1375.降臨祭の終幕
天使の降臨に、今も盛り上がっている聖教都市。
そんな中、舞台の前で倒れ伏す九条院白夜。
突然向けられた凶刃は確かに、光の使徒長を討った。
「……そんな。光の使徒の装備で、紛れ込んでいたなんて」
隣に来た時に、確かに少し疑問はあった。
だがレクイエム戦の前には共に戦っていたという記憶と、対クエストの停止で気が抜けていたのか。
刺された真紅の短剣は、白夜のHPを全て吸い取ってしまった。
「白夜様! どうされたのですか!?」
「なぜ、HPが!?」
今も続く楽隊の音楽と、司祭たちの祝詞。
そして大きな翼を広げた天使の姿に、誰もが目を奪われている。
「早く、あの人を捕まえてください! あの刃は……おそらく!」
倒れたままの白夜が指差す先には、一人天使のもとへと歩き出す使徒。
理由は分からないが、光の使徒たちは走り出す。
だが謎の使徒はその歩みを早め、そのまま天使の前へ。
「なんだ?」
突然やって来た謎の人物に、誰もがそう疑問を抱いた瞬間。
謎の使徒は真紅の刃を突き出し、魔力が天使を貫いた。
「「「っ!?」」」
駆けつけてきていた光の使徒が、驚愕に混乱する。
光の使徒と変わらない装備をまとったその人物の凶行は、あまりに予想外。
直後、天使の全身に走り出す漆黒のヒビ割れ。
成す術もなく、天使は弾けて光の粒子に変わった。
「「「あ、ああ……」」」
「「「ああああああああああ――――っ!!」」」
凶行を目撃した者たちが、盛大な悲鳴を上げる。
光の爆発と共に大量に飛び散る、光を灯した白羽。
まさかの事態は伝播し、楽隊が演奏を、司祭たちが祝詞を止めて腰を抜かす。
続けて上がる悲鳴は、聖教徒たちのものだ。
「あ、貴方は……一体」
フードをかぶったまま振り返った謎の使徒に、伏せたまま白夜が口を開く。
一方屋根の上から様子をうかがっていたワイルドは、驚きの表情を見せる。
「ええっ!? クエスト失敗だったの!?」
「そのようなことはないはずだ。確かに闇を継ぐ者は、一つのクエストを達成している」
「『闇を継ぐ者』としては、ルナたちに勝ったところまで。また別動のクエストも同時に動いていたってことじゃないかしら」
「そうですね。私たちの目的は天使の打倒自体を止めることではなく、あくまで魔法陣による攻撃を止めるものでした」
「別枠で、天使自体を討つクエストがあったんだろうねェ」
これで、降臨祭自体は潰された形になる。
そうなればもちろん、その場に残る謎の使徒を放っておく理由はない。
「逃がすな! ここで捕えて叩くんだ!」
「【セイントアロー】!」
即座に始まる攻撃は、白夜と共に戦っていた光の使徒によるもの。
謎の使徒はこれを、わずかな足さばきでかわす。
「はあああっ!」
続けざまに飛び込んで来た前衛使徒の剣撃も、しっかりとしたステップで回避。
「【聖光刃】【ローリングソード】!」
払いの大きな一撃をかわした後、その手に突然『日傘』を取り出した。
黒のレースで作られた日傘を、謎の使徒が一閃する。
「く、ああああっ!」
すると生み出された魔力の黒刃が、前衛使徒を斬り飛ばした。
「【ディバイン・レイ】」
だが攻撃性能の高い一人のプリーストが、この瞬間を狙っていた。
短杖から放たれるのは一直線に飛ぶ、超高速の閃光。
聖なる光線は、光の尾を残しながら謎の使徒を貫かんと疾走。
そのまま謎の使徒に直撃する。しかし。
「っ!?」
謎の使徒が優雅に日傘を開くと、その表面に当たった光線は撥水加工の傘に流した水のように弾かれ消えていく。
付近の光の使徒たちが二の足を踏んだところで、傘を肩にかけるような形で差す。
それから空いた手に取り出すのは、一つの宝珠。
「さようなら」
天使を討つクエストは仕事を全うした後は、自然と『包囲網』の中に残されることになる。
当然そんな状況から逃れるためのアイテムくらいは、用意されている。
手にした宝珠を輝かせると、謎の使徒は瞬間移動で舞台から消失。
そして『任意の場所』に移動できるその宝珠で、向かった先は――。
「「「っ!?」」」
いつの間に気づいていたのか、闇を継ぐ者たちの目前。
突然の登場に、思わず全員が硬直する。
しかし謎の使徒は動じることもなく、振り返って置き去りになった光の使徒たちを一瞥。
それからこちらをあらためて確認すると、六人の合間を優雅な徒歩ですり抜けていく。
「――――時が……来た」
ベリアルの真横で、そう言い残して。
「また、こういうの……?」
その中二病エンジンのかかりっぷり、そして自分に向けて言ったかのようなセリフに、ベリアルは即座に白目をむく。
一方スワローは「ほう……」と感心し、ワイルドは「おおーっ!」と歓喜。
闇を刺し、光を討った謎の使徒は、そのまま消えていった。
この壮大な展開を巻き起こした張本人は、もうその影すら見られない。
残された聖教都市アルティシアは、街のイベント自体を巻き込んだクエストの終わり方に、今も騒がしさを残したままだった。
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