1366.演武のフリをします!
見習い司教との、【聖水】作りを終えたメイたち。
「ありがとうございましたーっ!」
六人は教会を出て、そのままパレードに復帰。
天井飾りのついた馬車のところまで駆けていくと、【聖水】をメイにパス。
「それーっ!」
投じれば見事に十字架に直撃して、刻まれた呪いの『逆さ五芒星』が煙を上げて消える。
この瞬間を騎士たちも見ていたが、修道服で水を撒くのはこのパレードの催しの一つ。
もちろんお咎めなしだ。
「これで降臨祭会場への呪具の持ち込みは、全て防いだ形だな」
「なかなか緊張感あるクエストだったねェ」
降臨時に呪いを起動して潰すというやり方は、これでもう不可能だ。
六人集まって喜び合う。すると。
「……ん?」
『闇を継ぐ者』への伝書カラスがレンのもとにやって来て、一枚の手紙を渡してきた。
「なんて書いてあるのー?」
メイが首を傾げると、スキアがその目を鋭くする。
「どうやら魔族が一体潜り込んでいるらしい。それをパレードを中止させずに討てとのことだ」
「戦いの規模を広げず、観客に被害を出さないようにってことね」
伝えられた、新たなクエスト。
その内容に六人は、再び気合を入れ直す。
「メイは最前列、私は中央前列、ツバメが中央後列、クルデリスとスキアは人数が多い最後方の騎士たちのところへ。まもりも後列へ向かって進む形でお願い」
誰がどこで魔族を見つけても、応援に入れるよう配置して別れる六人。
スキアは後列に並ぶ、騎士たちの列に視線を走らせる。
兜のために表情は見えず、また装備の違いも見られない。
クルデリスと左右から挟むようにして、一人ずつ確認して最後尾へ。
やはり騎士に差はない。しかし。
「クルデリス」
最後尾の、本当に最後。
そこに、確かな異変があった。
スキアが下がり、接近するのはクルデリス。
騎士の隣りにつけると、二本の短剣を引き抜いた。
「見えてるんだよねェ瘴気が……悪魔くん」
「っ!」
声をかけると、最後の騎士が振り返った。
身に着けていた鎧を勢いよく弾き飛ばすと、中には漆黒の身体が見える。
「おおっ! もしかして演武が始まるのか!?」
するとそれを見た観客のNPCたちが、『演武だ』と周知する。
悪魔はまだ騎士鎧の一部をまとったままで、魔族だとは気づかれていないというのが、クエストのキモなのだろう。
修道服の二人を前に、立ちふさがる騎士の悪魔。
あとは『被害を出さず』に打倒すれば、そのまま演武と勘違いさせたまま。
パレードは成功で終わることが可能となる。
「体型は人間とほぼ同じってところだねェ」
「降臨祭の演武という体にするなら、もってこいだな」
そう言ってクルデリスは、修道服に似合わない舌なめずりを一つ。
スキアはクールに長杖を抜いた。
向かい合う両者。
パレードが離れたところで、腰の剣を抜いた悪魔騎士が動き出した。
まずは踏み込みから、シンプルな斬り下ろし。
そこから払い、返しと続けるが、クルデリスは見事なステップで下がってかわす。
程よく距離が離れると、騎士は大きな前方宙返り斬りを仕掛けてくる。
「さすがにやるねェ……!」
これをうれしそうに短剣で受けるクルデリス。
敵の【フリップスレイ】が、激しい火花を上げた。
すぐさま攻撃を続ける悪魔騎士。
【シザーブレイド】は右から自分で、左から一瞬現れる分身体が回転斬りで敵を挟むという強力な攻撃。
「んっふふ。思った以上だァ!」
強烈な挟み込みを、しゃがみで回避したクルデリスは反撃に入る。
「【光刃】【闇刃】」
二本の短剣に魔力を込めて放つ連撃で、見事にダメージを奪う。
すると剣の大きな振り回しで、悪魔騎士はけん制してきた。
「おっとォ」
これを難なくかわして、さらに攻撃を仕掛けるクルデリスだが――。
悪魔騎士が剣を持たない方の手を突き出し、放つ一撃。
【シャドウアーム】は、伸長する影の腕が敵を斬るという形の攻撃。
クルデリスは虚を突かれた。
「【凶弾】」
だがスキアが指先から放った魔力弾が直撃し、強制停止。
見事なフォローを見せた。
「惜しかったねェ悪魔くん! 【殺到】ォォォォ!」
この隙を突くクルデリス。
敵を突き刺しそのまま運ぶスキルで、悪魔騎士を一直線に押し出していく。
背後に壁などがあれば突き破り、なければ魔力炸裂で飛ばすこの攻撃は、この場ではミスマッチ。だが。
「お、お手伝いしますっ!」
「んっふふ。これで負け確定になっちゃったよォ、悪魔くゥん?」
「【不動】【天雲の盾】!」
クルデリスはまもりの盾にそのまま悪魔騎士を叩きつけ、魔力を爆発させる。
「おおっ!」と上がる歓声は、プレイヤーたちから。
「【魔神の大剣】! やあーっ!」
まもりの一撃は、見事にヒット。
悪魔騎士を吹き飛ばして転がした。
この隙にクルデリスは、まもりを先頭に陣を組み直す。
「いいぞ! やれやれー!」
盛り上がる観客。
プレイヤーたちも、見事な戦いを夢中で見守る。
「気をつけろ!」
スキアの声は、剣による攻撃でないと確信したから。
放たれた豪炎弾【デビルズファイア】は、防御しても体勢を大きく崩し、避けてしまうと客に当たる。
そんな嫌らしい一撃だ。
「【マジックイーター】!」
だがこれをまもりが、難なく消し去ってしまう。
そしてスキアたちも、まもりなら受けてくれると確信して動き出している。
「そらそらァ!」
そこに駆け込んだクルデリスが、二連撃でさらにダメージを与える。
すると追い込まれた悪魔騎士は剣を引き、エフェクトを派手に輝かせた。
【ラピッドスタブ】は高速の接近刺突。
凄まじい速度で狭い、繰り出される剣にクルデリスは一歩も動けない。
「面白いねェ……でも」
「【かばう】【不動】【地壁の盾】!」
刺突はまもりの盾にぶつかった。
だが、これだけでは終わらない。
続け様の【ローリングブレイド】は、右側から来る猛烈な回転攻撃。
強烈な二段攻撃は、悪魔騎士の奥義だ。
「【地壁の盾】!」
だがこれも、まもりの二枚目の盾の前に完全停止。
まもりが『右側』から来る剣の軌道を止めてしまえば、必然的に左側に道が生まれる。
クルデリスはあえて、まもりの左側をくるりと周りながら前進。
「【フリップジャンプ】【残光連華】!」
華麗な空中回転から放つ魔力剣の輝きが、幾重もの白弧を描く。
悪魔騎士は斬られ、大きくたたらを踏んだ。そこに。
「終わりだ――――【降魔砲】」
同じくまもりの横を通り、クルデリスを追い越してきたスキアが杖を突きつけると、シンプルな魔力砲を発射。
悪魔騎士は転がり倒れ伏した。
スキアとクルデリスはそのまま、まもりを中心にクールなポーズを決める。
「シールドが到着した時点で、お前の敗北は揺るがぬものに変わったな」
「そォいうこと」
「「「おおおおおおおお――――っ!!」」」
まもりが受け、そこを叩く。
定番だが、それゆえに強力な連携に観客たちは拍手喝采。
もちろん被害はゼロ。
戦いは降臨祭のイベントの一つとして扱われ、パレードに関わるクエストは、見事ノーミスで終わることになった。
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