133.抜け出せ妖気町!
「確実に姫を殺しに来てるわね……」
ヌエの一団を打倒し、植物のツルで拘束しておいた姫を開放する。
付近の仕掛けを使い尽くしたのか、姫はせわしなく辺りを見回してはいるだけで動きなし。
「大忙しだったねぇ」
「早いところ姫を連れて裏ヤマトを出たいところだけど……出口はあの、あからさまに光ってる大鳥居かしら」
妖気町の東西南北に置かれた光る鳥居。
温かな光の感じは、元の世界へ戻るゲートで間違いない。
さっそくメイたちは、光る大鳥居目指して歩き出す。すると。
「あら、なんでしょう……」
姫の胸元にさげられた首飾りが、突然光出した。
「まあ、当然本番はここからよね」
家紋が刻まれたその首飾りを目印にするかのように、現れる上半身のみの骸骨。
妖気を放ちながら浮遊する、その大きな化物の名は。
「ガシャドクロだわ」
メイたちは姫を中心にして、四人で囲むような陣形を取る。
「【電光石火】!」
ツバメはさっそく、ガシャドクロに先制攻撃を仕掛ける。
「ッ!?」
しかし武器がすり抜けるような形になり、ダメージはなし。
「【フレアアロー】!」
続くレンの魔法を喰らうと、霧散して消えた。
「物理攻撃では倒せないのね。メイは【狐火】ツバメは【アクアエッジ】を使ってみて」
「りょうかいですっ!」
「分かりました」
「私は身体を張って姫を守ります!」
妖気が新たに密集し、現れる三体のガシャドクロ。
低空飛行で、一気に姫へと襲い掛かる。
「【連続魔法】【ファイアボルト】!」
これを早い連続魔法で対処。
しかしその隙を突き、背後から現れた二体がレンに喰らいつきに来た。
「【アクアエッジ】!」
助けに入ったのはツバメ。
二体を一撃で撃破したものの、新たに生まれた個体に腕をつかまれた。
次の瞬間、ガシャドクロが異常な光に包まれる。
「ッ!!」
「【ソードバッシュ】エクスプロード!」
放たれる青炎の一撃。
残った最後の一体は、メイが撃破した。
「メイさん、ありがとうございます」
「いえいえー」
「最後のは【自爆】っぽいわね。突然現れる上に単純な物理攻撃は通じないって、やっかいな敵ねぇ」
「……まだまだ、来そうですよ」
再び現れたガシャドクロたちを見ながら、構えるマーちゃん。
するとここで、突然姫が一歩前に出た。
「わたくしも加勢いたします!」
その手を掲げると、首に掛けた紋章が強く輝き出す。
「えっ、ここからは姫も参戦するの!?」
「意外な能力を持っている可能性が?」
「いきます!」
姫は気合十分で、ガシャドクロへ走り出す。
その手には、分かりやすいおもちゃの刀。
「やっぱりもう一回縛ってーっ!」
「大きくなーれっ!」
即、姫を拘束。
「【アクアエッジ】【四連剣舞】!」
姫狙いで飛び込んで来た個体を、慌ててツバメが水刃で迎撃。
「ファイアボム!」
皆の視線をかいくぐるようにしてやって来ていた個体も、気づいたマーちゃんがアイテムで攻撃。
「威力がないので、足止め程度にしかなりませんが」
「助かったわ! 【ファイアボルト】!」
最後はレンのファイアボルトで、危機を回避した。
「……もしかしてこれ、姫がいる限り無限に湧くのかしら」
即座に新たな個体が生まれるのを見て、レンがこぼす。
「私はそう思います」
「それなら一気に出口を目指しましょう! ここにいたらMPがもたないわ」
「はいっ!」
いい返事のメイを先頭に、光る鳥居を目指して走り出す。
しかし姫を連れてひたすらに逃げを打つ作戦は、『勝敗』をつけさせたい運営が一番嫌う形。
「ヌエが来ますよ!」
「こっちからもです!」
右から、そして左からもヌエの軍勢が迫り来る。
追手のガシャドクロも次々に数を増やし、追手は立派な一団になっていく。
運営、『逃げるヤツは殺す』意向を表明。
「それでも……このまま逃げ切りさえすればっ!」
幸い姫の足は遅くなく、残る距離もそう長くない。
このまま大鳥居までたどり着ければクリアは間違いなしだ。しかし。
「閉じ込められてるわ!」
大鳥居へと続く路に置かれた鉄の門。
追って来る妖怪たちに捕まれば、パーティはともかく姫は助かりそうにない。
「レンさん、これ!」
門を押し開けようとしたツバメが指を差す。
そこにあったのはHPゲージ。
「やったわ! お願いメイ! ここは攻撃力が鍵になるみたい!」
「りょうかいですっ! 【ソードバッシュ】!」
放つ一撃が、大きく門のゲージを減らす。
本来なら多人数で一斉攻撃して開ける門も、メイならどうにかできそうだ。
「ッ!!」
迫るヌエの放った雷は、姫の身代わりになったマーちゃんに直撃。
「【ソードバッシュ】!」
さらにガシャドクロたちが始める【自爆】。
ツバメは【加速】で姫に飛び掛かり、これをギリギリのところで回避する。
「【ソードバッシュ】だああああ――――っ!」
そして三発目でついに、鉄門が吹き飛んだ。
「行きましょう!」
そのまま五人、大鳥居へ向けて全力疾走。
「うわ! レンちゃん、なんか大きいのも来たよ!」
そこに現れたのは、民家を超える大きさのガシャドクロ。
発動する【妖術】スキルがなんと、姫を三人に増やす。
「何よこの地獄。最悪の事態じゃない!」
「この妖怪め! 私が成敗いたします!」
怒る姫たちは、おもちゃの刀を手にガシャドクロへ向けて走り出す。
「メイ、もう一回お願い! 容赦は要らないわ!」
「おまかせくださいっ! がおおおおーっ!」
メイは全力の【雄たけび】で、三人の姫をまとめて吹き飛ばす。
すると偽物はかき消され、本物だけがすっ転んだ。
そこへ喰らい付きに来た、三体の巨大ガシャドクロ。
誰もが、「マズい」と表情を凍らせる。
「お姫様ごめんなさいっ!」
そう言ってメイは、両手を合わせると――。
「【装備変更】! とつげきーっ!!」
そのまま姫に【突撃】を叩き込んだ。
「きゃあああああああーっ!」
姫はそのままごろごろ砂煙を上げながら、大鳥居を転がり出ていった。
◆
「帰ってこられたー!」
ギリギリのところで妖気町を抜け出たメイたち。
出た先は、裏ヤマトへ入る際に使った地味な大鳥居。
転がり出た姫もオブジェクトにぶつからなかったため、衝突ダメージはなし。
安堵の息をつくメイの隣で、満足そうに笑う。
「……助けていただき、ありがとうございました! とっても楽しかったわ、また遊びましょう!」
「「「間に合ってます」」」
「あはははは」
声をそろえるレンたちに、笑うメイ。
無事、ミッションクリア。
満足げな足取りで帰って行く姫の後ろ姿は、姫転がしのせいでもうズタボロだ。
そんな姿を見て、笑い合う四人。
「……勝ちたいですね」
不意に、マーちゃんがつぶやいた。
「今年こそ、皆さんと一緒に……!」
「がんばりましょう!」
拳を握って応える地軍将メイに、うなずくレンとツバメ。
マーちゃんも、「はいっ」と笑顔で応えた。
そして『ヤマト天地争乱』は、最終局面へと突入する。
ご感想いただきました! ありがとうございますっ!
どれだけ転がしても、生きていればセーフ理論。
縛ってぶん投げるのもいいですね、面白そうです!
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