154.最初の難関
「まさにダンジョンって感じですね……」
「本当だねぇ、ドキドキしちゃうよぉ」
きゃっきゃしながら進む、メイとツバメ。
踏み込んだグランダリア大洞窟は、岩場の道から始まる。
薄暗いが道幅は広く、出て来るモンスターもこの時点では弱い個体が多い。
「でも、モンスターと戦ってると方向があやふやになる感じはあるわね」
「【地図の知識】とても便利です」
このスキルのおかげで、マップを見れば現在位置が即座に分かる。
「次の階へ降りる場所はあっちだよ」
これにメイの【帰巣本能】による目的地感知を合わせれば、地図の向きも確定する。
本来であれば、モンスターとの戦いの後に方向に迷うこともあるのだが、三人には問題なし。
襲い掛かって来るスライムの亜種たちを軽くさばきつつ、軽快な足取りで地下へと潜っていく。
「さて、最初の難関と呼ばれる5階の洞穴よ。ここでグランダリア初心者の3割近くが脱落するみたい」
「結構な数ですね……」
一階から続く岩場。
空いたいくつかの洞穴から、正解を見つけて進むという王道の区域にやってきた。
焚かれた火は、松明を作って進めという指示に他ならない。
メイは真っ暗な洞穴を、一つずつじっと見つめる。
「マップでは、一番右の道が正解なんだけど……」
「この道、コウモリがいるね」
「……この位置からもう見えるんですか?」
ツバメは目を凝らしてみるが、とても何かが見えるような明るさではない。
レンも松明を掲げてみるが、まさに一寸先は闇状態だ。
「【暗視】と【遠視】の合わせ技ね。ここはマップにも『落とし穴があるため、気をつけてゆっくり進む』って書いてあるけど……」
「そこにあるよー」
「メイには全部見えちゃってるのね」
「よいしょっ」
迫るコウモリを剣で払いながら、先頭を行くメイ。
「そこは少し大きめの穴になってるから気をつけてね」
そう一言注意して、ゆうゆう穴を跳び越えて行く。
これにツバメも続き、レンは念のため【浮遊】で後を追う。
跳躍スキルがなければ、ギリギリの距離といったところだ。
「……ん?」
大きな穴を飛び越え、簡易的とはいえ退路がなくなったところで聞こえ出した足音。
「前からモンスターがくるよ。数は五匹だね」
【聴覚向上】でいち早く敵襲を聞きつけたメイの【暗視】が、さらにその姿を捉える。
闇に紛れて駆けて来るのは、刃の欠けた剣を手にしたコボルトたち。
狼のような顔をした小柄な二足歩行のモンスターたちは、無防備なメイたちに容赦なく襲い掛かって――。
「【ファイアウォール】」
炎の壁に焼かれ。
「【アクアエッジ】」
水の刃に裂かれ。
「よいしょっ!」
なんかすごく強い通常攻撃に散っていった。
本来、突然闇の中から強襲してくるはずのモンスターたち。
そのうえ背後は落とし穴という、過酷な状況だ。
しかし敵襲が予告されてしまっていたら、もはや防備など必要ない。
準備運動にもならない戦いを終え、三人は余裕の足取りで歩を進める。
するとこれまでのコボルトとは少し違った、杖を持った個体が道の先に現れた。
向けられた杖に、まばゆい輝き。
「魔法が来るわ!」
強烈な冷気が、足元を駆けて来る。
洞穴の内部ゆえに、横方向への回避はかなわない。
やっかいな敵の攻撃に、メイたちは素直に後方へ下がる。
そんな中、一人ツバメは駆け出した。
「【壁走り】!」
しかし冷気は足元から、洞窟の壁を這い上がるようにして登ってくる。
「それならば」
ツバメは【天駆のブーツ】で壁から天井へ。
そしてそのまま反対側の壁へと反時計回りで走り、迫る冷気の波を見事回避。
「【電光石火】」
着地した敵の懐から背後へ抜けていく、高速の一撃で勝利した。
「かっこいいー!」
アサシンらしいアクションに、思わず交互に拳を上げてよろこぶメイ。
「あ、【投石】っ」
初めてダンジョン攻略に来たパーティの3割ほどを振るい落とし、レベルのあるパーティでも精神的な疲労を負わされる5階の難関。
プレイヤーたちを容赦なく攻撃する、やっかいなコンビネーションたち。
その最後に置かれた毒の設置弓も、メイの投げた石にあっさり破壊された。
「こういうところって、冒険って感じがしてワクワクしちゃうねえっ」
「本当ですね」
楽しそうに笑うメイたちは、まるで足を止めることなく6階へと進んで行くのだった。
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