1325.追いかけてセレーネ
白夜たちとの出会いによって生まれた、ラビ生存の可能性。
「それでは、ごきげんよう」
「こっちは任せてほしいぽよっ!」
去って行く、大型飛行艇と白夜たち。
「どうしてモナココに月光砲なんて大掛かり過ぎる兵器があったのか、これで分かったわね」
そんなレンの言葉に続くのはツバメ。
「巨竜だけでなく最強種や率いる者……すべての月の獣たちが地上にやって来る展開もありえるからですね」
「だ、だとしたら、ゼティアの危機に似た感じのことが起きるのかも……っ!」
「それは大変だーっ!」
月から続々とやってくる大量の魔物たちという光景を想像して、驚きの声を上げるメイ。
「でも……このタイミングで白夜たちが来てくれたことで、ラビ生存の可能性が生まれたわ! 私たちは進みましょう!」
「おーっ!」
「行きましょう!」
「はひっ!」
落ち込んでいたメイたちの意気を、大きく上げた白夜たちの登場。
「アンブラ王は、向こうだよ!」
ムーナが指し示すのは、最強種の封じられた地。
四人は勢いのまま、アンブラ王の後を追いかける。
「っ!」
すると道の途中、ガレキの陰から現れた獣にメイが気づいた。
それは一本の角を持った、グリズリーのように大きな黒ウサギ。
「いっぱいいる……!」
一体目の登場をきっかけに、次々に現れる黒ウサギたち。
走りながらあっという間に、メイたちを取り囲んでいく。
「荒廃した市街地で、たくさんの魔物に囲まれる……ちょっと変わった光景ね」
大型の敵に囲まれたこの状況への対応は、もちろん逃走で構わない。しかし。
「ムーナの速度もあるし、このまま進みながら戦いましょう! 暴れるくらいのやり方も、たまにはいいんじゃない?」
「りょうかいですっ!」
「そうですね」
「はひっ!」
『率いる者』を任せられたことで、生まれた勢いと余裕。
メイたちは、敵を蹴散らしながら進むことを選択した。
武器を手にしたまま駆けると、黒ウサギたちは一斉に特攻を開始。
荒々しい跳躍で、先頭の黒ウサギが齧りつきにきた。
「はいっ! 【ソードバッシュ】!」
景気づけには豪快過ぎる一撃が、一部のガレキと共に黒ウサギを四匹まとめて消し飛ばす。
「これですね! アンブラ王のもとまで一気に駆け抜けましょう!」
その勢いに、思わず大きくなずくツバメ。
すると早くも、増援個体がまとめて登場。
「メイの一撃に、慌てちゃった感じかしら?」
なんと今度は三体の黒ウサギに加えて、四体の銀色獅子まで建物の影から駆けてくる。
「メイさん、よろしくお願いします」
「はいっ! もう一回【ソードバッシュ】!」
放つ一撃が再び、五体の月の獣をまとめて吹き飛ばした。
メイたちの足は止まらない。
するとこの区域は、数で押してくる。
なんと新たに現れた三体の銀獅子と共に、五体の黒ウサギがガレキを蹴って特攻。
「【グリーンハンド】【痺れ花】!」
対してメイは、状態異常の花を咲かせて対応する。
耐性のない銀獅子は倒れ込み、残った黒ウサギにレンが杖を向ける。
「【フレアバースト】!」
三体の黒ウサギを吹き飛ばすが、その隙を抜ける形で、一体の黒ウサギが角による刺突を狙ってきた。
「【ゴリラアーム】」
しかし刺突はかわされ、角をつかまれた黒ウサギは――。
「まもりちゃんっ!」
メイに投じられて、飛んで行く。
その意図に気づいたまもりが、即座に盾の角度を変えた。
「はいっ! 【シールドバッシュ】!」
すると盾から放たれた衝撃波で弾かれて、今まさにまもりに向かってきていた銀獅子に直撃。
二体が絡み合うようにして、転がっていったところに――。
「【チェーンキル】【アサシンピアス】【アサシンピアス】――っ!」
華麗な身のこなしと、時間差を上手に使った二連続刺突で、二体の魔物とすれ違う。
こうしてツバメは、二体の獣をまとめて片付けてみせた。
「かっこいいーっ!」
「す、すごいですっ!」
これにはメイとまもりが歓声を上げる。しかし。
「ツバメちゃん、後ろからライオンが来てるよーっ!」
そんなツバメを真後ろから狙って、駆ける銀獅子。
めずらしいことに、ツバメが完全に背後を取られた形だ。
「【加速】!」
ツバメは急加速で距離を取り、【反転】からの攻撃を狙うが、真正面にそびえる建物を見て取り止め。
「【壁走り】!」
そのまま壁を四歩ほど駆け上がったところで、強く蹴る。
「【壁蹴り】【反転】!」
狙い通り。
地面に背中を向ける形で跳び、そこで【反転】を使えば、身体は縦に回転して『壁蹴りバク宙』のような形になる。
こうして銀獅子の背後を取るような形で、跳んだところで――。
「【アクアエッジ】【八連剣舞】!」
同じくこちらに向き直った銀獅子に向けて放つのは、八連続の水刃斬り。
アクロバティックな姿勢から放つ水刃の乱舞は、もはや華すら感じさせる攻撃だ。
「【加速】【リブースト】」
これが全身を斬り、大きく体勢を崩したところで、今度は急接近。
「【アサシンピアス】」
見事な刺突で決めた。
「……す、すごい動きです」
人の目がないところで、しれっととんでもない暗殺術を見せるツバメに、ぽかんとするまもり。
「それじゃあ私も一つ、試させてもらおうかしら」
そしてレンも、新たなスキルの感覚を試そうと動いていたようだ。
「レンちゃーん!」
そこにちょうど、十数体の魔物を集めたメイが駆けてくる。
「ありがとうメイ! その数、完璧ね! ふふっ、こんな豪快にモンスターを引き連れて走るの、地上だったら大問題だわ」
「【ラビットジャンプ】!」
レンは笑いながら、メイが高く跳んだのを確認して杖を掲げる。
「【氷結のルーン】発動!」
そして【設置スキル大型化】で張っておいた【氷結のルーン】たちを、ここで一斉に発動。
「「「「っ!?」」」」
するとこれまでとは明らかに規模が違う大きな範囲で、高さ三から五メートルほどの氷柱が突き上がった。
メイが連れて来た黒ウサギたちと白ライオンたちがまとめて打ち上げられ、中には氷柱が突き刺さる個体も。
突然現れた、大きな家一軒分ほどの氷山。
そんな広い規模の一撃に、月の魔物たちが粒子になって消えていく。
「すごーい!」
これには空中で、歓喜の声を上げるメイ。
「こ、これだけ氷があれば、かき氷し放題ですねっ」
黒ウサギの角を盾で受け止めながら満面の笑みを見せるまもりに、レンは思わず笑ってしまう。そして。
「最後はメイにお願いしようかしら」
「おまかせくださいっ!」
着地したメイは氷山の向こうから迫る獣たちに向けて、剣を掲げる。
「【ソードバッシュ】!」
駆け抜ける衝撃波は容赦なく、敵をまとめて吹き飛ばした。そして。
「アンブラ王は、あっちだよっ!」
ムーナがガレキの上から指を差す。
その先には、街から荒野へと続く場所に造られた格納庫が見える。
そこには、先ほどセレーネを連れて行った魔導鎧たちの姿もあった。
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