1374.降臨の時
「どうにか……闇の使徒を抑えることができましたわね」
リズをギリギリのところで退けた白夜は、大きく息をつく。
「五月晴れと共に紅の翼として行動することで得た経験値、戦い方を参考にしていなければ、負けていましたわ……」
残りHPは驚異の1ケタ。
従魔ラグナリオン共々、壁にぶつかっただけで死に戻るほどの状態だ。
まさに紙一重の勝利を飾った白夜は、降臨の舞台へと駆け戻る。
街を覆っていた妖しい気配は、もうなくなっている。
これは聖教都市に集まっていた魔力による攻撃を、抑えられたと考えていいだろう。
「魔法陣自体は……また別のクエストで誰かが止めてくれたと考えるべきですわね」
鋭い白夜は、他にも動くパーティの気配を察知。
それが闇を継ぐ者だとは気づいていないが、感謝の念を抱きながら会場へ。
「白夜さま、ご無事ですか?」
「どうにか、と言ったところですわね」
やってきたフード付きローブの使徒に続けて、集まってきた光の者たち。
「とにかくこれで、儀式は滞りなく行うことができますわ」
数人の使徒と共に、白夜は舞台の前へ。
見れば舞台を取り囲むように立つ聖教騎士は、その数を大きく増している。
さらに司祭たちによって『結界』を思わせる光の壁まで展開され、その防御態勢は完璧。
これはもう、外部からの攻撃は不可能だというゲーム側の『表明』だ。
「始まりますわね」
舞台前の良い位置につけた白夜は、始まる降臨祭に視線を向ける。
続く司祭たちの祝詞に合わせて、止まっていた降臨の輝きが増していく。
神々しい光の粒子と共に生まれる、天使の梯子。
夜の聖教都市に生まれる光景は、とても美しい。
「これは本当に、すごいクエストになったわね」
「本当ですね。とても壮大です」
少し離れた屋根の上、闇を継ぐ者の面々は舞台を眺める。
「降臨の儀か、後学のために見ておくとするか」
「僕はあんまり興味ないなァ」
スキアとクルデリスも、その視線はしっかり舞台に向いている。
「ワイルドはどうだ?」
「そうだな……興味津々とでも言っておこうか」
「ふ、ふふっ」
クールキャラなら『興味深い』が程よい選択だろう。
そこを素直に『興味津々』と言ってしまうところに、スキアは笑みを隠せない。
そしてもう自分からメイの『おかしなキャラ付けを聞きに行っている自分』に、また笑う。
「ねえ、このポーズじゃないとダメなの?」
そして黒づくめ衣装のまま、いかにも秘密組織といったポーズでいるワイルドたちに、白目をむくベリアル。
各々が、楽しく待ち時間を過ごしていると――。
「き、きますっ!」
シールドが声を上げた。
司祭の祝詞に合わせて、楽隊が鳴らす荘厳な音楽。
すると光が一層強まり、やがてプリズムを思わせる虹色の輝きと共に広がる黄金光が、視界を埋め尽くす。
「「「おおおお……」」」
その光景を目にした者たちは皆、感嘆の声を上げる。
広がる大きな白い翼。
純白のローブを揺らす、神々しい天使の降臨。
その輝きに、舞台の周りが昼間のように明るくなる。
「「「おおおおおおおお……っ」」」
大きくなる歓声。
ワイルドもポーズこそ決めたままだが、尻尾が楽しそうに振るえている。
「やりましたね、白夜様!」
「ええ、無事に降臨の儀を成すことができましたわ」
面子を賭けた儀式の成功と、闇の使徒への勝利を喜ぶ光の使徒たち。
楽隊が鳴らす美しくも壮大な音楽に、誰もが夢中になる。
そんな中で、一息ついた白夜。
「…………ん?」
不意に覚える違和感。
それは、自分の隣に並んでいるフード姿の使徒についてだ。
白夜は光の使徒の面々を見れば、誰か分かるくらいには顔を覚えている。
だが、レクイエムとの戦いを終えて戻ってきた自分に「白夜さま、ご無事ですか?」と声をかけてきた、この人物は誰だったか。
記憶を振り返るが、どうしても覚えがない。
「少しよろしいですか?」
白夜はその視線を右隣りに向け、問いかける。
「貴方、一体どこから来たのですか――――」
そう言いながら、振り向いた瞬間。
「っ!?」
その腹部に、小型の赤刃が突き刺さった。
「貴方、な、にを……?」
謎の使徒の一撃は、まるで血でも吸うかのようにHPを一瞬で吸収。
レクイエムとの戦いでHPを1桁まで落としていた白夜は、まさかの凶刃に倒れる。
突然ヒザをついた白夜に、首を傾げる一部の光の使徒。
「白夜様?」
「白夜様? どうされたのですか?」
降臨のまばゆい光と、鳴り響く聖歌の中で広がる困惑。
異変に気づいたのは、偶然違和感に気づいたごく一部の光の使徒のみ。
「白夜様! 一体何がっ!?」
問いかける光の使徒たちに、倒れたままの白夜がつぶやく。
「追って……あの使徒を、追って……おそらくあのプレイヤーの狙いは……天使」
「あの光の使徒の狙いが天使!? それは、一体どういうことですか!?」
フードをかぶった光の使徒らしき少女は、降臨の舞台に足を踏み出していた。
止める者はいない。
なぜなら、異変の震源は降臨祭の中心地。
そして踏み出した何者かは、どう見ても光の使徒。
外部への警備が厳重だからこそ、その内部で起きる事件は『イベントの一幕』と思われてしまう。
そのため初動は、大きく遅れることになってしまった。
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