンロープは危険なアイテムですねぇ。
リザードマンは果たしてどうでしょうか……っ。
お読みいただきありがとうございました!
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