1354.召喚
「でも、こうして大きなクエストを見に来る側なのは、めずらしいわね」
「本当だねぇ。ちょっとお気楽で楽しいかもっ」
アレクサンドラにある、円形神殿の中には大きな魔法陣と無数のロウソク。
吊り下げられた紅色の垂れ幕が、妖しい艶を放っている。
集ったたくさんの闇の使徒たちは、闇を超えし者の姿に興奮しながらも、あくまで冷静を装う。
「みんなカッコいいなぁ」
尻尾をブンブンしながら言うメイの目を、レンが塞ぐ。
「レンちゃん?」
「今から罹患したら大変なんだから。取り返しのつかないことにもなりかねないわ」
そんな二人の姿に、笑うまもり。
「何が始まるんですか?」
「この感じだと、召喚の類ではないでしょうか」
香菜の問いに答えたのはツバメ。
するとクエストの様子をうかがっていた黒神リズ・レクイエムが、静かにうなずいた。
「その通りだ。おそらく契約を結ぶ形になるだろう」
聖教都市や魔法学院で行われた『召喚』に、よく似た魔法陣。
そしてこの大きさは、間違いなく大物だろう。
これは面白いものが見られそうだ。
「……光の者が来たか」
レクイエムが、入り込んできた人物に気づいて顔を向ける。
扉を開いて神殿に入り込んできたのは、九条院白夜と複数の光の使徒たち。
「この状況……やられましたわね」
内部を見回した白夜が悔しそうに言うと、闇の使徒たちは勝ち誇った表情を見せ始める。
「お待ちしていました、光の使徒の皆さん」
このミサの中心にいた闇の使徒は、やり過ぎなほどに丁寧な口調で出迎えた。
「是非とも皆さんにご覧いただきたく、儀式の開始を遅らせておりました」
「「「っ!」」」
九条院白夜を紅の翼関連で欠いていた光の使徒は、『対のクエスト』に気づくことができず、今から儀式の静止はできない状況だ。
当然現状をひっくり返すようなこともできず、闇の使徒もそのことに気づいている。
それゆえの、余裕。
「こうなった以上は、しっかりと見させていただきますわ」
もはや止めることはできないが、何がなされたかを知る必要はある。
光の使徒たちは悔しそうにしながらも、成り行きを見守る事を選んだ。
「……始めろ」
闇の使徒たちが見せる誇らしげな態度には、興味がなさそうなレクイエムが声をかける。
すると列を作っていた黒装束の者たちの中から、数人の使徒たちが動き出した。
魔法陣を囲む形で陣を組み、向かい合って始める詠唱。
「闇にまします我らが王よ、願わくはその忌み名を崇めさせ給え」
「「「崇めさせ給え」」」
中央の人物に続く形で始まった儀式に風が流れ出し、ろうそくの炎が揺らめき始める。
「混沌に踏み入る我らを赦すが如く、深き罪を掲げ給え」
「「「掲げ給え」」」
「闇と力と栄えとは、限りなく汝のものなれば成り。夜よさらに、深淵へと向かい給え……!」
「「「向かい給え」」」
立ち並ぶ使徒たちが輪唱するかのように続き、風が強くなっていく。
「いかがですか、闇を超越せし大魔導様」
「ちょっと誰の事だか分からないです」
近くにいた闇の使徒から向けられた視線を、スッとかわすレン。
「お姉ちゃん」
視線を外した先からぶつけられる、妹の疑惑の目。
「関係ないから。本当に何一つ私には関係ないの」
さらにレンは、あさっての方向に顔を向ける。
そんな中メイは、レンの手をそっと開いて儀式をのぞき見ていた。
いよいよ風が唸りを上げ、灯が不穏な点滅を繰り返す。
すると儀式の中心にいた使徒は、大きな魔法陣の目の前に進み、黒ずんだ古木の杖を掲げた。
「来たれ至上の殺戮者――――グラシャラボラスよ!」
詠唱の完了と共に、杖の先に付けられた真紅の宝石が砕け散り、輝く液体を大量にまき散らす。
「わあ……っ」
粘性を含んだ赤い液体は、恐ろしさと美しさで見る者を魅了する。
そしてその赤色の輝きが魔法陣を駆け、煌々と光を灯した直後。
「「「っ!!」」」
再び噴き出す、強烈な風。
甲高い音を鳴らして吹き荒れる烈風が渦を巻き、雷鳴のような轟音を鳴らす。
弾ける激しい赤光の中、現れたのは大きな翼を持ったグリフォンのような悪魔。
「オオ……」
「オオオオオ……」
「「「オオオオオオオオ――――ッ!!」」」
その黒翼がゆっくりと広がれば、自然と上がる歓声。
降臨した悪魔の迫力ある姿に、誰もが目を奪われる。
「す、すごいですねっ」
「はい、やはり段違いの迫力があります……っ!」
「カッコいいーっ!」
これにはメイたちも歓喜の声を上げる。
自然と広がる、大きな喜びの空気の中――。
「……えっ?」
どこからか聞こえた困惑の声。
見えたのは闇の空間を真っ直ぐに飛んでいく、一本の光槍。
光を編んで作った芸術品に、彫金を施したかのような槍はあまりに美しく、誰もが目を奪われる。
止まらない。
そのまま高速突き進んだ光槍は、悪魔に突き刺さった。
それだけでは止まらず切っ先が身体を貫通し、槍は闇色の悪魔を串刺しにしてしまう。
「これは……一体」
まさかの事態に、静まり返る大ミサ会場。
「「「っ!?」」」
その直後、広がる光の爆発。
グラシャラボラスは崩壊し、そのまま大量の粒子の雨を残して、槍と共に消えてしまった。
「なんだ、これは……」
普段冷静なレクイエムが、思わずもらす混乱の声。
「なんなんだ、これはぁぁぁぁぁぁぁぁ――――っ!!」
そして渾身の叫びが、闇の神殿に響き渡った。
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