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1330.真の再会

「やったーっ!」


 リザードと共に放ったツインソードバッシュが、人狼オブスクルスを吹き飛ばし、拳を突き上げたメイ。

 手を振りながら魔法陣に消えていくリザードに、笑顔で手を振り返す。


「やったわね!」

「見事な連携でした!」

「はひっ! すごかったですっ!」


 そこに駆けつけて来たのは、レンたち。

 嬉しそうに笑うメイに飛びつき、勝利を喜び合う。そして。

 遅れてやって来たムーナも入って、五人でハイタッチ。

 するとラビも大喜びで駆けてつけてきて、五人の周りをグルグルと駆け回る。


「……バカな」


 オブスクルスはまだわずかに狼の要素を残した姿のまま、どうにかその身体を起こす。


「月の獣の因子を取り込んだこの私が、敗れるなど……っ。だ、だが……デラヴォロスさえ使役できればまだ、我が野望は……まだ……う、ぐああああああ――――っ!!」


 しかし魔力を使い果たしたことで、月の獣の因子を抑えきれなくなってしまう。

 全身を煌々と輝かせた古き王は、そのまま粒子になって消えていく。


「最強種の復活と、新たな世界を目の前にして、この私が……アンブラの王たる、このレクス・オブスクルスがぁぁぁぁ――っ!!」


 オブスクルスが消えさると、各所で動いていた無人の魔導鎧たちも動きを止めた。そして。

 その手から解放されたことで、淡く長い金髪に月桂の冠を乗せた、淡い虹色の目をした少女がこちらに歩いてきた。


「……ムーナ」

「……セレーネ」


 二人はしばらく互いを見合った後、自然と走り出す。

 そしてそのまま抱き合い、無事を喜び合う。


「どうして月に? どうして今も……?」


 ムーナが生きているのか。

 そんな問いをぶつけられたムーナは答える。


「セレーネに会うために、私も青き星で眠ってたんだよ」

「っ!!」


 そんな言葉に驚愕するセレーネのもとに、駆けていくのはラビ。


「ラビ……! あなた本当にラビなのっ!?」

「ラビもずっと、ルアリアで待ってたんだよ!」


 セレーネは千年の時を超えて自分との再会を待っていたウサギを、満面の笑顔で抱きしめる。


「このまま、セレーネちゃんもラビちゃんも無事なまま進みたいね」

「私も同感です」

「はひっ!」

「もちろん、その流れでいきましょう」


 奇跡の再会を見つめながら、うなずき合うメイたち。

 するとムーナが、振り返った。


「この人たちが、記憶喪失になってた私をここまで連れ来てくれんだよ! もちろんラビも!」


 そう言うとセレーネは、深く頭を下げた。


「ありがとうございます……まさかムーナとラビにまた会えるなんて、思いませんでした」


 その足もとに歓喜の涙が落ちるのは、ムーナだけではなくラビも連れてきた場合にのみ起こる演出。

 メイたちは今回も、最高のルートを進んでいる。


「会いに来てくれて、ありがとう」

「セレーネ、一緒に月を出よう」


 ムーナのそんな言葉に、もう一度深く頭を下げ直した後、セレーネは覚悟を決めた目を向ける。


「私は、月の獣を抑える巫女。月を離れるわけにはいきません」


 そして、真っすぐにそう言った。


「私がここを離れてしまえば、何者にも止められない驚異の獣だけが残ってしまいます。そして次に目覚めた時、始まるのは滅びです」

「それなら私が代わりになるよ……っ!」


 ムーナが代わると言い出すが、セレーネは静かに首を振る。

 そして再び、メイたちの方に向き直った。


「ムーナやラビにもう一度会わせてくれて、ありがとうございました。今度は私が、青き星に月の獣が向かうことがないよう、ここで食い止めます……永遠に」

「セレーネ!」


 ムーナは食い下がるが、セレーネは話を続ける。


「ムーナとラビを連れて月を発ってください。お願いします」

「ねえ、もしもデラヴォロスが倒されたらどうなるの?」

「それは不可能です」

「もしもでいいわ。もし倒すことができたなら、あなたたちはもう月に残る必要はなくなるの?」

「……はい。その時はもう、私たちの力を使う必要はなくなります」

「もう、倒す他ないですね」


 ツバメがつぶやくと、メイも大きくうなずく。

 まもりは早くも緊張しているのか、盾を強く握りながらこくこくする。


「でも、そんなことできるはずがありません」


 目前でアンブラが無残に破壊されるのを見たセレーネは、静かに首を振る。


「私はセレーネとラビと、ずっと一緒にいたい」


 そんな中、そうハッキリと言い切ったのはムーナ。


「できるなら、月の獣のことなんて忘れて青の星でずっと一緒に。できないなら今度は私が……月に残るよ」


 続く言葉に、セレーネが首を振る。


「順番で言えば、次は私だよ?」


 それでもセレーネは、首を振る。


「こうなっちゃうとセレーネは、もう意地でも譲らないんだよね」


 ムーナは困ったように言う。


「だから」


 それから振り返り、メイたちの方を向く。


「――――私たちを、助けてほしい」

「その依頼、受け付けましたっ!」


 すぐさま応えるメイ。

 こうして、最後のクエストが動き出す。


「ムーナ! そんなのムリよ……っ!」

「セレーネ、私は当てもないことを言ってるわけじゃないよ。この冒険者たちはね、月の命運を変えられるくらいに強いのっ」


 ムーナは目を閉じて、これまでの事を思い出しながら告げるが、返事はない。

 ここに至るまでの戦いを見ていないセレーネには、やはりデラヴォロスが敗北する姿が、どうしても想像できないようだ。


「……月が、揺れ始めた?」


 そんな中で、突然始まった揺れと奇妙な大気の震え。

 セレーネが、告げる。


「デラヴォロスの目覚めは、もう間近です」


 姉妹の長い旅の命運を握る獣の目覚めが、始まる。


「……いざという時は、私のことは気にせずムーナを連れて行ってください」


 そう言って頭を下げたセレーネに、メイは告げる。


「大丈夫! 絶対に二人と……ラビちゃんも一緒に連れて行きますっ! だから、私たちに――」

「「「「おまかせくださいっ!」」」」


 そんなメイの宣言に、レンたちもしっかりと声を合わせた。

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