1349.神社ができあがります!
神社の基礎となる部分の製作は、すでに依頼済み。
メイたちは京の町にある、ハウジング系プレイヤーたちの店を訪れていた。
「確かに、どれも素晴らしいです」
「ツバメが言うなら、間違いなさそうね」
「そうなんです! 皆いいものを作っているんですっ!」
ハウジングは、かなりのこだわりを見せることのできる場。
しかし和風の商品はそのレベルに反して思ったほど需要を得られず、困っていたらしい。
「ぜひ私たちにお手伝いさせてください! 神社造りを良いものにする商品や技術を、提供できる自信があります!」
必要なもの以外は『好みでいい』というのが、今回のクエストの面白いところ。
せっかくだから良い神社を作ろうと決めていたメイたちにとっては、最高の申し出だ。
「ぜひ、おねがいしたいですっ」
「「「はいっ!」」」
メイがそう言うと、職人プレイヤーたちは目を輝かせながら応えた。
「どんなものが欲しいですか?」
早速の質問に、ツバメが反応する。
「神前幕があると、雰囲気が出るのですが……何かありますか?」
「もちろんです!」
和服女子が持ち出してきたのは、艶感のある暖簾のような布。
「良い生地ですね」
「柄は自分で作ることもできますし……この中から選んでもらっても構いません!」
「なるほど……あえて鮮やかな生地を選ぶのも良いですね」
「素晴らしいですね! ぜひお任せくださいっ!」
生地を得意とする職人が、御鈴と神域を隔てるための暖簾の製作にさっそく動き出した。
「他に神社って何があったっけ?」
「ちょ、手水鉢とかではないでしょうか」
「それなら俺がやるぜ! 石塊から手水鉢を作るくらいはお手の物だ!」
「うちの神社だと、洗面台くらいの大きさなのが可愛くてよさそうね」
「そ、そう言えば、花手水とかってできるのでしょうか」
「っ!」
まもりのそんな思いつきに、目を見開く和風ハウジング勢。
「手水鉢に色んな花を浮かべたやつだな……! この世界なら花は枯れないし、面白いかもしれないな!」
「いいネタになるぞ!」
「それ、わたしも見たことあるよっ! すっごくいいと思います!」
色とりどりの花が浮かぶ手水鉢は美しく、現実世界では思わず足を止めて写真を取ってしまう者が集まるほど。
こんな裏技のようなネタに食いつく辺り、和風ハウジング勢は本当に乗り気のようだ。
「任せろ! そのアイデア形にして見せる!」
燃える石材組。
するとさらにメイが、置かれた商品の中から一つに目をつけた。
「あっ、提灯が並んでるのがいいかも!」
「それなら提灯は本殿の左右に大きめなものを一つずつ、屋根の下と鳥居の下段には小さなものを並べる形がいいかもしれませんね」
「それはうちがやるよ! 提灯には、文字とか紋様も入れられるよ! なんて文字を入れる!?」
メイは悩むが、レンたちは自然と言葉が重なる。
「「「野生神社」」」
「困ります!」
メイの早いツッコミに、思わず笑うレンたち。
「私たちのパーティは『五月晴れ』って呼ばれてるし、ここは五月神社でいいんじゃない?」
「そうですね、異存はありません」
「はひっ」
「良かったぁ……」
ご神木代わりにバナナが立っているトロピカルな神社を想像して震えていたメイは、安堵の息をつく。
「それでは責任をもって神社造りに参加させていただきます! 最高の品をお持ちするので、期待していてください!」
「よろしくお願いいたしますっ!」
気合十分の職人プレイヤーたちに、ペコッと頭を下げて見せるメイ。
こだわりのハウジングアイテムたちは、素晴らしい早さで納品されることになった。
◆
夜になるのを待って、メイたちはあらためて京の端にある空き地へと向かう。
もちろん行き先は、新築の神社だ。
「すごーい!」
「これは……思った以上です」
メイとツバメが、息をつく。
職人プレイヤーの気合もあって、早々に配置が終わった五月神社。
最初に目に入ってきたのは、最高の雰囲気を醸し出す提灯たちだ。
「外観だけでも十分に立派ね」
職人NPCが建てた基礎型の神社はすでに、かなりの出来上がりだった。
良い素材を集めて、好みの造りを選択することで造られた五月神社は、それだけで形になっている。
京の中でも、かなり良い神社として数えられるだろう。
だが、その真価はここからだ。
「き、きれいですっ」
メイたちは並んで、鳥居の前へ。
そこには吊り下げられた六つの30センチほどの提灯が、橙の光を灯している。
「鳥居から続く石畳の距離が短めで、すぐに狛犬、御鈴に続くのもいいわね」
「参道の左右に飾られた小さな松が、良い味を出しています」
「右手にある手水鉢も綺麗です!」
見れば手水鉢には色とりどりの紫陽花。
この辺りの選択は、さすが京を本拠地にしてるプレイヤーたちだ。
どこを見ても見どころがある。
小さな神社の魅力は、まさにここだろう。
「やはり唐破風に、銅製の緑青瓦が並んでいる姿は最高です……!」
「飴色の【ヒノキ】もいい感じね。天井部分の寄木造り感も最高だわ」
美しい造りの屋根は、狙い通りの青緑。
その縁を飾る金属細工も豪華だ。
神前幕は少し派手目だが、手前の【しめ縄】が空気を見事に引き締めている。
「クエストでこんなにすごい神社ができるなんて……本当にすごいねーっ」
メイたちがその出来栄えに歓喜していると、職人プレイヤーが集まって来た。
「うわ……すごっ!」
「これ、どこの神社より出来がいいぞ!」
「夜になると、さらに雰囲気が良くなってるな……!」
メイたちと同じように、そのレベルの高さと雰囲気に夢中になる。
京で過ごす彼らが驚くほどの造りは、まさしく最高だ。そして。
「最後に、これを持ってきたんだ」
職人プレイヤーたちが持っていたのは、神社の顔とも言える社額。
豪華な額縁の中に『五月神社』と描かれている。
これを受け取ったメイが、本殿の【しめ縄】の上に設置して、全工程完了。
「やったー!」
メイがあらためて全貌を確認すると、あまりに見事な神社ができ上がっていた。
「うわわわわ! これはすごいですっ!」
そこにやってきたのは、クエスト主である子狐。
「すごくいいものができ上がりましたね! あとは怨念の復活に向かい合うだけです……っ!」
そう言って大喜びで、五月神社を見上げた。
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