1362.魔宝石を追え
レンが欠けている状況で見つかった、新たな【魔宝石】選択者。
スキアに追跡を依頼されたツバメは変身を解き、金の刺繍入り黒マントをまとった少女を追いかける。
「…………」
【魔宝石】の少女は付近に視線を走らせた後、人気のない路地裏へと入り込んだ。
「っ!」
途端に走り出して、次の角を曲がった。
こうなってしまうと、見失わないために走って追う他ない。
ツバメはすぐさま駆け出し、同じ角を曲がる。
「っ!?」
そして黒づくめの少女と、真正面から向かい合う形になってしまった。
どうやら少女はわざと走り、角を曲がった先で待ち構えて、追手の存在を確認する戦法を取ってきたようだ。
シンプルながらも有効なその手に、ツバメはまんまと引っかかった形だ。
「…………」
向かい合う二人。
「気のせいか……」
しかし、少女は気付かない。
ツバメもその作戦を使われる可能性は、思いついていた。
それでも前方を気にせず追っていたのは、待ち伏せされても問題ないと踏んでいたから。
【隠密】【忍び足】の状態なら、たとえ正面で向かい合っても気づかない。
「それでも、緊張感はありますね」
こうしてツバメは、闇の使徒の尾行に成功。
警戒を弱めた少女の後を追い、廃倉庫のような建物へ。
隣接する道の片隅に置かれた木箱の下に、魔法陣の一角となるポイントを発見した。
「こちらスイートポテトパイとダージリン、こちらはストロベリーパイになりますっ!」
スキアは中二病魔導士とは思えないダッシュで、注文をお届け。
「マロンパイ、リーフパイ、アールグレイをお願いしますっ!」
「りょ、りょうかいですっ!」
必死の様相で指示を出し、足りないレンとツバメの分を埋めにかかる。
二人が欠けた店は、最高の忙しさの中にあった。
メイも【鹿角】での【バンビステップ】で対応を開始。
「ラザニアパイとアイスティーです! あっ、迷子ちゃんとスライムちゃん!」
「道に迷っていたら、たどり着きました!」
「ぽよっ!」
「来てくれたんだ! ありがとーっ!」
仕事は増えるのだが、店に来てくれたのは嬉しいメイ。
その笑顔を見て、新たな客が意気揚々と注文を開始する。
制限時間ありだからこその忙しさは、止まらない。
「こ、こちらグラタンパイとアイスティーですっ」
「盾子ちゃんだ!」
「遊びに来てよかったぁ!」
掲示板組の一部も、これには大喜び。
「俺のおかげだな」
迷子ちゃん捜索のために来ていたマウント氏は、この引きの強さにもちろんドヤ顔だ。
「視界右端に出てるオーダー、残り時間短いですよっ!」
スキアは指示を出すが、受けに行けるメンバーはなし。
やはり手が足りない。
「ここまで来て、NPCに入られるのは面白くない……!」
つぶやくスキアはもちろん、客もそうだろう。
だがメイたちがいると知られたことで、注文は山積みだ。
いよいよ、いくつかのオーダーをNPCに任せる瞬間がやってくる。
「遅くなったわね! 再開するわ!」
そこに駆け戻ってきたのはレン。
首を振りながら戻ることで、追跡した相手が『対象』ではなかったことを伝えつつ、オーダーを受け取る。
「【低空高速飛行】! こちら、トマトチーズパイね!」
「おおっ!?」
そしてギリギリで時間切れオーダーを回避して、NPCの登場を防いでみせた。さらに。
「この五番目と七番目のオーダー、受け持ちます!」
ツバメもここで合流。
スキアたちに『成功』を伝える、大きなうなずきを見せてパイを受け取る。
「このまま最後まで、いきましょうっ!」
全員集合に目を輝かせたメイが、元気な声をあげた。
「「「はいっ!」」」
実は『魔法陣の位置を把握』した時点で、後はどうなっても成功となるこのクエスト。
それでもNPCの介在を避けるギリギリのところで、オーダーを次々クリアする。
そして人数減少で生まれた歪みは、営業時間という『制限』を目前に、勝負所を持ってきた。
「残り……二秒っ!?」
メイが営業時間内の最終オーダーとなるパイを受け取る。
制限時間は、恐ろしいことに二秒しかない。
そしてオーダー主はやはり、奥の席だ。
間に合わせるなら、客や席の一部を跳ね飛ばしての【裸足の女神】に賭けるくらいしかないだろう。
強制終了は目前。
悩むメイの動きが、止まったその瞬間。
「――――こっちだにゃっ!」
メイの動きに気づいたクルデリスが飛び出し、該当テーブルの前へと駆けていく。
「お願いしますっ! それーっ!」
メイはイチかバチか、パイを皿ごと投擲。
普通に考えれば、そのキャッチは非常に難しい。だが。
「高さ、位置、完璧……っ! ここだにゃっ!」
高すぎる【技量】が、メイの狙いを正確に実現する。
それは両手を胸元に出すだけで、そのまま手に収まる投擲。
クルデリスは迫るパイを、過去一レベルの集中力でキャッチした。
「ラザニアパイ、お待たせしましたーっ!」
そして勢いのまま、皿をテーブルに降ろす。
制限時間はゼロ。
最後のオーダー客に、向けられる視線。
「…………セ、セーフ!」
「「「おおおおおおおお――――っ!!」」」
強制終了による『消滅』もなし。
客が手を広げて『セーフ』のジェスチャーをすると、一気に店が盛り上がる。
すでに目的は『達成済』のクエストだが、受けたオーダーを全て間に合わせることにも成功。
メイたちは完璧な形で、店舗クエストを終えた。
「「「お疲れさまでしたーっ!」」」
皆で決めるハイタッチ。
なかなかシビアなこのクエストも、楽しい形で終えることとなった。
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