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1343.ちょっと危険な『麻』狩りクエスト

「ああっ、もったいない!」


 動きが遅くなったことより、クマの主食というイメージが強いハチミツを投げてきたことに、衝撃を受けるまもり。

 ハチミツによって『べっとり状態』になったところで、クマたちは攻撃を再開。

 前衛クマたちは再び左右から接近し、その片腕を上げた。

 そして振り下ろす【スマッシュクロー】

 爪から伸びた四本の斬撃が、左右から同時に迫り来る。


「【クイックガード】【地壁の盾】、盾っ!」


 敵の攻撃は同時。

 だが二枚の盾による完全同時防御はできないため、弓を引くような姿勢をとったまもりは、まず右手の盾で先に空刃を受け、一瞬遅れて左の盾でも防御を成立させた。

 まもりならではの、見事な手際だ。


「【大回転撃】!」


 そのまま両手の盾をぶん回し、先ほど【獅子霊の盾】を決めたクマを斬り飛ばす。


「【フレアバースト】!」


 二体目のクマは、レンから【マジックイーター】しておいた爆炎を続けざまに叩き込んで、吹き飛ばした。

 その瞬間、聞こえた風音。

 まもりは『空いた』盾を、すぐさま三体目のクマに向けた。


「【マジックイーター】! 解放!」


 迫り来ていた【風弾】を吸収し、すぐさま使用すれば、駆ける風が三体目クマの体勢を大きく崩す。

 まもりはこの隙に、追撃の態勢に入る。


「【シールドバッシュ】!」


 突き出す盾から生まれる衝撃波で、三体目を吹き飛ばした。

 これで残ったのは、四体目のクマのみ。

 振り返ったまもりは、最後のクマと向かい合うが――。


「……あっ」


 さっき斬りかけだった大木が、衝撃波に揺れて傾倒を開始。


「あああああっ!」


 まもりと最後のクマを、押し潰さんとする角度で倒れ込んできていた。

 すぐさま逃げようと、走り出すが――。


「う、う、動きが遅いですっ!」


 ハチミツの効果で、足の動きがいつもより完全に遅い。


「あああああああ――っ!! ちちち【地壁の盾】ッ!!」


 まもりは慌てて防御に変更。

 二者を押しつぶす形で倒れた【ヒノキ】の大木。

 巻き込まれたクマは吹き飛び、まもりは防御に成功するも盛大に弾かれる。


「きゃああああーっ!」


 そのままゴロゴロと転がって、【ヒノキ】の幹にぶつかって停止。


「…………」


 結果、どうやら三本目の伐採に成功したようだ。

 HPゲージを失い転がっていたクマたちは、のそのそと立ち上がり、肩を落としながら去っていく。

 こぼれたハチミツの方を、チラチラ名残惜しそうに振り返りながら。


「あのクマパーティを、追い返してくれたのか……!?」


 息をつくまもり。

 そこにやってきたのは、斧を携えた木こりらしき者たち。


「これは助かった……!」

「あいつら一体ずつなら良かったんだが、俺たちがチームで戦ってるのを見て、連携を組み始めたんだ」

「と、とても知能が高いです……っ!」

「この前なんか、クマが作った落とし穴にはまっちまってよ」

「に、人間側がクマの罠にかかったんですか!?」

「そこにイガグリがドバーよ」


 愕然とするまもりに、木こりたちが肩をすくめる。

 よく見ると一人の木こりの頭には、まだ栗が刺さってる。


「とにかく、クマを追い払ってくれて助かったよ」

「俺たちは木材の回収なんかを生業にしててな。お礼と言っちゃなんだけど、この【ヒノキ】は俺たちが運ぼう。加工も受け持つぞ!」

「あ、ありがとうございます……っ。なんとか最高の木材を手に入れられましたっ」


 ハチミツまみれのまもりはちょっと舌なめずりをして、その甘さに笑みをこぼすのだった。



   ◆



 ツバメは京の東北部にある、高山の一つに向かっていた。

 森林限界を超えると見える、切り立った岩峰が続く光景。

 それはこのクエストが、クライミングの領域にあることを示唆している。


「良い【しめ縄】を作るための【王麻】は、この岩山の上ですか……」


 もらった地図の注意書きには、【王麻】は高いところにある物ほど程良い物になるという文字。

 足場は『高山に棲むヤギが、足を引っかけてる出っ張り』くらいの感じだ。

 もちろん落ちれば、落下死も普通に起きる状況。

 ツバメはロッククライミングにほど近い角度の岩壁に張り付き、少しずつ上がっていく。


「これが【王麻】ですね……」


 割と早い段階から、細い足場に見られる花。

 四枚花弁の淡い紫を見ながら、ツバメは高所を目指す。すると。


「……なぜでしょうか、フワフワしてきました」


 視界が若干ぼんやりして、身体も熱を帯びる感覚。

 よく見ると【王麻】の花から出た花粉が、付近を滞留しているのが見える。


「っ!? ちょっとこのクエスト、危険ではないですか!?」


『麻』から出る花粉に触れると、身体に高揚しているかのような変調が起こる。

 それはちょっと不謹慎なジョークのようだ。


「急いだほうが良さそうです」


 視界や感覚に誤差が生まれるのは、崖という場所では危険以外の何物でもない。

 ツバメは移動の速度を上げ、より高所を目指して登る。


「っ!」


 その耳に聞こえたのは、けたたましい鳥の声。

 鷲を一回り大きくしたくらいの大きさの怪鳥は、鋭い鉤爪でツバメを狙ってきた。


「はっ!」


 ツバメは崖に張りついたまま、思い切って横っ飛びすることでこれを回避。

 隣りの出っ張りに手足を引っ掛け息をつくが、やはり高揚状態だとイチかバチかの感じがある。

 一方怪鳥はすぐさま空中で転回し、再びツバメに鉤爪攻撃を仕掛ける。


「くっ!」


 続けて右に跳び、どうにか攻撃を回避するも、右手が上手くかからなかった。

 それでもどうにか足と左手でバランスを取り、落下を防いでみせた


「このままでは、危険です……っ!」


 回避を続けることはできても、この状態では上に登れない。

 それでは【王麻】の花粉による、高揚だけが強くなる。

 そうなった時、手足を上手にかけられない可能性は極めて高い。

 ツバメは少し大きく出っ張った部分を見つけたところで、勝負に出る。

 怪鳥の攻撃をその大きな出っ張りに飛び乗る形で避けたところで【跳躍】


「【反転】!」


 身体を翻して、カカトを出っ張りに乗せる。


「【投擲】!」


 揺れる視界の中でも、冷静を保って投じる【雷ブレイド】

 見事に直撃させて、怪鳥を落とすことに成功。


「これくらいならまだ、問題ありません……っ!」


 しっかりとした対応で、安堵の息をつくツバメ。

 しかし怪鳥は、この程度では倒れない。

 再び上がってくると、今度は大きな羽ばたきで風を吹かせた。


「……?」


 それは体勢を崩すほどでもなく、ツバメは首を傾げる。

 しかし吹き付ける風は、フワフワしていた花粉を一斉にツバメ吹きかける。

 そして本体は、その場に寄ってこない。


「た、戦い方が、とてもいやらしいですっ!」


 高揚が進み、視界も大きく揺れ始める。

 身体に感じる熱は、気をつけないと手や足を滑らせてしまいそうだ。

 すると怪鳥はさらに、笑い声みたいな鳴き方をした。


「そういうことでしたら……! 【連続投擲】!」


 完全に小バカにされたツバメは、進む高揚の中で反撃に入る。

 二本ずつの【水ブレイド】と【氷ブレイド】によって属性効果を発動。

 広がった飛沫が凍結し、怪鳥を攻撃する。

 さらに翼の一角が凍結した怪鳥は、慌てて逃げ出していく。


「一昨日おいでください……っ! さあ、急ぎましょう……!」


 ツバメは踏み外しに十分気を使いながら、崖を上がる。


「……これは、もしや」


 すると、聞こえてくるたくさんの怪鳥の声。


「いっぱい、連れてきました……っ!」


 振り返ると、今度は怪鳥が群れをなして飛んできていた。

誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!

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― 新着の感想 ―
クイズですが問題文の時点で誰の額になんの文字が書かれているのか分からないのでこの答えだと間違いですね
うーむ、組み合わせの妙というか…。 我らが野生王なら、簡単だった気がする。 木こりは、斧の一振りで幹を粉砕して、倒れて来る木を片手で抑えて終了。 クライミングは、花粉を感じる間もなくモンキークライム…
まさかぶつけられる事でしか手に入らず、戦闘中のためどうがんばっても少量の小瓶サイズぐらいしか残せないハチミツがSSRアイテムだったなんて! (早く倒すと投げてくれず、遅すぎると全部地面に流れちゃう) …
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