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1332/1381

1332.目覚める月の獣

 月文明崩壊を先導したアンブラ王、レクス・オブスクルス。

 月の獣の因子を自らに取り込んでの戦いは、メイたちの前に敗れた。

 こうして月をめぐる野望は、潰えたことになる。しかし。


「それでも、最強種デラヴォロスの覚醒は止められないのよね」

「はい、目覚めを止めることはできません」


 静かにうなずくセレーネ。


「これで残された道は、姉妹のどちらが生涯をかけて月の獣を封じ続けるか、打倒してその役目から解放するかとなりましたね」

「か、勝てばいいというのは、分かりやすくていいです……っ」

「負けられないね!」


 メイは両手をグッと握って、気合を入れる。

 月を滅ぼした最強種の誕生に利用された二人は、その責任を強く感じている。

 そしてその解放には、打倒しかない。


「シナリオ次第では……デラヴォロスが巨竜のように宙を渡ってしまうパターンもあるかもね」


 戦いに負けてデラヴォロス封印の『カギ』である姉妹がいなくなってしまい、世界が大きな被害を受ける。

 そんな物語が始まる可能性も、残っている。

 月に隠されたシナリオはとても大きく、特別なものだったようだ。


「デラヴォロスの目ざめはもう、目前です」


 セレーネが、滑走路の先に続く荒野を見ながら告げる。


「かの最強種は、わずかな時間で月を崩壊させた恐るべき魔物」


 その表情はやはり、暗い。


「でも私はね、大丈夫じゃないかなって思ってる」


 すると続けたのは、妹のムーナ。


「ムーナって、そんなに楽天的でしたっけ?」

「だって、私をここまで連れてきてくれたこの冒険者たちは……すっごく強いんだよ! あのオブスクルスでも歯が立たなかった! いくつもの危機を超えてきた力は、本物なんだよ! ねっ?」


 共に旅をすることで戦う姿を見てきたムーナは、ラビを抱きしめながらセレーネに笑いかける。

 するとラビもムーナの肩に登り、その言葉を肯定するように飛び跳ねた。


「長い長い時を経て、再会した三者。いよいよ負けたくなくなりました」

「は、はひっ!」


 姉妹とラビの姿を見て、ツバメとまもりが覚悟を決める。


「……メイ、多分ここが戦いの場になるわ」

「りょうかいですっ!」


 さっそく動き出すメイ。

 レンも始まる大きな戦いに向けて、包帯と眼帯の装備を取り出し準備を開始。

 ツバメやまもりとの、スキルの確認も忘れない。


「……本当に、戦うのですか?」


 しばらくして投げられた言葉に全員でうなずくと、そのままセレーネに連れられる形で歩き出す。

 奇跡のラビ救出によって、そろった月のフルメンバー。

 灰色の大地を歩き続け、アンブラの先、大きな平地の真ん中へと向かう。


「大きな戦いにピッタリね。その上遮蔽物もなし」

「真正面からのぶつかり合いになるわけですね」

「ドキドキしちゃうね……!」

「は、はひっ」


 やがてセレーネが、足を止めた。

 続く荒野の中心。

 見えるのは星の瞬く宙と、青い星の輝き。

 静かに、その顔を上げるセレーネ。


「――――封印が、解けます」


 緊張の言葉と共に、静寂の中にあった月面に噴き始めた風。

 徐々に強くなり、渦を巻き、灰色の砂を巻き込んでいく。

 震え出す大地が、これから現れる敵の恐ろしさを物語る。

 やがて地上十五メートルほどのところに、大量の光が集まり始めた。

 一か所に無数の光線が収束していく光景は、不思議と神々しい。


「「「「っ!?」」」」


 そして、炸裂。

 すると今度は風が、外に向けて駆けていく。


「その身体を動かす魔力の吸収や循環を停止して、眠りにつかせることができるというのが私たちの力。解ければすぐに魔力を吸収し始めます」

「そうなったら、異空間に留めておくことができなくなるんだよ」


 空に走り出す、盛大なヒビ割れ。


「「「「っ!!」」」」


 直後。大量の粒子をまき散らして、封印の空間を作っていた魔力の壁が粉砕した。

 そこから見たことのない巨体が異空間を抜け出し、ゆっくりとこちらに現界してくる。


「これは……迫力がありますね」

「は、はひっ」


 現れた化物の姿に、思わずまもりが盾を強く握る。

 まず月の獣の最強種、デラヴォロスには顔がない。

 全身は黒く、長くのっぺりとした触手を何本も垂らしている。


「例えるなら、漆黒のクラーケンって感じ?」


 レンは、無貌の獣を見てつぶやく。

 特徴的なのは、頭上に十字をつないだ金冠のようなものが生えていること。

 そしてその身体に走る、黒い紋様くらいだ。


「こ、これが、デラヴォロスですか……」


 緩く広がる触手たち。

 目覚めたデラヴォロスはわずかに浮遊しており、まるで大きなマントを揺らしているかのように見える。

 覚える、悪しき神々しさ。


「私も手伝うからね! 絶対にセレーネを連れて帰るんだからっ!」


 そう言って気合を入れるムーナの足元に、ラビも陣取る。


「私も、お手伝いができそうなら全力で加勢します」


 そこにセレーネも続いた。


「でも、無理はしないでください」


 それからメイたちのもとに来て、ムーナに聞こえないよう小さな声でそう続けた。


「いざという時はムーナとラビを連れて月を出てください。どうか、よろしくお願いします……っ」


 その表情に見えるのは、憂いと決心。


「逃げるルートもあるわけね。でもそんなこと言われたら、余計に負けられないわ」

「絶対に、みんなで一緒に帰ろうね!」

「こうなったらもう、勝つしかありません!」

「が、がんばりますっ!」


 数千年前、月を滅ぼした獣の最強種。

 あがる咆哮はどこか甲高く、幻想的にすら感じる。


「みんな、みんな……一緒に連れて帰りますっ!」


 そんなメイの宣言と共に、姉妹たちの絆と世界の命運をかけた戦いが始まった。

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― 新着の感想 ―
地下に封印かと思ったらまさかの異空間! 空間破砕演出はどんなのでもドキドキする! 姉妹W重力制御とかも要所に挟んでくれると期待して、まて次号!
最終決戦開始ですね…この構図、公式本にナイトメアと月の獣の対比が描かれそう…
クイズですが上の図式と上の図式はつながっていますよ、これはとある物を現してます
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