1372.光と闇
月夜の聖教都市アルティシア。
影の路地裏を進むのは、黒い全身鎧をまとった暗黒騎士。
闇の使徒を率いるその者の名は、黒神リズ・レクイエム。
「どちらへ行こうとしていますの?」
三角屋根の天辺から問いかける白のコートは、九条院白夜。
レイピアを片手に、金色の長い髪を揺らす。
「降臨祭の舞台だ」
「儀式の邪魔は、させません」
「ならばこの瞬間までに、悪魔討伐の犯人を捕らえて差し出すべきだったな。この状況では天使を討たなければ、闇の使徒の面目が立たない」
「降臨の舞台周辺には騎士が無数に控えています。どうにかできるとは思えませんけど?」
「気づいているだろう? この街には今、大量の魔力が駆けめぐっている。この【魔力宝珠】で全てを集結し、放てば良いだけだ」
刹那たちが魔法陣によって生み出した魔力の流れは、そのルートでの進行が失敗しても使い道がある。
それは集まっている魔力を使って撃つという、単純なやり方だ。
「これ以上は、進ませません」
「ならば止めて見ろ、光の使徒を束ねし者よ」
大きな黒い剣を抜き払うリズ。
白夜はふわりと屋根を飛び降りていく。
華麗な着地。
そして、光闇の戦いが始まる。
「目覚めろ【暗夜剣】!」
先手はリズ。
迫り来る、三日月形の闇波動。
走り出した白夜はこれをかわしながら接近。
「【闇十字】!」
続けて暗夜剣で十字を切れば、迫る十字型の波動。
「【エンジェライズ】!」
白夜は背中に小さな翼を生み出し、加速を向上。
『く』の字を描く軌道でかわしつつ、反撃の態勢に入る。
「【エーテルジャベリン】!」
浮かぶ6本の光槍を、次々に展開。
しかしすぐには使用せず、そのまま直進してレイピアによる連続突きを放つ。
これを足の遅いリズは丁寧に回避し、反撃の隙を狙う。
ここで続けざまに放たれる光の槍。
リズはこれも回避するが、3本の光槍が鎧を削っていく。
「【エーテルライズ・エクステンド】!」
小さな翼を広げて、白夜は一気に接近。
相手の剣が直接届かない位置で放つスキルは、足元から登る10本の光槍。
リズは無理をすることなく、防御で対応。
削られはしたが、戦いの優劣を決めるほどではない。
「【暗衝】!」
距離が近接。
ここで一気にリズが、足元に黒色の波動を残しながらの突撃を移動利用して接近。
大きな剣の振りで攻撃。
振り降ろしを横移動でかわした白夜は、放たれた振り払いをバックステップで回避する。
そして下がった反動を利用して、反撃の突きを狙う。
「【黒閃天衝】!」
しかしリズの強く踏み出した足が、地面から黒光の槍を一斉につき上がる。
直撃こそ避けたものの、脚をしっかり斬られて白夜のHPが削られた。
反撃を先んじて潰すこの攻撃は、なかなかにやっかいだ。
「【エーテルジャベリン】!」
体勢の崩れが少なかったためリズは追撃を行わず、白夜はすぐさま光槍を展開。
即座に放出してリズを攻撃した。
するとリズは無理をせず、防御を選んだ。
「【エンジェライズ】!」
すぐさま特攻し、放つのは強力な『崩し』スキル。
「【エーテルランス・スキュア】!」
「っ!」
光の大槍は、敵を磔にする防御不可の一撃。
もらってはいけない攻撃を、リズは決死のローリングで回避した。
「【ライトニングスラスト】!」
だが当たろうと外れようと次の攻撃は、高速飛行刺突。
どちらであれ体勢を崩している状態では、厳しい流れだ。
リズはさらに飛び、再び転がることでどうにかこれを弾かれるにとどめた。
「まだっ! 【エンジェライズ】!」
当然白夜は追い、レイピアによる攻撃を狙いに行くが――。
「【黒炎魔手】!」
振り払う腕から広がる闇の炎が、辺りを燃え上がらせる。
「きゃあっ!」
カウンター気味に喰らった白夜は大きく転がり、慌てて顔を上げた。
「【暗夜剣】!」
「っ!」
飛来する三日月型の波動を、慌てて避ける。
「【闇十字】!」
続く十字の波動は、かわし切れずに削られた。
「【暗衝】!」
するとリズは、距離を詰めてきた。
その手に持った大剣が、ギラリと鈍い輝きを閃かせる。
白夜は大きなバックステップから慌てて後方へ【跳躍】し、近距離主体のリズから距離を取る。しかし。
「堕ちろ天使――――【暗夜の大剣】!」
大きな回転斬りは、付近一帯を薙ぎ払う一撃。
「きゃああああ――っ!」
大剣は着地際の白夜を捉えて、吹き飛ばした。
追撃するには遠い距離。
リズは静かに大剣を降ろし、再び構えを取り直す。
「やはり単純な近接戦闘では、不利ですわね……!」
最初こそ削り合いの感じだったが、今は白夜の方が押される形だ。
回避能力が低いため、削られることは覚悟済み。
その上で高ダメージになるものは全力で回避し、手数の多さで優位を取る。
そして隙があれば、大技で勝負をつけに行く。
リズの戦いは、見事というほかない。
「仕方ありません!」
ここで白夜は戦い方を変え、騎竜を呼び出すことにした。
「ラグナリオン!」
呼べば見事な黒竜が、大空から飛来。
滑空して来た従魔に、白夜は華麗に飛び乗った。
そのまま見事な旋回を見せて、夜空に舞い上がる白夜。
「対空の戦いか」
対してリズは剣と盾を持ち、その場にどっしりと構える。
すると白夜は黒竜の翼を一度大きく開き、そのまま攻撃指示を出す。
「【紅蓮砲弾】!」
放つ三連続の炎砲弾は大きく、火力は間違いなし。
「【エーテルジャベリン】!」
さらに光の槍を展開し、白夜は滑空の態勢に入る。
回避しても防御しても、続けざまの攻撃で突破する。
それが白夜の狙いだ。
まずは迫る三連続の大炎弾から。
「【灰燼の剣】」
リズは片手で持った大剣を、迫る炎弾に振り下ろす。
すると盛大な火の粉と共に、弾けて散った。
さらに振り上げ、そして回転しながら放つ払い剣撃。
リズの大きな剣ではやや扱いの難しい新スキルだが、剣の大きさゆえに当てやすく、炎弾は全て斬り払われてしまった。
「ですがっ!」
ここで放つ六連発の魔力槍。
この速度で剣を振るうことは不可能だ。
必ずここで回避か防御に回ることになる。
そう踏んでの攻撃に対して、リズは【黒威の大盾】を構えて対応。
「【妖炎】」
燃える妖しい炎が、魔法攻撃を相殺する。
だが、それでも白夜は止まらない。
そのままリズの数メートル手前まで接近し、ラグナリオンに攻撃を指示。
「【シャインブレス】」
ラグナリオンが放つのは、駆け抜ける閃光。
ビームのような白光が、一直線にリズに向けて飛来する。
「――――【絶掌】」
するとリズはさらに、剣を降ろし空いた手を突き出す。
そして掌で光線を受けると、そのまま握り潰してみせた。
「全ての攻撃に……対応し切った!?」
そのまま真横をすれ違っていった白夜は、驚きながら大きく旋回。
「【紅蓮砲弾】!」
再び火炎弾でけん制ながら、一気に距離を詰める。
遠距離攻撃への対応が良いのであれば、違う手を打つだけだ。
リズが【灰燼の剣】で再度、火炎弾を斬り払ったところを狙って、二手に分かれて特攻を仕掛ける。
「【ツインストライク】!」
「……牽制が甘い。【黒炎魔手】」
しかしリズは火炎弾を斬り払った直後に、火炎の爆発を起こしてラグナリオンを弾き飛ばした。
手を払う攻撃の出の早さが、大きく活きた形だ。
「【闇十字】」
「っ!」
さらに一拍おいて【ライトニングスラスト】を狙っていた白夜に、先んじて十字波動を放出。
「きゃあっ!」
あまりに見事な反撃を受けて、白夜は派手に地面を転がった。
「これだけの攻撃に全て対応するとは、驚きですわね……」
どうにか手を突き、息をつく。
リズはほとんど、その足を動かしていない。
不動の対応は、まさに鉄壁だ。
「ですが……」
白夜は立ち上がり、再びラグナリオンを呼び寄せる。
「申し訳ありませんが、レンさん以外には負けたくありませんの」
「ふん。ヤツを追従できるのは、このレクイエムだけだ」
ぶつかる白夜とリズ。
そんな会話に、レンが謎の寒気を感じて白目を向いたことを、二人はもちろん知らない。
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