1364.パレードの裏側で
見事、一つ目の呪具を無力化したメイたち。
続くパレードは、変わらず最高の賑やかさにある。
『降臨』を潰しにきている者たちの二つ目の企図は、『呪具』の持ち込みだ。
よって三種の『呪具』を無効化することで、降臨祭を守る側のクエストは成功となる。
「次のアイテムは、何かしら」
「たぶん、NPCが持ってる形だろうなァ。見つけたら専用アイテムを渡すから連絡してねェ」
レンの問いに答えたのは、クルデリス。
『本部』からクエスト用の道具を持たされているためか、予想がつくのだろう。
「パレードをしてる誰かが、持たされてるってことね」
「そォいうこと。二種目の『呪具のナイフ』は二本ある。そして――――盗んで回収なんだよねェ」
「っ!!」
ツバメ、一瞬で顔から血の気が引く。
「本部から【強奪のグローブ】が貸し出されてるから、見つけたらすぐ取りに来ちゃってねェ。あ、もちろん【スティール】持ちなら自力で問題ないからさァ」
「とにかくまた、バラけて探しましょうか」
「それがいい。この後パレードに若干の編成変更がある。そこで分かれた列の者が持っていると回収失敗になるはずだ」
「ある程度近寄らないと瘴気は見えないから、よく注意してパレード参加者たちを見てねっ!」
メイの言葉にうなずき合い、六人はここで解散。
「私以外のところで見つかってくれるといいのですが……」
ツバメは最後方の、聖教騎士たちが並ぶパートへ。
そこには百人に渡る騎士たちが儀式鎧を身にまとい、そろって行進している。
「私以外のところで見つかりますように……」
今回は二つの【スティール】が必要になるため、まずはとにかく発見することが大事だ。
ツバメは修道服をなびかせながら、並ぶ騎士たちの横を突き進む。
「お願いします、私以外の……っ!?」
そして、発見。
ツバメは念のため目を擦り、深呼吸してからあらためて騎士の方を見る。
残念だが間違いなく、下げた一本の儀式剣が無慈悲に瘴気を放っている。
「どうしましょうか……」
実質的に、時間制限のあるクエスト。
だがここはパレードの最後方で、視界の範囲に闇を継ぐ者の姿はない。
さらに、まだもう一つの呪具の発見も必要な状況だ。
「……いつでも運命は、私に挑戦を求めるのですね」
ならば見つけた自分が、このまま盗むのが一番良いだろう。
もちろん【強奪のグローブ】も持っている。
それなら『二手』で【スティール】するのが、一番効率的なはずだ。
ツバメは息を飲み、覚悟を決めた。
念のため持っている【幸運】上げの【桃】を三つ食べ、仕事に入る。
「【スティール】」
騎士にキッチリ横付けして、挨拶代わりの一発。
もちろん、失敗。
「……【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」
始まる怒涛の【スティール】乱舞。
「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」
ご機嫌な犬がツバメの周りをグルグル駆け回っても、ツバメは盗むのを止めない。
「【ズティール】【スディール】【ズディール】ッ!!」
清教徒NPCが楽し気にまく水がどれだけ顔にかかろうと、ツバメは盗むのを止めない。
「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」
近づきすぎて騎士があからさまに顔を背けても、ツバメは絶対に盗むのを止めない。
呪具を盗み出すために、ガッチリマーク。
もはやどう考えても、普通に手を伸ばして逃げた方が早い。
だがそれでは、クエストは不成立だ。
「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」
降臨祭の輝かしい光景の中で、鳴り渡る音楽。
修道服に身を包み、洗礼を模した水しぶきに当るという、祝福感満載の世界の中。
「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」
ツバメは狂ったように【スティール】を続ける。
だが、盗めない。
「……そうですか」
するとツバメは、突然【スティール】を止めた。そして。
「分かりました……等価交換でいきましょう」
もはや呪具よりも百倍狂っているアサシンは、『世界に対して』取引を持ち掛ける。
「最近お気に入りの『抹茶ラスク』……五日間我慢しますっ! 【スティール】!」
発動するスキル。
しかし交渉は不成立。
「それでしたら、まもりさんに教えていただいた『抹茶ティラミス』も週末まで我慢しますっ! 【スティール】!」
再び発動するスキル。
だが今回も交渉は不成立。
「それでしたら……お母さんに「床が抜ける」と言われている広報誌五冊ずつの収集も一冊にしますっ! 【スティール】――ッ!!」
すると、ここで初めて広がる小さな輝き。
「っ!!」
思わず目を見開く。
なんとその手に、呪具の儀式剣が握られていた。
「やりました……やりましたっ!」
ついに【スティール】に成功したツバメは、両ひざをついて歓喜する。
そして、走り出す。
「今度は、私が皆さんの助けになる番です!」
行き先はもちろん、もう一つの呪具の【スティール】だ。
【盗む】の成功は、そう簡単な事じゃない。
ハマる時はハマってしまうものだ。
だが今の自分なら、こんなに早く【盗む】に成功した自分なら、役に立てるかもしれない。
「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】っ!」
そして見つけた、まもりとクルデリスの姿。
この感じだと、発見に意外と時間がかかったようだ。
残り時間は短い。
ツバメはまもりの隣に駆けつけ、横に並ぶ。
「ツ、ツバメさん、それって!」
「はい、もう片方は【スティール】に成功しました!」
するとメイとレンも、気づいて走り寄って来た。
「二人がかりなら、きっと間に合うはずです! 何より今の私ならっ!」
「は、はひっ! い、いきますね!」
まもりと二人うなずき合い、一緒にスキルを発動する――!
「「【スティール】!」」
「…………」
まもり、一発で決めてツバメを呆然とさせる。
「私は少し、調子に乗っていたのかもしれません……」
そう言ってツバメは遠い目で、静かに天を見上げたのだった。
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