1378.動き出す各勢力
各所が大慌てになった、降臨祭クエストの翌日。
騒動の余波か、今もどこか浮足立った雰囲気のある聖教都市アルティシア。
神官NPCたちが持ち込んで来た新たなクエストに、光の使徒たちは騒然としていた。
「魔神の復活だって!? 全てはこのためだったのか!」
「やはり、闇の使徒が裏で動いていたのだな!」
「天使を討ったあの血のような剣は、どう考えても魔のものだ!」
天使の打倒により面目を潰された光の使徒たちは、怒りの炎を燃え上がらせている。
一方暗殺などのクエスト等を受け持つ暗き界隈にも、同様のクエストが生まれていた。
静かにこれを受けた闇の使徒たちが、鋭い視線と共に動き出す。
「何者かが背後で動いているのは間違いない。必ず光の使徒より先に捕えて、その鼻を明かすんだ」
「だが光の使徒による自演の可能性が、高いことも忘れるな」
闇の使徒たちも、静かな闘志を燃やしながら暗い館を出る。
小競り合いを続ける二つの組織は、こうして再び真実の解明に動き出した。
◆
「悪魔と天使を生贄にした、魔神の復活ねぇ……」
「あれだけの規模のクエストが、まさか一つの大きな展開の前座に過ぎないとは……」
「すごいねぇ」
メイたちは闇を継ぐ者の基地で、マネージャーが持ってきたクエストの概要を詰めていた。
「今回のクエストは他の受注者と合同で戦闘を行ったり、連絡を取り合ったりしても問題ない。それだけの大事だからな」
「確か聖教都市の中枢や、闇の界隈なんかでもクエストを受けられるって言ってたわね」
「その場での協力が許されるのですね……そうなると、どれだけの規模の戦いになるのでしょうか?」
「そうだな……魔神が目覚めるとなれば、中央大陸を広く巻き込むことになるだろう」
「「っ!?」」
マネージャーの言葉に、驚きを見せたのはナイトメアとまもり。
「どうしたの?」
「中央大陸ってことは……ラフテリアも範囲に含まれるじゃない」
「ええええ――っ!」
「それは困りますね」
まさかの事態に、メイが悲鳴を上げた。
いつも五月晴れが待ち合わせ場所にしている、港町ラフテリア。
青い海と空が名物の明るい海の街は、七年のジャングル生活を終えたメイがクク・ルル村を出て、最初にたどり着いた街でもある。
そして今ではすっかり、五月晴れの活動拠点だ。
「魔神たちの復活ってなると、太陽が遮られて暗くなったり、そもそもずっと夜のままだったりみたいな変化かしら。最悪の場合は破壊と崩壊……それはちょっと御免こうむりたいわね」
「太陽の当たらない世界はRPGで稀に見られる演出ですが、それがラフテリアのような街を巻き込んでしまうのは避けたいです」
「はひっ」
これにはまもりも、ブンブンと大きくうなずく。
まもりにとっては、堤防で四人並んで飲み食いする瞬間は、とても大切なものだ。
さらに大型クエストの関連地域はNPCの会話や依頼だけでなく、物語が進むことで街の雰囲気そのものが変わってくる可能性がある。
それはクエストを達成することでようやく復帰が始まるという、花の都フローリスのような形式だ。
「各所から出ている依頼で、三体の腹心の召喚場所はおおよそだが明らかにしているはずだ。そして闇を継ぐ者がつかんでいるのは一体のみだ」
どうやらどこでクエストを受けるかで、得られる腹心の出現情報は違っているようだ。
「腹心たちは必ず最後には一か所に集まり、魔神の召喚を行う。そして三体の内、二体を倒せばもう召喚の儀は行えない。そうなったらあとは残った一体を全員で叩くだけで良い。この流れなら、問題なく魔神の召喚を止め危機を救うことができるはずだ。対して暗躍者は、この二体を残すために動くことになる。どこかでぶつかる可能性も高いから、気をつけてくれ」
「りょうかいですっ!」
クエスト規模の大きさと、ラフテリアの危機。
すでに気合の入っているメイは、尻尾と耳をピンと立てて応える。
「まずはとにかく、私たちが得た情報をもとに一体目の腹心の召喚を止める、もしくは叩く形ですね」
「その後に、別のチームのもとに加勢に行くのが良さそうね」
流れが決まり、うなずき合う四人。
「中央大陸を、ラフテリアを守りましょう!」
「もちろんです!」
「はひっ!」
「それでは、いってきます!」
メイたちはすぐに秘密基地を抜け出し、屋根の上へ。
そしてそのまま、腹心が召喚されるという町に向けて動き出した。
「…………時が来た」
そんなメイたちが動き出したのを、じっと見つめていたフード姿のプレイヤー。
駆けていく五月晴れの背中を見送った後、ゆらりと立ち上がる。
「五月晴れが向かったのは西南。それなら、まずは……」
静かに歩き出す、フード姿のプレイヤー。
その方向は意外にも、メイたちとは離れることになる東南に向けてのものだった。
そしてその先には、同じく腹心の動きを阻止しようとする使徒たちが向かっている。
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