1324.二つのクエスト
「急ぎましょう。セレーネさんが心配です」
荒野を駆けるメイたち。
ツバメの言葉にうなずきながらも、レンは悩ましそうにする。
「……ただ、一つ気になることがあるのよね」
「ラ、ラビさんのことですねっ」
「どうして?」
レンとまもりの『嫌な予感』に、メイが首を傾げる。
「アンブラ王の言ってた、『率いる者』の概要が気になるのよ」
「ルナフォーという国には、眠らせたままの兵器である『月の獣』たちがいて、その中には獣たちの統率が取れる大物個体がいるという感じでしたね。最強種を王様とすると、将軍の位置にくる個体でしょうか」
「月の獣たちを狂わせて、強制的に率いることができるって言ってたでしょう」
「っ!」
ここでツバメも、その事実に気づく。
「もしかして……ラビさんも?」
「そういうこと。このままアンブラ王を追いかけたら、その部下たちが『率いる者』を連れてくる。そうなったら最悪、セレーネやムーナたちの前で、狂ってしまったラビを倒すことになるかも」
レンのこの予想、実は正解だ。
「ええーっ! それは止めないと!」
「でも『アンブラ王を追う』『率いる者を止めるためにルナフォーに向かう』って、ルートは二つ出てきてるのに、ルナフォーについては突然の話で場所も知らない」
「確かにそうですね」
「そもそもラビの死はある程度確定事項であって、その死がクエスト達成時に『マイナス』に査定されないんじゃないかしら。だからフレイムアリゲーターのところで生き残っても結局『率いる者』によって斃れることになる。もしもこの展開を超えられる可能性があるとしたら……別のルートの進行も必須。要するに一つのパーティで救えるようにはできてないのかも。そう考えると私たちがルナフォーについて何も聞いてなくて、話題に出てこなかったのも納得できる」
「今からじゃダメってこと……?」
今も元気にムーナとメイの足元を行ったりしたりしているラビを見て、メイが頭と猫耳を伏せる。
「私たちはセレーネを追いかけて救うクエストの中にいるから、その本編の進攻が遅くなってしまった時に何が起こるか分からない。『率いる者』がやってきた瞬間、狂わせる能力を使う前に倒すみたいな形なら万が一もあるかもしれないけど……さすがに望み薄じゃないかしら」
「確かに、そもそも私たちに誰もルナフォーに行けと言っていませんね。行っても何も起きない可能性が高いです」
「ク、クエストになっていないということですね……」
この後そういう瞬間が来ると予想できてしまうと、進行が憂鬱になる。
「どうしよう……」
進めば失われる。
それがあまりに確定的な時に、ゲームを進めたくなくなることは、極まれにある。
そのためどうしても、進む足が重くなってしまうメイたち。すると。
「…………ん?」
突然、大きな影がかかった。
「「「っ!?」」」
さらに、駆け抜けていく強い風。
メイたちが思わず、視線を上げると――。
「えええええええええ――――っ!?」
そこには大型の飛行艇。
メイたちが乗ってきた月の船と同じようなデザインをした機体が、空中に停泊していた。
「どういうこと? ここで敵が増えるの?」
アンブラ王の新たな部下かと、思わず杖を取るレン。だが。
「あら、ごきげんよう。五月晴れの皆さん」
そう言って大型飛行艇の縁に、仁王立ちするのは――。
「白夜!?」
白の衣装に身を包んだ光の使徒、九条院白夜だった。
「どうして月に!?」
「わたくしたちは、ブライトにいた考古学者が新たに発見した危機を止めるというクエストを受けましたの。それはルナフォーに眠る恐ろしい兵器『率いる者』の制止ですわ」
「「「っ!?」」」
「もしかして、紅の翼で動いているの?」
「そうなりますわね」
「……白夜、少しいい?」
「あら、何でしょう」
「その『率いる者』は、間違いなく大物よ。ともすれば巨竜に迫る、超えてくるような個体かもしれないわ。そのうえでなんだけど……」
「そのうえで、なんですか?」
「絶対に倒して欲しいの」
「おねがいしますーっ! この子を助けるためなんですっ!」
そう言ってラビを、抱きかかえて見せるメイ。
「なるほど、そういうことですか」
白夜は闇を超える者と呼ばれるレンと、世界を救ったパーティに『たった一匹のウサギを守るために力を貸せと言われる展開』に、めちゃくちゃにテンションが上がる。しかし。
「構いませんわ」
あくまで表面上は、光の使徒たる態度を取る。
「ですが闇を超えし者たる貴女が、一体どういう風の吹き回しですか?」
「っ!」
そしてレン、ここでの受け答えは白夜のやる気に直結すると、中二病時代の記憶から確信する。
「……はーっ」
大きく一度深呼吸。
スイッチを切り替えると、妖しい笑みを浮かべてみせる。
「……たまには、正義の味方ごっこも悪くはないでしょう?」
闇を超えし者。
白夜にとっては闇の使徒を率いる、最大のライバル。
そんなレンが見せる『気まぐれ』の演出。
だが、これだけで終わらない。
「そして九条院白夜なら、それが可能だと思ったのだけど……違ったかしら?」
「っ!」
その『力量を認めているからこその挑発』に、白夜は震えるほど興奮する。
「……いいでしょう。この九条院白夜……いえ、今は紅の翼の兵長代理でしたわね。その話、お受けいたしますわ!」
白夜が大型飛行艇の上、得意げにポーズを決めると――。
「もちろんぽよーっ!」
「スライムちゃんっ!」
「私も何とか着きました!」
「迷子ちゃんもっ!」
「「「俺たちもいるぜ!」」」
「みんなーっ!」
様子をうかがっていた掲示板の面々も、次々に顔を出す。
「スライムさんや、迷子さん、掲示板の民さんもいるのですね……これなら、いけそうな気がします……!」
「おいおい、あたしたちもいるぜ!」
「いるっスよ!」
さらにトップの一角である、ナギとディアナも一緒だ。
「ブ、ブライトのクエストで大活躍だった、お二人もっ!」
紅の翼も、完璧な布陣と言えるだろう。
「それでは、わたくしたちはこのままルナフォーに向かいますわ。『率いる者』はその場で打倒してみせます!」
「任せとけ!」
「任せるぽよっ!」
白夜に続いて、ナギやスライムも力強く勝利を宣言。
「それでは、ご武運を」
紅の翼はそう言い残して、一直線にルナフォーへ大型飛行艇を走らせる。
「他力本願になってはしまうけど、これでラビを救える可能性も出てきたわ……!」
「よかったねーっ!」
メイは思わず、ラビを抱え上げてクルクル回る。
「私たちも進みましょう。そしてセレーネさんを取り戻しましょう!」
「はひっ!」
断たれた後顧の憂い。
意外な助っ人との共闘作戦に、思わず意気も上がる。
こうしてメイたちはルナフォーの『率いる者』と、ラビの命運を紅の翼に託し、アンブラ王の後を追うのだった。
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