1344.魔物から採掘します!
【王麻】は、その花からまかれる花粉に高揚効果あり。
ツバメは揺れる視界と不思議な熱を感じながら、高所目指して崖を登る。
そんな中で襲い掛かってきた怪鳥を、どうにか追い払ったのだが――。
「今度は群れで来ました!」
一回り大きくした鷲のような魔物が二十羽ほどとなれば、その迫力はなかなかのもの。
ツバメは揺れる視界での中、どうにか身体を反転してかかとで出っ張りに立つ。そして。
「勝負です……っ!」
魔物たちの特攻に合わせて、両手に【ブレード】を取り出した。
すると大鷲たちは嫌らしい笑い声をあげた後、攻撃を開始。
「【連続投擲】!」
もちろんこの状況でするべきは先行。
投じるのは【炎ブレイド】と【風ブレイド】を計四本。
巻き起こる炎風で、敵の数を減らす。
この攻撃の範囲に無かった怪鳥たちが、ここで攻撃の体勢に入った。
後方に剣を引いて斬ることが、できないこの状況。
「【アクアエッジ】!」
ツバメが選んだのは、二刀流【アクアエッジ】による攻撃。
迫る怪鳥たちを、範囲を広げた攻撃で見事に打倒してみせる。しかし。
「っ!?」
視界の揺れもあり、全ての打倒には至らなかった。
発見が遅れた二羽の怪鳥。
目前に迫る一体は、さっきも聞かされた『バカにする笑い声』みたいな鳴き声と共に、一直線にツバメのもとへ。
鉤爪による攻撃は、裂くよりも引っかけて斬るような形となる。
そうなれば落下は免れず、間違いなくピンチの状況だ。
「【アクアエッジ】【スラッシュ】!」
狙いすまして放った一撃は、怪鳥の十センチほど離れた位置を通過。
やはり麻の花粉が、ツバメの視覚を歪ませているようだ。
怪鳥はそのまま、特攻で仕掛けてきた。
「まだです! 【隠し腕】っ!」
それでも、しっかり引き付けてなら当たる。
残していた奥の手が、見事に怪鳥を斬って飛ばした。
「ど、どうにか……!」
息をつくツバメだが、いまだ残る最後の一体。
その【高速特攻】にはもう、対応のしようがない。
ツバメは弾丸のように迫る大鷲に対して――。
「……あとは祈るのみです」
なんと目を閉じて、その場にしゃがみ込んだ。
覚悟を決めたうえでの、まさかの賭け。
するとツバメの胸元を狙っていた怪鳥は、そのまま壁に激突。
変な鳴き声を上げて落下していった。
「また運を使ってしまいました……これで次の【スティール】は耐久確定ですね……」
ツバメは怪鳥の群れを打倒し、ゆっくりと反転。
再び崖をよじ登り、しばらく進んだところで止まる。
視界はもう、全ての物が三重四重に見えている状態だ。
だが次に『つかめる』いくつかのポイントは、飛びつく形でないと届かない。
見えている距離が正しくなければ、終わりだ。
「……ですが」
上げた視線の先には、頂上も見えている。
そこには間違いなく、最高の【王麻】が生えているだろう。
「イチかバチかです」
ツバメはそっと身体を返し、その場でヒザを曲げる。そして。
「【跳躍】!」
思い切って空中に躍り出た。
「【エアリアル】!」
そのまま二段ジャンプで頂上へ。
足がついたのを確認して腰を曲げると、もう平衡感覚はゼロ。
高熱でうなされている時に見る夢よりも、大きく揺れる視界。
気付けば身体は、崖側に向かって倒れていた。
だがその視界に【王麻】は確かに見えている。
「っ!」
伸ばした手。
【王麻】の茎部分に触れた感覚があったような、なかったような。
分からないまま、崖から転落。
ツバメは一直線に、地面に向かって落ちていく。
もちろんツバメに、落下ダメージを軽減できるようなスキルはない。
「ま、まだ地面にぶつかるまでには、時間があります……っ!」
それでも、諦めない。
まずは壁がどちらにあるかを確認。
それから【村雨】を手に取り、地面との距離を測る。
そして残りが十数メートルのところまで来たところで――。
「【水月】!」
伸ばした水刃。
狙い通り崖に突き刺さって、凄まじい勢いで砂煙を上げる。
これによって落下速度も、大きく減衰。
そして水刃が消えると、再び落下。
そのまま地面に足から激突したが、しっかりとダメージは軽減。
落下による死に戻りを、回避することに成功した。
「……問題は、ここからです」
ツバメはドキドキしながら、アイテム欄を展開する。
「これで良い【王麻】でなかったら……」
よく見たらまるで別の植物を、高揚状態のせいで見間違えてつかんでいる可能性もある。
それどころか、そもそも何も手にしていないことも考えうる。
ツバメは恐る恐る、つかんだはずの【王麻】を確認する。
【王麻】:高山上部にある最高の品。素晴らしい麻製品が作れる。
「レンさんやメイさんなら余裕のクエストでしたが……どうにか無事、入手できました」
ツバメは仰向けになったまま、揺れる視界をぼんやりと眺めながら笑った。
◆
「わあーっ……すごーい」
最高の石材を探しに、京の最北にある海岸線にやってきたメイ。
広がる光景に、思わずポカンと口を開く。
山から草原、そして浜辺へと続く大きな海岸地帯は、とにかく視野を埋める物が少ない。
空が大きく見えるそんな風景の中に、一体の不思議な魔物。
それは大きさはなんと、十階建てのマンションに迫るほど。
体長も100メートルを当然のように超えており、その見た目は全身を石で作ったサイといった感じか。
そんな巨体がゆっくりと、浜辺を闊歩している。
「あの魔物で、間違いないね」
地図にはこの海岸線の場所と、大きな魔物の姿が描かれている。さらに。
「なるほど、部位によって石の良し悪しが違うんだ……!」
どうやらこの石の巨大獣から、該当部位を壊して取ってくるというめずらしいクエストのようだ。
「もしかして君、石を取りに来たのか?」
そこにやってきたのは、ヘルメットをかぶったNPCたち。
「はいっ」
メイが元気に返事をすると、説明を始める。
「ならば、あの『ロックライノ』を打倒してしまわないよう気をつけてくれ。部位によって違いこそあるが、あの魔物の外皮は再生を続ける。そのため良い石材を生産し続けてくれる益獣として管理されているんだ」
「りょうかいですっ」
「放っておけば攻撃してくることもない。こちらから攻撃をしても、あの厚い外皮である程度の攻撃なら気にもしないんだ」
「ただ腹部や脚部といった簡単に石を落とせる場所とは違って、頭部などの方が良い物が取れるんだよなぁ。しかもよ、身体の上部に上がってこられるのだけは嫌みたいで、あの手この手で振り落とそうとしてくんだ」
「ということは、できるだけ頭の方に近づいて、軽く攻撃を当てて倒さないように外皮の石を砕いて落とすっていうクエストになるんだね……っ!」
「前方は特に気をつけてくれ。登ろうとしてくる者に対しては、踏みつけに来るからな」
「はいっ!」
メイは軽快に応えて、あらため石の巨獣ロックライノを見上げる。
「それでは、行ってきますっ! 【バンビステップ】!」
「おいっ! 行くなら一日一度だけ座って休む瞬間が7時間後にあるから、その時を狙わないと相当難しい――」
「えへへっ、大丈夫ですっ!」
正攻法は七時間待ち。
さすがにそんなに待てないメイは砂を蹴り上げ、ロックライノの後方へと駆けていく。
狙いは後ろ足から登って、背中を駆け抜けて頭へと向かう形だ。
後ろ脚のところまでくると、のんびりと歩いていたロックライノの左足がちょうど地面に突いた。
「わわっ!?」
それは召喚の象が着地した瞬間の様に、地面を激しく揺らす。
その勢いに思わず跳ね上がりながらも、メイはそのままロックライノの左後ろ足へ。
樹齢数千年の屋久杉を思わせるほどの大きさの脚に、足をつけると――。
「それではおじゃまします! 【装備変更】【モンキークライム】!」
頭装備を【鹿角】に替え、そのまま一気に駆け上がっていく。
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