1333.月の獣王
かつての住民が、誰もいない月。
そんな中で人知れず目覚めた、月の獣王。
顔のない、黒い蛸のような生物がゆっくりと空をたゆたう。
「邪神って感じね」
気味悪く、しかし堂々とした姿を見せるデラヴォロスは、メイたちの姿を確認。
もはや神々しさすら感じる高い咆哮と共に、こちらに向けて飛来する。
「セレーネ、一緒に帰ろうね!」
「……そうですね」
そしてムーナの言葉に、数千年の時をかけた戦いが始まった。
高速飛行での接近。
メイたちがその対応に出ようとした、その瞬間。
「「「「っ!?」」」」
突然その姿が、二足の巨大な白ウサギに変化した。
大きく発達した腕を持つウサギは、長い耳を後方に揺らし、その真っ赤な目でメイたちをしっかり狙う。
黄金の紋様が刻まれた脚で豪快に跳ぶと回転し、その足に走る強烈な雷光。
【閃光雷神蹴り】を、叩き込みに来る。
「【かばう】【天雲の盾】!」
あまりに自然な流れでの変身に思わず驚いたメイたちだが、まもりがこれを防御。
「っ!!」
大きく弾かれて下がる。
弾ける雷光の中で着地したデラヴォロスは、今度はツバメを狙って跳躍。
華麗な縦回転から放つのは、踏みつけ型の蹴り【マッド・スタンプ】だ。
ツバメはこれを大きなバックステップでかわすが、地面を走るのは大きな揺れ。
「「「っ!!」」」
思った以上の揺れ方に、全員が腰を落として体勢の維持に入る。
デラヴォロスは当然、この隙を利用する。
銀に輝く鋭い爪で放つのは、大きな斬撃。
「伏せて――っ!」
メイの早い指示が活きる。
払う形で放たれた一撃を、跳躍や移動でかわすのは難しいが、身を低くすることで潜り抜けることができる。
ツバメたちは即座にその場に伏せることで、これを回避。
「まだだよっ!」
しかし爪による攻撃は、二連撃。
何人巻き込めるか。
そんな位置を狙って振り下ろされる、強烈な一撃。
「転がって――っ!!」
言われるまま全員で左右に転がると、ギリギリで爪の直撃回避に成功。
巻き起こる風に手間取る中、受けた余波の小さかったレンはすぐさま反撃を開始。
「【連続魔法】【ファイアボルト】!」
様子見の炎弾を、デラヴォロスはウサギらしい軽快なステップで回避。
そのまま反撃を狙った大きな跳躍でレンを狙う。
「【フレアストライク】!」
しかし大型の魔物が空中にいる状態は、格好の『的』
放つ炎砲弾で、討ち落としに行く。
「っ!?」
起きた変化に、目を見開く。
デラヴォロスの白毛並みが『黒』に変わると、燃え上がる炎のダメージは大幅減。
勢いを衰えさせることなく、レンのもとへ跳んでくる。
その脚には【閃光雷神蹴り】の輝き。
「【かばう】! 地壁の――きゃあああっ!」
「まもり!」
身代わりとなって受けた蹴りに2割近いHPを奪われ、まもりが跳ね転がる。
防御の要が陣を外れたことで、高まる緊張感。
即座に駆け寄っていく、メイとツバメ。
対してデラヴォロスは、前足で地面を強く叩きつける。
「ええええっ!?」
「これはっ!」
強烈な【叩きつけ】は地面を崩落させ、深い穴を生み出した。
「【ラビットジャンプ】!」
「【跳躍】!」
メイとツバメは慌てて跳び越え、そのまま攻撃に入ろうとするが、先に動いたのはデラヴォロス。
その毛色を『白色』に戻して、空中のメイを【喰らいつき】で捉える。
「させません! 【空襲】!」
ツバメは即座に空中からの刺突を決めるも、白色モードのデラヴォロスは止まらない。
「うわーっ!」
メイはそのまま地面に叩きつけられ、1割半のダメージを受けた。
さらにデラヴォロスは、追撃狙いの跳躍。
予備動作が【閃光雷神蹴り】か【マッド・スタンプ】か判断しづらく、メイは悩むが――。
「ここで汚名を返上してよね! 【悪魔の腕】――っ!!」
前線に駆け出してきたレンが、魔法を発動。
魔法陣を突き破らんとする勢いで出てきた黒腕が伸び、デラヴォロスの片足をつかむ。
すると足をつかまれた巨大ウサギはピタリと空中で停止、そのまま荒野に叩きつけられた。
「やるじゃない!」
実は悪魔の腕は範囲があまり長くなく、敵の速い跳躍に反応できたことが殊勲なのだが、思わず笑みをこぼしてよろこぶレン。
「【加速】【リブースト】!」
もちろんこの瞬間を、ツバメは逃さない。
最高速で、デラヴォロスのもとに駆けていく。
「【剣速向上】【妖刀化】!」
【村雨】で速い振り降ろしから斬り上げ、そのまま回転斬りへつなぐ。
「【三日月】!」
そして弧を描くような大きな振り降ろしへとつなぐことで深い傷を刻み込み、状態異常への耐性を大きく下げる。
「【ヴェノム・エンチャント】!」
ここでツバメは武器を短剣に変更して、さらに踏み込んでいく。
右、左と二発の攻撃を入れたところで、すでにデラヴォロスは反撃の体勢。
「【電光石火】!」
しかし爪の叩きつけを、斬り抜けによって回避しながら攻撃。
背後に回ることで、敵の注意を後方に向ける。
「【反転】【電光石火】!」
そして即座に身体を返しての斬り抜け。
『ツバメ返し』に翻弄されたデラヴォロスは反撃するどころか、ツバメを捉えることもできなかった。
さらに本来8発必要な毒性爆発も、【妖刀化】の傷によって4発で発動。
全身を駆けめぐり暴れる毒に、デラヴォロスが大きく跳ね上がった。
「【装備変更】っ!」
この時すでに立ち上がっていたメイは、ツバメが場を開けたことを確認。
【狐耳】装備で、元気よく右手を突き上げる。
「それでは――――よろしくお願い申し上げますっ!」
メイの後方に現れた魔法陣から、盛大な飛沫を上げて宙を舞う巨大なクジラ。
【幻影】によって二体になったクジラはつがいの様に螺旋を描きながら飛び、そのままデラヴォロスに直撃。
盛大な波しぶきを起こした後、青い豪炎を巻き起こして消えた。
「ありがとーっ!」
帰って行くクジラを手を振って見送ったメイは振り返り、「コンコン」と両手でポーズ。
「「っ!」」
ツバメとまもりの、精神的HPの回復も忘れない。
あらためて、陣を構え直す四人。
すると起き上がったデラヴォロスは、再び駆け出した。
「【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」
レンが放つ牽制の炎弾をしっかりかわし、見事なステップで接近。
そして、高く跳躍。
「毛色は対物理の白のまま、それならっ!」
レンは即座に杖を構え、跳んだデラヴォロスの迎撃に入る。しかし。
「「「「っ!?」」」」
まるでスライムが形を変えるように、空中で突然その姿を変える。
巨大ウサギから、一瞬で黒地の四足獣に変化した。
「これは……ヒョウかジャガーかチーターのどれかですね!」
「どれかだね!」
「ど、どれかですっ!」
この三種の違いが分からないツバメが言うと、全員がうなずく。
「段階を踏まない変身、無貌の獣らしい戦い方ね……!」
しかしこれだけで変化は終わらず、その背中に広がる黒翼。
大きく翼を羽ばたかせると、その口から溶岩のように煌々と輝く炎弾を発射。
放たれた五発の大型炎弾。
メイとツバメはしっかり見極めてこれをかわし、レンはまもりのもとへ。
「【天雲の盾】!」
見事な盾防御で、難を逃れてみせた。
「ようやく戦い方が分かってきたと思ったところでの変化。なかなかやっかいですね」
毛色の変化で耐性を変えてきたため、ダメージもまだ少ない。
四人は気合を入れ直し、勇壮な姿で地に降りたデラヴォロスに向き直った。
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