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1364/1376

1364.パレードの裏側で

 見事、一つ目の呪具を無力化したメイたち。

 続くパレードは、変わらず最高の賑やかさにある。

『降臨』を潰しにきている者たちの二つ目の企図は、『呪具』の持ち込みだ。

 よって三種の『呪具』を無効化することで、降臨祭を守る側のクエストは成功となる。


「次のアイテムは、何かしら」

「たぶん、NPCが持ってる形だろうなァ。見つけたら専用アイテムを渡すから連絡してねェ」


 レンの問いに答えたのは、クルデリス。

『本部』からクエスト用の道具を持たされているためか、予想がつくのだろう。


「パレードをしてる誰かが、持たされてるってことね」

「そォいうこと。二種目の『呪具のナイフ』は二本ある。そして――――盗んで回収なんだよねェ」

「っ!!」


 ツバメ、一瞬で顔から血の気が引く。


「本部から【強奪のグローブ】が貸し出されてるから、見つけたらすぐ取りに来ちゃってねェ。あ、もちろん【スティール】持ちなら自力で問題ないからさァ」

「とにかくまた、バラけて探しましょうか」

「それがいい。この後パレードに若干の編成変更がある。そこで分かれた列の者が持っていると回収失敗になるはずだ」

「ある程度近寄らないと瘴気は見えないから、よく注意してパレード参加者たちを見てねっ!」


 メイの言葉にうなずき合い、六人はここで解散。


「私以外のところで見つかってくれるといいのですが……」


 ツバメは最後方の、聖教騎士たちが並ぶパートへ。

 そこには百人に渡る騎士たちが儀式鎧を身にまとい、そろって行進している。


「私以外のところで見つかりますように……」


 今回は二つの【スティール】が必要になるため、まずはとにかく発見することが大事だ。

 ツバメは修道服をなびかせながら、並ぶ騎士たちの横を突き進む。


「お願いします、私以外の……っ!?」


 そして、発見。

 ツバメは念のため目を擦り、深呼吸してからあらためて騎士の方を見る。

 残念だが間違いなく、下げた一本の儀式剣が無慈悲に瘴気を放っている。


「どうしましょうか……」


 実質的に、時間制限のあるクエスト。

 だがここはパレードの最後方で、視界の範囲に闇を継ぐ者の姿はない。

 さらに、まだもう一つの呪具の発見も必要な状況だ。


「……いつでも運命は、私に挑戦を求めるのですね」


 ならば見つけた自分が、このまま盗むのが一番良いだろう。

 もちろん【強奪のグローブ】も持っている。

 それなら『二手』で【スティール】するのが、一番効率的なはずだ。

 ツバメは息を飲み、覚悟を決めた。

 念のため持っている【幸運】上げの【桃】を三つ食べ、仕事に入る。


「【スティール】」


 騎士にキッチリ横付けして、挨拶代わりの一発。

 もちろん、失敗。


「……【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」


 始まる怒涛の【スティール】乱舞。


「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」


 ご機嫌な犬がツバメの周りをグルグル駆け回っても、ツバメは盗むのを止めない。


「【ズティール】【スディール】【ズディール】ッ!!」


 清教徒NPCが楽し気にまく水がどれだけ顔にかかろうと、ツバメは盗むのを止めない。


「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」


 近づきすぎて騎士があからさまに顔を背けても、ツバメは絶対に盗むのを止めない。

 呪具を盗み出すために、ガッチリマーク。

 もはやどう考えても、普通に手を伸ばして逃げた方が早い。

 だがそれでは、クエストは不成立だ。


「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」


 降臨祭の輝かしい光景の中で、鳴り渡る音楽。

 修道服に身を包み、洗礼を模した水しぶきに当るという、祝福感満載の世界の中。


「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」


 ツバメは狂ったように【スティール】を続ける。

 だが、盗めない。


「……そうですか」


 するとツバメは、突然【スティール】を止めた。そして。


「分かりました……等価交換でいきましょう」


 もはや呪具よりも百倍狂っているアサシンは、『世界に対して』取引を持ち掛ける。


「最近お気に入りの『抹茶ラスク』……五日間我慢しますっ! 【スティール】!」


 発動するスキル。

 しかし交渉は不成立。


「それでしたら、まもりさんに教えていただいた『抹茶ティラミス』も週末まで我慢しますっ! 【スティール】!」


 再び発動するスキル。

 だが今回も交渉は不成立。


「それでしたら……お母さんに「床が抜ける」と言われている広報誌五冊ずつの収集も一冊にしますっ! 【スティール】――ッ!!」


 すると、ここで初めて広がる小さな輝き。


「っ!!」


 思わず目を見開く。

 なんとその手に、呪具の儀式剣が握られていた。


「やりました……やりましたっ!」


 ついに【スティール】に成功したツバメは、両ひざをついて歓喜する。

 そして、走り出す。


「今度は、私が皆さんの助けになる番です!」


 行き先はもちろん、もう一つの呪具の【スティール】だ。


【盗む】の成功は、そう簡単な事じゃない。

 ハマる時はハマってしまうものだ。

 だが今の自分なら、こんなに早く【盗む】に成功した自分なら、役に立てるかもしれない。


「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】っ!」


 そして見つけた、まもりとクルデリスの姿。

 この感じだと、発見に意外と時間がかかったようだ。

 残り時間は短い。

 ツバメはまもりの隣に駆けつけ、横に並ぶ。


「ツ、ツバメさん、それって!」

「はい、もう片方は【スティール】に成功しました!」


 するとメイとレンも、気づいて走り寄って来た。


「二人がかりなら、きっと間に合うはずです! 何より今の私ならっ!」

「は、はひっ! い、いきますね!」


 まもりと二人うなずき合い、一緒にスキルを発動する――!


「「【スティール】!」」

「…………」


 まもり、一発で決めてツバメを呆然とさせる。


「私は少し、調子に乗っていたのかもしれません……」


 そう言ってツバメは遠い目で、静かに天を見上げたのだった。

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― 新着の感想 ―
ま、まもりちゃんは『永遠の花冠』でボーナスかかってるから…。(震え声
〜スティール不発が続いた時の対処法〜 「私は世界と『取引』してます…。呪術における縛りのように、あらゆるモノを犠牲にするのです…!」 「私は自棄で試しに『強欲の魔手よ! かの秘宝を奪い、我が手に齎…
ツバメは抹茶スイーツが好きなのかな、他にもツバメが好きなスイーツ色々ありそう
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