1323.月の古き王
「アンブラ王がどうして……!?」
魔導鎧の兜を取った男を見て、ムーナが上げた驚きの声。
現れたのはグレーの髪を後ろに流した壮年の男、レクス・オブスクルスだった。
「生きているのか……か?」
冷たい目をしたアンブラの王が、言葉を続ける。
「都市の中枢を破壊された後、アンブラの地下に潜り力を蓄えていたのだ。その狙いは、やがて来る最強種の目覚めを待って使役すること。そして準備を整えたところで、私は長い眠りについた」
「アンブラの王も、セレーネやムーナのように長期睡眠で時を過ごしてきたみたいね」
「そ、壮大なお話です……っ」
「目覚めた後、私は気づいた。何者かが警報を鳴らしたことに。まさか私が生き続けてるとは思わなかったのだろうな。セレーネはわざわざ私を呼び出してしまったというわけだ。そして再びルアリアの血を得た私は、かの最強種を操ることができるようになったわけだ。以前よりも確実に……!」
邪な笑みを浮かべるオブスクルス。
今度はその視線を、メイたちに向けてきた。
「お前は、お前たちは、あの青い星から来たのだな?」
メイたちの姿を見て、確信するアンブラの王。
「青き星は人間の定住が可能。予想通りだ。ならば計画通り、崩壊都市と化した月など捨てて奪いに行こう……あの青き星を!」
「「「「っ!?」」」」
「宙を超える月の獣がいる。それを操る王家の血もある。そして月にはまだ船がある。我が大願は今、新たな段階に入った!」
オブスクルスはさっそく、魔導鎧たちに指示を出す。
「私は最強種の目覚めを待って船を出す。お前たちはルナフォーへ向かい『戦争用の獣たち』を全て目覚めさせろ。そして『率いる者』と共に連れてくるんだ。月の獣を狂わせ破壊者に変える『率いる者』がいれば、全ての月の獣たちを引き連る形で、青き星へ向かうことができる!」
まさかの宣言に、驚くメイたち。
「これ、月の獣たちが総出でロマリアとかにやってくる展開もある……?」
巨竜を超える火力の持ち主が、宇宙を越えて到来。
王都や港町ラフテリアを破壊する光景を想像して、息を飲むレン。
「行くぞ、月の姫よ」
「きゃあっ!!」
アンブラの王はそう言って、セレーネの髪をつかんで引きずる。
するとそれを見たムーナとラビが、猛然と走り出した。
「っ!」
しかしムーナは、魔力鎧が足元に放った魔力弾の炸裂におあられ転倒。
一方ラビの方は距離を詰めることに成功し、アンブラの王の首元目がけて飛び掛かる。
「なめるなァ!」
強烈な勢いで払う手が、ラビを弾き飛ばした。
「月の獣の、出来損ないごときが!」
ガレキにぶつかり、動かなくなったラビにそう言い放つと、再び兜を装着。
「レンちゃん!」
「戦いましょう!」
すぐさまラビのもとに向かおうとするメイ。
セレーネを連れて去ろうとするアンブラの王を、止めるべく動き出すレンたち。しかし。
「やれ」
魔導鎧の一体が、ガレキの一角にあった重力制御レバーを引く。
「「「「っ!?」」」」
すると付近が一斉に無重力となり、五人は動きが取りにくい状態に。
「不要なごみの処分は、お前に任せよう」
その隙にアンブラの王は、魔導鎧を一機だけ残して魔力スラスターで飛行を開始。
「すぐに片づけて戻れ。最強種が目覚め次第、青き星へと向かう」
セレーネを連れ、この場を去って行く。
「この破滅の昏き星が、貴様たちの墓標だ」
そう言い残し、去って行くアンブラの王。
残った一機の魔導鎧が、各所の魔力スラスターを使ってメイたちの前に降りてくる。
そしてその手に持ったランスを振り払い、こちらに向けた。
「高速【誘導弾】【ファイアボルト】!」
浮遊状態のため、身動きを上手に取れずにいたメイたち。
ここでは敵に先手を取られて始まる戦闘が想定されていたが、レンの早い攻撃が魔導鎧の虚を突いた。
防御をさせられた魔導鎧は、すぐさまスラスターの出力を上げ、レン目がけて飛来する。
ランスによる特攻に対し、レンはしっかりと見極めたうえで――。
「【低空高速飛行】【旋回飛行】!」
これを、弧を描く飛行で回避する。
すると魔導鎧はそのまま高度を上げ、ランスを持たない方の手を伸ばした。
手の平には、埋め込まれた魔宝石。
そこから魔力光弾が放たれる。
「そう簡単にっ!」
レンは旋回飛行を続けることで、光弾を回避する。
魔導鎧の連射はそこそこ早く、地面にぶつかった光弾はガレキを弾き飛ばすほどに強い。
「【低空高速飛行】【旋回飛行】!」
一度足を着き、軌道を変えて再度の低空飛行。
上空から撃たれるという、難しい状況をどうにかやり過ごす。すると。
「っ!?」
両手と胸元、そして頭部に付いた魔法石から一斉に魔力光弾が発射。
先ほどよりは小さいが、多くの光弾が降り注ぐ。
レンはそれを見て、近くのガレキの陰に避難。
見事に敵の範囲攻撃をやり過ごした。
「【低空高速飛行】【誘導弾】【フレアストライク】!」
すぐに飛び出して、放つ反撃。
放たれた炎砲弾には誘導がかかり、急発進が難しい滞空状態だった魔導鎧に直撃。
大きく炎を上げ、吹き飛ばした。
「……まだまだっ! 【誘導弾】【フレアアロー】!」
少し遅れて放つ、炎の矢。
魔導鎧はスラスターを使うことで、体勢の立て直しが早く済む。
その時兜が一瞬、どうにか体勢を整えたばかりのツバメたちの方に向いたのを、レンは見逃さなかった。
まだ動けずにいるムーナはもちろん、ラビの容体も気になる。
レンがメイたちから距離を取って戦っていたのは、そのためだ。
「絶対、向こうには行かせないわ……!」
狙いは見事に的中。
炎矢が炸裂し、追加でダメージを受けた魔導鎧は狙いをレンに戻す。
「……なに?」
魔導鎧は、高く舞い上がった。
そしてその頭部に付けた魔法石に、魔力を充填。
レンに向けて魔力砲弾を放った。
放たれた大型魔力弾は、高速で迫り来る。
「大きいだけなら、怖くないっ!」
レンはこれを難なく回避する。
すると魔力砲弾は、そのまま砂埃を上げて地面に潜り込んだ。
「……きゃあっ!?」
直後地面の下で巻き起こった爆発で、足元から噴きあがる魔力光と爆風。
時間差攻撃による突風に、レンは吹き飛ばされた。
止まれたのは、ガレキをつかむことに成功したから。
しかしそんなレンを狙って、魔導鎧はこの時を待っていたとばかりに接近。
「っ!」
放たれる突きを、レンは防御で対応。
すると二回の攻撃の後、ランスを強く振り払った。
「くっ!」
強く弾かれ、レンはさらに地を転がる。
それでもどうにか倒れかけの壁の陰に入り込んで、立ち上がる。
そしてそっと、顔を出すと――。
「ガレキごと、まとめて貫くつもり!?」
魔導鎧は壁を挟み、一直線に接近中。
ランスの先端から走る魔力光が広がり、魔導鎧を白い『火の玉』のように変える。
そして容赦なく、ガレキの背後に隠れたレンに向けて、特攻を仕掛ける。
「いいわ、それがそっちの狙いなら――――!」
レンは杖をガレキに向けて、魔法を発動する。
「【ペネトレーション】【インフェルノ】!」
ガレキを挟んで向こう側から、突然現れた灼熱の炎弾。
マグマのように煌々と輝く一撃を、回避できるはずもない。
まともにこれを受けた魔導鎧は一瞬で大きく燃え上がり、まばゆい光を上げて爆発炎上。
真っ赤な飛沫が上がり、一瞬で焦げた付近のガレキが崩れて落ちる。
炎をまとい、激しい勢いで転がっていった魔導鎧は遠くガレキに突っ込んでようやく停止。
これで、残りHPはごくわずか。
「できれば、今ので何とかしたかったんだけど……」
体勢を立て直した魔導鎧は、再び一直線にレン目がけて飛んでくる。
噴き出す魔力光は荒々しく、その加速は軽くぶつかるだけで高いダメージを与える『特攻攻撃』
その手に持ったランスには、バチバチと火花を弾けさせるほどの魔力が宿り始める。
「【連続魔法】【ファイアボルト】!」
放つ炎弾も、見事にかわして接近。
「【誘導弾】【フリーズストライク】!」
続く氷砲弾も、突き出したランスの先端に振れた瞬間砕けて霧散。
「今のランスは魔法を霧散させる特性付き……仕方ないわね【低空高速飛行】!」
レンは、真正面から向かい合うことを選択した。
迫る両者。
当然、近接戦となれば魔導士が不利になる。
この状況は、劣勢の中の賭けといった状態にしか見えない。
そして、接敵。
「……魔導士が正面からぶつかってきたら、罠の可能性を考えないといけないわ」
レンがそう言った、次の瞬間。
無重力だからこそ、通常の何倍も長い距離を飛んできた、ツバメの【雷ブレイド】が斜め後方から直撃。
走る電撃が、硬直を奪った。
さらにまもりの投じた【ストライクシールド】がぶつかり体勢を崩し、最後にメイの投じた【投石】が、ガキンと良い音を鳴らして転倒を奪う。
「どれか一つ当たってくれれば、十分だと思ってたんだけど」
目の前には、突きつけられたレンの杖。
「ここで連携みたいになるのが私たちよね! 【フレアバースト】――っ!!」
目前で放たれた爆炎が、容赦なく魔導鎧を吹き飛ばす。
地を転がり、倒れ伏す魔導鎧。
すると壊れて固定されていた重力操作装置が、自然とオフになる。
「ラビ!」
HPが消え勝利も確定するが、誰一人喜びの表情を見せない。
全員が全速力で、伏せたままのラビのもとへ駆けつける。
最初に到着したメイが、大慌てで抱え上げる。
そこにレンたちも到着し、ムーナも心配そうな顔で見つめる。すると。
「気を失ってただけだよ!」
ラビが身体を起こし、ブルブルと首を振ってみせた。
ここで初めて、四人は歓喜のハイタッチ。
「……良かったわね。ここでこの子が死んじゃうみたいな流れだったら、精神攻撃として効きすぎるもの」
「では、さっそくセレーネさんを追いかけましょう」
「もちろんだよっ!」
「つ、月から出すわけにはいきません……っ」
大きくうなずくムーナ。
四人も続き、アンブラの王たちを追いかける。
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