1338.青き星への帰還
「あの船を使わせてもらえないかな?」
「そういうことね」
戦いを終えたメイたちだが、月の船はテネブラエの前に置いてきたままだ。
大型飛行艇まで、同じルートを戻っていくというのはさすがに手間がかかる。
そう考えていたレンは、深くうなずいた。
「紅の翼の飛行艇に乗せてもらって帰るのも、楽しそうだったけどね」
アンブラの駐機場には、オブスクルスが準備していた大型船。
乗り込んでみるとやはり、その内容は同じ。
さっそくツバメが舵を取ると、今度は窓部分にセレーネやムーナ、ラビが並ぶ。
「それでは発進します!」
問題なく浮かび上がる飛行艇。
ツバメはアンブラからルアリアを経由して、テネブラエへ向かうルートを取る。
「月ともしばらくお別れですね」
「そうだねぇ」
今は静かな古き国々を眺めながら、船は高度を上げていく。
そして月を離れると、今度は青の星に向かって一直線。
どうやら大型船は、ブライトに向かっているようだ。
「こ、こうしてみるとブライトの滑走路は綺麗ですね」
「本当だねっ」
時刻は夜。
飛行機で帰って来た時のような、点滅による誘導に従って船が降りる。
「ただいま戻りましたーっ!」
着地すると、さっそく甲板に出るメイ。
全員で外に出ると、最初にやってきたのは兵長。
「……塗装を変えたのか?」
意外な一言目に、思わず笑う四人。
その直後、続いたムーナとセレーネ姉妹を見て、すぐに踵を返した。
「関係各位を呼ぼう。お前たちのことだ、うまくやったのだろう?」
「はいっ!」
ピースで応えるメイに笑うと、兵長は駆け出した。
そのままメイたちが夜の滑走路を眺めていると、すぐにブライト王やモナココ王女、考古学者たちがやってきた。
四人は聞かれるまま、月の実態を説明する。
「なんと! 月から来ようとしていた魔物と侵略者がいたというのか……」
「どうやらまたしても、助けられてしまったようだな。では、私は飛行珠やフロートの再起動に回ります」
ブライト王と兵長は、月の獣とアンブラ王の野望を知り安堵。
これまで停止していた飛行艇のフロートを、動かしに回る。
「このお二人が、ルアリアの王族……私の遠い祖先にあたるのですね……」
モナココ王女は、姉妹を見て感嘆の息をもらす。
「お二人はどうされますか? よろしければルアリアの民がこの星で築いた国であるモナココに来られませんか?」
「助かります」
「よかったね、セレーネ」
こうして姉妹とラビの行き先も決定。
するとここで、『石』を手にした考古学者が語り出す。
「警報を受信していたこの石は、月やその周りの隕石が原産のようだ。まだ月には様々な新素材や、この星の技術を進化させる機器があると思われますよ」
するとその言葉を聞いたブライト王が、モナココ王女に問いかける。
「ならばいかがでしょう。今後はブライトとモナココで、月の調査を進めるというのは」
「そうですね。モナココとしては故郷である月の文明には強い興味があります」
姉妹の行き先と、月の文明への進出。
ブライトとモナココはこれから、新たな関係になっていきそうだ。
セレーネとムーナの知識や能力も、活きることになるだろう。
「ありがとうございました。月の民の末裔として、この星を守り続けてくれていた祖先を連れ帰って来て下さったことに感謝します」
「月の獣の討伐。見事であった。飛行珠とフロートをウィンディアと共に管理する我らにとっても、大きな危機を逃れることができた。あらためて礼を言おう」
こうして、月に隠されたクエストは無事終了。
セレーナとムーナ、ラビは兵長の飛行艇でモナココに帰還し、最高の形での達成となった。
「すごい冒険でしたね」
「は、はひっ。まさか月に行くことになるとは……っ」
「すっごく楽しかったよーっ!」
駐機場から夜の滑走路に出て、並んで進む四人。
「メイちゃーん!」
するとそこに、紅の翼の飛行艇も帰ってきた。
「月すごいぞー!」
「月?」
言われて見上げるメイ。
「メイちゃんたちが戦ったクレーター、ここからでも緑が見えるぞ」
「それはすごいわね……あ、本当だ」
「驚きました……確かに小さく緑が見えます」
「こ、ここから見えている月にも影響が出るんですね」
これには感嘆の声をもらす四人。
「クレーターにはそれぞれ『――の海』って名前があるんだけど、俺たちはあの緑のクレーターを『野生の海』と呼ぶことにした」
「困りますーっ!」
メイ、恐ろしい速度で反応。
「それなら『野生児の海』かな」
「違いますっ! そういうことではないんですーっ!」
「なるほど。分かったよ、メイちゃんの言いたいこと」
「そうそう! そうなんですっ!」
思いが伝わったようで安堵の息をつくメイに、大きくうなずく掲示板勢。
「――――『野生王の海』だよな!」
「わああああああ――――っ! そういうことではありません――――っ!!」
訂正する度に悪化する名称。
どうやら緑のクレーターは、このまま『野生王の海』として語り継がれることになりそうだ。
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