1353.クエストを見学しますっ!
「レンちゃーん!」
「お待たせ。神社クエストの報酬を見てきたら遅くなっちゃった」
ハウジングの土地以外に、パーティで一つ。
そんな報酬を回収に行ってから、レンが待ち合わせのラフテリアにやってきた。
「どのような報酬だったのですか?」
「魔導士向け。まあ……あんまり使う物じゃないわね」
「あ、あくまでハウジングの場所が、報酬の本体という事ですね」
まもりがいるからなのか、すっかり豪華になったラフテリアの飲食関係。
五段のアイスという子供が大喜びしそうなメニューを手にしたメイたちに、レンが笑う。
「それじゃ行きましょうか」
少しのんびりしたところで、話通り『クエスト見学』に歩き出す四人。すると。
「あっ、香菜ちゃん!」
「香菜?」
メイが気づいて足を止めた。
視線の先にはサングラス装備で物陰に隠れる、少女の姿。
一瞬で気づかれて驚く少女に、メイは大きく手を振る。
すると観念したのか、香菜ことカナはサングラスを外しながらやってきた。
「香菜、あんなところで何してたの?」
レンの問いに、カナは疑念の目を向ける。
「最近すごく、色んなところで怪しいお姉ちゃんを見かけたから」
神社のムックですら、怨念を従えた者みたいになっていたレン。
その格好良さは、中二病勢に刺さりまくりの状態だった。
一緒に行動しているわけではないカナにしてみれば、かつて実際にミサを行っていたレンに、疑惑を深めるのも無理はない。
「それ、完全に運営の匙加減なんだけど」
レンはそう言って、ため息を吐く。
「怪しいから、確認しようと思って」
「それなら一緒に行こうよーっ!」
「いいんですかっ?」
メイに言われて、カナは目を輝かせる。
「それが良いですね」
「い、妹さんも、とても可愛いです……!」
今日はクエストの見学目的という事もあって、余裕あり。
レンも無実を証明するために、メイの提案を承諾した。
「……お姉ちゃん、本当に何もないの?」
「ないわよ、まったくもう。ミサがどうとか、儀式がどうとか。そんなのとは無縁の生活を送ってるわ」
「ふーん」
「一切信用してない顔ね」
「あれだけ『家ミサ』をされたらそうなるよ。でもメイさんやツバメさん、まもりさんと一緒って本当にすごいよね。戦い方の解説動画が出てるプレイヤーなんて、めったに見ないもん」
どうやらメイたちはその活躍だけでなく、ツバメの戦い方の意外性や、まもりの堅牢さといったプレイの部分でも、盛り上がりに一役買っているようだ。
「お姉ちゃん、儀式とかしてませんか?」
「見たことはありません」
「ツバメ、『してない』でいいのよ? なんで可能性を残すのよ」
「なるほど、そこかしこでやっているわけではないと……」
カナは「なるほど」とうなずく。
「ど、どこかでやっているという前提ではあるのですね」
これにはまもりも笑う。
五人はポータルを使って進み、砂漠と森の二つが広がる国アレクサンドラにやってきた。
白壁の建物が立ち並ぶ街は砂と緑の合間にあり、その景観は美しい。
中でも目立つのは、コロシアムを思わせる丸型の神殿だ。
「綺麗な街だねぇ」
「本当ですね」
「さ、砂漠と森林が交わる街……面白いです」
「初めてきましたっ!」
さっそくメイたちと共に、楽しそうに歩くカナ。
「話で聞いてるクエストは、向こうの神殿ね」
レンは先導する形で街を進み、そのまま大きな神殿の前へ。
「熱い戦いなんかが見られるのかしら。呼ばれて見に行くなんて、なかなかないから楽しみだわ」
そして、埋め込まれた魔法珠に触れる事で起動する石扉に触れる。
開かれていく扉、その中には――。
たくさんの闇の使徒が並んで、怪しい祈りを捧げていた。
「な、何に招待してくれてるのよぉぉぉぉぉぉ――――っ!」
「……お姉ちゃん?」
並んだたくさんのロウソクに、描かれた魔法陣。
そこはまさかの、ミサ会場。
出まくりの雰囲気に思わず叫ぶレンと、即座に冷たい目を向けるカナ。
「違う違う! これは内容を知らずに来ただけなの! そもそも私は今回クエストを見に来ただけで、参加してないでしょ!?」
「でも、背後で『動かしてる』パターンもあるでしょ? むしろその方がすごいっていうか」
「誰が黒幕よ! とにかく関係ないから! 偶然ミサだっただけ!」
レンは慌てて否定する。
もちろん大きなクエストとしか聞いてないため、そこに背景はない。
「ナイトメア」
「っ!?」
しかしそこで声をかけてきたのは、あろうことか黒づくめの暗黒騎士レクイエム。
さらに闇色の忍者である鳴花雨涙も、その背後に控えている。
闇から闇、もはや言い訳のしようもない。
「なんか闇の人がいっぱいいるんだけど……お姉ちゃん」
「これは元同僚だから」
「よく来たな、ナイトメア」
「ナイトメアは止めて」
「真実の姿を隠したいのは分かるが、我が前ではそのような――」
「この子の前だからなの!」
いよいよ怪しさしかない状況に、白目をむくレン。
ため息をつきながら、あらためて内部を見回す。
「ていうか、本当に大きな規模のクエストなのね」
「見ての通りだ。だがまさか観客としてやってくるとはな……」
「手紙なんてシステム、実際に送られたのは初めてだったんだけど、送ったのはリズ?」
たずねるとリズは、静かに首を振った。
「それだと、差出人は使徒の誰かかしら」
どうやらレンがこのクエストに呼ばれたのは、郵便NPCを使った手紙システムによるものらしい。
「ドキドキしちゃうね、ツバメちゃんっ!」
「そうですね……! 闇を照らすのは無数のロウソク、描かれた魔法陣。そして壁からは真紅の大きな垂れ幕。素晴らしい雰囲気です」
「な、何が始まるのでしょうか……っ」
一方メイたちは、作り込まれた雰囲気にキャッキャと楽しそうにしている。
見ればこの場には闇の使徒だけではなく、一般のプレイヤーも紛れており、そこには樹氷の魔女の姿も見える。
「始まるぞ」
どうやら闇の使徒が先導し、レクイエムも監督していたらしい大きなクエスト。
このミサ自体が、そのラストを飾るものなのだろう。
クエストは、最後の瞬間に向けて動き出す。
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