1334.移り変えるもの
敵の新たな姿は、巨大な黒のジャガーに鷲の翼が生えたもの。
デラヴォロスの放った【紅蓮灼火】をまもりの盾が弾くと、大きく火花が飛び散った。
「段階ごとに変身して戦うってより、戦いの中でいきなり姿を変えてくるのね……!」
移動中に前兆もなく変化して、挨拶代わりの炎弾という攻撃に驚くレン。
着地して甲高い咆哮をあげたデラヴォロスは、新たな姿でスキルを発動する。
【一突きで殺すもの】は大きな輝きを放ち、その体躯に魔力をバチバチと走らせる。
「この感じ……ボスが能力上げ? 怖いわね、気をつけましょう」
レンの注意に、意識を集中させるメイたち。
するとデラヴォロスは、その黒い翼を大きく広げて羽ばたいた。
「「「「っ!?」」」」
すると駆け抜けていく黒風が、付近一帯を塗りつぶす。
そして闇の中にいるかのように、視界が失われたところで――。
「来るっ!」
走り出す音に、メイがいち早く気づいて伝える。
視界のせいで誰が狙われるか分からず、しかも一定以上の距離まで接近した時点でしか気づけなくなる非情な敵スキル。
メイの前に、闇を割るようにして現れたデラヴォロスの【叩きつけ】が迫る。
「【アクロバット】!」
【一突きで殺すもの】による火力向上効果で、前足の叩きつけは地面に潜るほどの火力となる。
これをメイがバク転でかわすと。豪快に飛び散る土くれ。
デラヴォロスは続けざまに、もう一方の足を叩きつけに来る。
「【アクロバット】!」
さらに大きなバク転でかわすと、デラヴォロスは闇の中へと消えていった。
「ツバメちゃん! これは……飛び掛かりだよ!」
メイが呼ぶと、わずかな時間差を置いて黒のジャガーが、ツバメのもとに飛び掛かってきた。
不運にも斜め後方からの攻撃となったため、普通であれば間違いなく直撃を受けてしまう状況。
「ありがとうございます! 【加速】【リブースト】!」
しかし前もって敵の狙いが自分だと知らされていたツバメは、超高速移動でこれを回避。
「【反転】!」
すぐさま振り返って、正面から来る前足の叩きつけを、横への移動でしっかりと回避。
「この威力、直撃はマズそうですね! 【連続投擲】!」
再び向かい合ったところで先手を打つと、デラヴォロスは大きく跳躍して闇に消えた。
「今は……空を飛んでる」
足音の代わりに聞こえた翼の羽ばたきから、メイは敵の状況を捕捉。そして。
「多分まもりちゃん! 空から来るよ!」
「は、はひっ!」
メイの言葉の直後、上方から現れたのは速い滑空で迫るデラヴォロス。
「【不動】【地壁の盾】!」
これまでの流れも踏まえて、まもりは完璧なタイミングで防御を発動させる。しかし。
「っ!?」
その攻撃は【喰らいつき】
【一突きで殺すもの】で威力を上げたこの攻撃は、防御を無視して貫通する。
「きゃああああああ――――っ!!」
そのままくわえ上げられたまもりは、強く地面にたたきつけられて転がった。
「まもりで、一撃3割っ!?」
防御を許さない飛行攻撃が、悪視界の中を飛んでくる。
しかもその火力は折り紙付きという恐ろしさに、思わず息を飲むレン。
「でも、闇は晴れてきた……!」
ようやく【夜煙風】の影響が消え始め、身体にまとった【一撃で殺すもの】の効果も消失。
流れ出す安堵の気配。
しかしデラヴォロスの攻勢は、止まらない。
その巨躯をグッと大きく沈ませると、弾丸のように一直線に走り出す。
シンプルな直線特攻は、速すぎて身体が残像を残すほど。
「わあっ!?」
「くっ!」
「きゃあっ!」
なんとメイ、ツバメ、レンの三人を、まとめて弾き飛ばしてみせた。
さらにデラヴォロスはここでツバメのような速い反転を見せて、その口に橙の輝きをのぞかせる。
放たれた再びの【紅蓮灼火】が、追撃の形で迫る。
先ほどを大きく超える十連の火炎弾は、溶岩の様に煌々とした光を放ちながら接近。
全体に高いダメージを与える、厳しい一撃になりそうだ。しかし。
「【受け身】!」
高速体当たりから最速の復帰を果たしたツバメは転がり立ち上がると、即座に【加速】で火炎弾の通り道へ。
「【剣速向上】【斬り捨て】――――【十二連剣舞】!」
二本の短剣で放つ超高速の乱舞が、迫る火炎弾を斬って、斬って、斬り飛ばす。
弾け飛ぶ火花は、舞い散り闇を彩っていく。
なんとツバメはそのまま、迫る火炎弾の全てを斬り払ってみせた。
「す、すごいです……っ」
盾によって受けるのとはまるで違う戦法に、感嘆するまもり。
もちろん敵は、大技による攻撃を放った直後だ。
ツバメに助けられたレンはすでに体勢を立て直し、準備を始めていた。
「レンちゃんっ!」
その姿に、思わずメイが歓声を上げた。
外した【宵闇の包帯】が宙を舞い、【常闇の眼帯】が足元に落ちる。
同時に外せば、上級魔法でも五連発の発射が可能となる。さらに。
「ルーン発動」
ここで自らにかけた【増幅のルーン】も乗せて、レンは杖をまっすぐデラヴォロスへ向ける。
「【聖槍】」
杖の先端部分を中心にして生まれた、八本の光の槍が衛星の様にゆっくりと回転。
わずかな時間差で、一斉に放たれる。
闇の残る空を一直線に飛んでいく光の槍は、その全てがデラヴォロスに突き刺さると、一瞬遅れて一本ずつ爆発。
爆発はつながり、最後には八つの爆破を集めた大きなものとなる。
「おおーっ! かっこいい――っ!!」
「こ、神々しいです……」
「次からは詠唱が必要ですね。内容は讃美歌を思わせる内容で――」
「やめなさいっ!」
敵の攻撃を制止する最高の動きを見せたツバメと、目を奪うほどの一撃を生み出したレン。
そんな二人が真面目に詠唱の是非を始めて、まもりが思わず笑う。
舞い落ちてくる魔力粒子。
そんな中、デラヴォロスはゆっくりと立ち上がる。
そして四足歩行ならではの柔らかな足運びで、走り出した。
その姿に、レンが驚愕する。
「待って……姿を戻すのっ!?」
まさかの事態。
なんとデラヴォロスはその姿を、二足のウサギ形態に『戻した』
あまりに早く、意外な変化。
ウサギの跳躍に対して四人は蹴りを警戒するが、放たれたのは強く地を蹴る【マッド・スタンプ】
「わわわっ!?」
生まれた大きな揺れに、四人は思わず足を取られて体勢を崩す。
するとデラヴォロスは一直線に跳び、ツバメに【閃光雷神蹴り】を叩き込んだ。
「ああああっ!」
ここでメイたちは当然、ツバメへの追撃を警戒する。
「また、戻った!?」
しかしデラヴォロスはジャガー形態に戻り、その口から真ん丸の炎弾を吐き出した。
個人ではなく、三人の真ん中に放たれた炎弾は【小さな太陽】
「「「っ!!」」」
放つ閃熱は守る三人にまとめてダメージを与えると、何とその場に残り、今度は煌々と輝きながらスリップダメージを与え続ける。
やっかいなのは、この攻撃は一度展開されてしまったら防御しない限りそこそこのダメージを受け続けるので、身動きを止められてしまうこと。
この隙にデラヴォロスは背中の黒翼を開くと、再び【夜煙風】を張り直した。
【小さな太陽】が消えた時には、すでに視界が闇の中だ。
「……ジャンプした! 狙いはレンちゃん!」
レンは前足の『叩きつけ』と『噛み付き』を警戒して視線を走らせる。しかし。
「っ!?」
闇を割いて現れたその姿に、驚愕。
「また、ウサギに変化してる!」
予想よりも高い打点、そして姿を変えていたという事実に回避が遅れた。
「きゃああああ――っ!」
防御だけでは間に合わず、【超雷光蹴り】を喰らったレンが転がる。
ここでさらにデラヴォロスは両の前足を使った【マッド・スタンプ】で地面を大きく揺らす。
見えない敵の振動攻撃の回避など、ほぼ不可能。
「「「「っ!!」」」」
全員が、その場に転倒してしまう。
すると晴れ始める闇。
辺りを見回せるようになってきたが、またもジャガー形態になったデラヴォロスは空。
【灼炎特攻撃】は、豪炎をまとって敵に突撃する範囲攻撃だ。
羽ばたき一つで一気に最高速になると、そのまま一直線。
続く大きな危機……だが。
この容赦のなさは、レンに『対処法があるはず』と思わせるのに十分だった。
「……飛行攻撃なら対応できるはずっ! ムーナお願いっ!」
「まかせてっ!」
激しい戦いに対して、距離を置いていたムーナが片手を突き出す。
そして炎をまとわせながらの超高速特攻が、無防備なメイたちの目前まで来たところで――。
「【グラビティアップ】!」
まるで迫る隕石を念力で反らすかのように、持ち上げた手に合わせて敵の航路がそれた。
頭上数十センチのところを通り過ぎていったデラヴォロスはそのまま地面に激突し、派手に土煙を上げて転がる。
かつてない大きな隙。
しかし敵までの距離は長く、大きな攻撃を入れるのは難しそうだ。
「【疾風迅雷】【加速】! 【加速】【加速】【加速】!」
誰もがそう思う中を、駆けていくのはツバメ。
雷光のごとき速度で駆けつけるが、やはり間に合わない。
一歩早く身体を起こしたジャガー形態のデラヴォロスは、そのまま【喰らいつき】でツバメに噛みつき天を向く。しかし。
「……それは【残像】です」
消えたツバメに気づいたデラヴォロスは、慌てて下方を確認。
前足を叩きつけると、跳ね飛んだのは大きなヒヨコちゃん。
「こっちです! 【空襲】【アクアエッジ】!」
その時すでに敵の側面に回っていたツバメは【跳躍】から【エアリアル】の二段ジャンプで高く跳び、デラヴォロスの首元へ。
手にした短剣から伸びた水刃を二本続けて刺し込んだ。さらに。
「【壁蹴り】」
デラヴォロスの首元を蹴って後方に下がるように跳ぶと、その手に【村雨】を取る。
「――――【水月】」
今度は伸びる水刃が、デラヴォロスの首元を貫いた。
「戻り際にもう一撃……っ!?」
「あ、あんなことが可能なのですか……っ?」
「ツバメちゃん、すごーい!」
飛びつき時に一発、離れ際にもう一発。
そんな奇抜な発想に、大喜びのメイたち。
そのさらに後方では、掲示板組が飛行艇からこの戦いを見ていた。
「敵も強すぎるけど……」
「アサシンちゃんの動きが、ヤバすぎる……」
「ちなみに聖なる槍の連射を見てから、樹氷ちゃんは惚けたままだぞ」
「お見事……ですわね」
一人で二度刺す奇妙な連携は、個人プレイの長かったツバメならではのセンス。
柔らかな着地を見せる姿は、まさに魔を狩る暗殺者だ。
紅の翼の甲板の上も、その見事な戦いに盛り上がっていく。
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