1463.重鎮石を運びます!
「足元の銀の湖が、明灰色の石になりました……」
採石場の湖は、叩けばその銀の液体が白灰のような色味の石に変わる。
メイが力いっぱい叩いた瞬間広がった石化の波は、直径数十メートルの範囲を一気に個体に変えた。
「これって後衛がやると何度も叩くことになって大変ね」
「異世界らしい、変わった素材の出方ですね」
「ふ、踏み出しても沈みません……!」
どうやら沿岸は湖底まで石になっているらしく、割れて落ちるようなこともない。
四人は思い切って湖面を歩いてみるが、その足もとはしっかりと硬くなっている。
「これなら橋の資材になるね!」
「この状況からまた、叩いて割るみたいよ」
「りょうかいですっ! せえええのっ!」
そう言ってメイは先ほどのハンマーを抱えて、力いっぱい振り下ろす。
「それええええええ――――っ!」
するとレンたちがわずかに浮き上がるような衝撃が駆けた後、傷一つなかった【重鎮石】の足場に綺麗なヒビが入っていく。
「あとはこれを、荷車に運ぶ形ですね」
さっそく四人は、綺麗な白灰色の石材を抱えて荷車へと運ぶ。
砕け方はまちまちだが、メイは大きな塊を持って往復。
四人でせっせと【重鎮石】を運んで、荷車をいっぱいにしてしまう。
思った以上の山盛り具合には、感じる重みもなかなかのもの。
だが馬は、特に気にした様子もない。
「これくらいでいいかしら。足りない分だけでいいってことだし、その補充には十分なんじゃないかしら」
見れば一度取り出した石はそのままだが、液体と接触している部分はドンドン銀色に戻っていっている。
「……レンちゃん、もう一回叩いてみてもいいかな?」
「楽しかった?」
「えへへ」
【重鎮石】の補充としては、十分な量を手にしたメイたち。
だがこの銀の液体を叩いて固体化するというのが、なかなか面白い。
少し様子を見て、もう一度湖が一面の銀色に戻るまで待つ。
そしてメイはあらためて、水際へ。
「いきますっ!」
【腕力】上げのバナナを三つほど食べて、ハンマーを掲げる。
そして今度は力いっぱい、スキルを使って振り下ろす。
「せーのっ! 【フルスイング】だああああ――――っ!!」
オブジェクトも全力で振ることができるようになる【フルスイングⅢ】の効果を使っての、全力叩きつけ。
「「「っ!!」」」
しかし今度は思ったより石化範囲が広がらない。
「……あれっ?」
その代わりに白灰色ではなく、やや濃い色味の灰色になった。
「どういうことかな……?」
メイが首を傾げる。
「とりあえず、その石を見てみましょう」
拾い上げた濃灰色の石は、先ほどのものより目が細かくしっとりとした光沢感がある。
「一応、持って帰ってみましょうか」
詳細については、【鑑定】ができるプレイヤーに任せるのが良し。
四人は新たに『濃い石』も馬車に積んで、帰路に就こうとするが――。
「さて、このまままっすぐ帰りたいところだけど……」
「そうはいかないようですね」
四人の視界に映るのはまたも、見たことのない魔物。
間違いなく、異世界特有の種類だ。
「尾が、つながっていませんか?」
現れた魔物の体躯は、1メートルほどだ。
黒い毛皮をまとった大きめの猿のような姿に、天を突く二本角。
悪魔のような顔もそうだが、何よりつながった3メートルほどの尻尾が特徴的だ。
つながった二体の黒猿は、ゆっくりと並んで接近。
そのまま同時に駆け出した。
「【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」
レンはすぐさま牽制攻撃に入るが、二体の黒猿は見事な動きでこれを回避しながら接近。
「速いです……っ!」
その速度に思わず感嘆するツバメ目がけて、攻撃体勢に入る。
「っ!」
一体目の低空跳躍による突進をかわすと、即座に二体目の黒猿がさらに速い【弾丸跳躍斬り】で迫る。
「くっ!」
恐ろしい早さの一撃は見事に、ツバメの肩を斬り裂いていった。
「【バンビステップ】!」
だがその瞬間を狙って、メイが動き出していた。
【弾丸跳躍斬り】による攻撃に成功し、着地したところを狙う形だ。
「【フルスイング】!」
メイの走り出しは見事で、タイミング的に回避は不可能。
放たれた一撃が、直撃しようとしたその瞬間。
「ええっ!?」
なんと最初の特攻をかわされた方の黒猿が回転して、尻尾を引いた。
すると二体目の黒猿が引っ張られて動き、メイの振り降ろしの範囲から脱出。
地面を叩いた一撃が、猛烈な土煙を上げた。
一体目の黒猿は止まらない。
なんと引っ張った二体目の黒猿をそのまま振り回し、メイに叩きつけに行く。
見れば一体目の放った魔力が尻尾を伝わり、二体目に伝播している。
「【アクロバット】!」
【フルスイング】は基本スキルのため、硬直は僅少。
メイが早いバク転で回避すると、二体目が振り下ろした魔力を秘めた爪が地面に炸裂して、再び土煙を巻き上げる。
「初めて見る攻撃だーっ!」
そのめずらしさに、楽しそうに驚くメイ。
「まだよ!」
晴れていく砂煙。
なんと爪攻撃を外した二体目の黒猿が、今度は起点となって回転。
それに振り回される形で、弧を描きながら飛んできた一体目の黒猿が、魔力を灯した爪を振り払う。
「うわっと!?」
砂煙の隙間から出てきた一撃に、メイはスレスレでの回避となった。
「【低空高速飛行】!」
ここで後方から迫るのはレン。
気付いたメイはすぐさま後方へ跳び、ツバメも場所を空ける。
「つながってるから連携が上手で動きも特殊、でもつながったままでの回避はどうかしら!? 【フレアバースト】!」
放たれる爆炎。
対して黒猿たちも慌てることなく、大きく並んで後方へ跳躍。
爆炎によるダメージを回避してみせた。しかし。
「今です!」
ツバメがおおよそで投じていた【雷ブレイド】の一本が、黒猿の片方に直撃。
つながる尻尾の不利は、同時に感電してしまう事だ。
「【裸足の女神】【フルスイング】!」
即座に最高速で飛び込んで来たメイの振るう一撃が、今度こそ一体目の黒猿を叩き飛ばした。
それに巻き込まれる形で、二体も同時に地を跳ね転がる。
「お、お見事ですっ!」
思わず声を上げるまもり。
予想通り、起き上がったのは片方のみ。
これなら一体目は単なる重しになってしまうため、戦況は一気に変わってしまうが――。
「「「「っ!」」」」
なんと一体目が起き上がり、消し飛んだはずのHPゲージも回復。
戦闘開始時と同じように、並んで構えを取った。
「また、簡単には倒れないタイプの敵ですか……!」
「もう一方が本物ってことかしら」
「ほ、本体の方を戦いないと、いつまでたってものパターンかもしれませんね。気を付けましょう……っ」
「りょうかいですっ!」
四人は、『本体』であろう方を注視する。
そして再び、戦いが始まった。
『メシマズ大国の料理店~キッチン・みけの店ごと英国転移譚~』第2章開幕!
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