1337.月の物語の終幕
「やったー!」
吹き抜けていく風に、メイの歓喜の声が乗る。
月に生まれた、大きな緑のクレーター。
月の獣デラヴォロスは、HPゲージの全損と共に粒子となって消えていく。
「みんな、ありがとーっ!」
駆け戻ってきた召喚獣たちを受け止めたメイは、その毛並みに埋もれながら勝利を祝う。
するとそこに、レンたちも駆けつけて来た。
「最後はすごかったわね!」
「とんでもない速さの落下攻撃、見応え十分でした!」
「お、思わず見とれてしまいましたっ」
見ごとな勝利を、抱き合ってよろこぶ四人。
歓喜の輪を見ながら、セレーネは呆然とする。
「本当に……誰にも止められなかったデラヴォロスを、倒してしまいました……」
月の文明を崩壊に追い込み、その封印のためには強い力を持つ王家の血が必要になる最悪の兵器は、確かに打倒された。
「やったね、セレーネ!」
月の姉妹は背負い続けた重たい役目から、解放されることになった。
二人は抱き合って奇跡を喜び合うと、そのまま手前にいたメイのもとへ走り出す。
そしてなんと、二人一緒に抱き着いた。
「ありがとうございましたっ! まさか本当にデラヴォロスの呪いから解放されるなんて……っ!」
「メイたちのおかげだよっ!」
「いえいえーっ」
笑うメイのもとに、最後に駆け込んできたのはラビ。
「わあ!」
そのまま顔に飛びついて、メイはセレーネたちに押し倒されるようにして尻もちをつく。
「下がしっかり草になってるせいで、月っぽく見えないのが面白いわね」
「そうですね」
「こ、こんなにうれしそうにするクエスト主は、なかなか見られませんねっ」
力いっぱいメイを抱きしめる姉妹。
あらためて辺りを見回すと、一面の木々と生えそろった草が綺麗で、とても月の荒野には見えない。
「また今回も、派手にやりましたわね」
そんな光景を見ながら、笑うのは白夜。
メイの一撃の余波で危うく墜落しそうになった飛行艇をどうにか持ち直し、この場まで戻ってきたようだ。
「メイさんの驚異的な攻撃はもちろん、狂眼からの見事な防御、一人で二度刺す時間差攻撃、聖なる槍の七連続発射などは、光の使徒も驚く一撃でしたわ」
「『率いる者』の打倒、助かったわ。あと一手遅かったら、アンブラ王との戦いの時点でシナリオが変わる可能性もあったし」
そう言ってレンは、ラビの毛並みを撫でる。
『率いる者』の召喚までに打倒できていなかったら、このウサギは敵になってしまっていた。
完全攻略は、紅の翼の戦いもあってこそだ。
「ぜ、全員無事で終われるのは、本当にうれしいですね……っ」
「はい。ラビさんの生存は、単純に最難関レベルのクエストだったと思います」
「やるわね、白夜」
「すごーい!」
「当っ然ですわね! 所詮は本筋から生まれたサイドストーリーのボス。紅の翼にわたくしの統率力があれば、苦戦などありえません。余裕ですわ!」
もう笑ってしまうくらい、胸を張ってみせる白夜。
これ以上ないほどに、ご満悦だ。
「まあまあ苦戦したよな?」
「俺瀕死だったんだけど」
「メイちゃんたちの動きが速かったから、俺たちも月光砲に吹き飛ばされずに済んだんだよな」
その横で、苦笑いする紅の翼の面々。
「おい、やったな!」
「お見事っスよ!」
「ちょっと貴方たち! 押さないできゃあっ!?」
さらに背後から飛び出してきたナギとディアナに押されて、甲板の縁から落ちる白夜。
そのまま着地して尻もちをつくと、しっかり落下ダメージを取られた。
「みんなもありがとーっ!」
「とんでもないぽよっ!」
「お役に立てて良かったです!」
『率いる者』との戦いでも、見事な戦果を出したスライムと迷子が顔をのぞかせる。
「闇を超えし者を追うと決めた以上、これくらいは当然でしょう」
レンの手前、クールに決める樹氷の魔女。
「俺たちもいるぞーっ!」
「おっ、おい! 押すな!」
手を振るメイ見たさに、我先にと出てきたマウント氏や計算君の勢いに押されて、雪崩れるように飛行艇から落下する掲示板組。
それを見て、大笑いしていた紅の翼の面々も足を滑らせ転落。
メイたちとの戦いですっかりテンションが上がった者たちは、今日も楽しそうだ。
「……これで月はようやく、何千年も前に始まった争いによって生まれた危機から解放されました」
そんな中セレーネは、広がる緑の光景を見ながらつぶやく。
本来は冷たい荒野を見ながら言うことで趣が出るシーンなのだが、下草とラビがいるせいで、どこか牧場みたいな雰囲気が出てしまっている。
「ムーナは、これからどうするのですか?」
「私は一度、青の星に戻ろうかな」
「それなら私も付いていきます。もちろん……ラビも一緒に」
「それがいいよ!」
再びラビを交えて、喜び合う姉妹。
実はここで単純に喜ぶ姿だけを見られるのは、この小さな『ウサギの獣』を助けられた場合のみ。
まさしく、最高の形でクエストを達成したと言っていいだろう。
「行こう! 青き星へ!」
二人は振り返り、宙を眺める。
そこには、青く輝く星が浮かんでいる。
そしてそんな二人とウサギの姿を見て、メイたちは笑い合うのだった。
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