1322.アンブラ王国
「アンブラへ向かうトンネルは、結構崩れてるわね」
いよいよ、月を崩壊へ導いた国アンブラへと向かうメイたち。
月の獣による攻撃の影響か、トンネル内部を進んだ先は、ヒビだらけのガレキだらけだ。
「あれ、それはどうしたのですか?」
そんな中、ラビがくわえてきたのは一つのスキルブック。
【壁蹴り】:壁はもちろん様々なオブジェクトや、魔物、プレイヤーの背中などを蹴って大きく跳ぶことができる。
「ラビを助けたご褒美かもね。これはツバメが持っておいたら」
「そうですね。ありがとうございます」
ツバメがそう言って頭を撫でると、メイやレンまもりも一緒になって、そのフワフワな毛を愛でる。
「進みましょうか」
再び歩き出す四人。
ムーナもこれまでより軽やかな足取りで、ラビと一緒にガレキを跳び越えていく。
再び重力装置が『無重力』を作っている空間を、一気に突き進む形で進行。
「出口発見!」
見えたのは、地下鉄の終点を思わせる光景。
問題なく、アンブラ側の終点へとたどり着いたようだ。
一番の難所だったフレイムアリゲーターを打倒し、ラビの救出まで成功。
メイたちは、完璧な進行でアンブラに到着した形だ。
「場所によっては、テネブラエよりも激しい壊れ方してるわね」
階段を上がると見えたのは、これまでのどの国よりも高く大きな建物が続く都市の光景。
だが月の獣の最強種による攻撃を受けたのであろう一帯は、特に破壊が酷い。
都会的な分だけ、その壊れ方も派手に見える。
さらに建物の色使いもアンブラが一番暗いため、どこか陰鬱とした雰囲気すらある。
「セレーネはこの国のどこかにいるのね。『石』を見る限り警報の発信源は向こうっぽいけど……それ以外分からないから、とにかく行ってみましょうか」
「いきましょうっ!」
「つ、月から逃れる前は、アンブラのどこに住んでいたのですか?」
「向こうだよ!」
ムーナが指さしたのは、やはり警報の発信源のある方角。
威圧感がわずかに残るアンブラの街を、五人は進んでいく。
「レンちゃん、向こうに月の獣がいるよ。あっちの建物の影にもいる」
「さすが最後の王国。普通に敵が街中をウロウロしてるのね。しかも数が多い。気をつけて行きましょう」
皆でうなずき合い、建物の陰を通って進む。
最初に向かうのは、『かつて姉妹が住んでいた建物』だ。
ムーナの指示で進んだ先に見えてきたのは、大きな風穴の空いたビルのような建物。
「逃げ出した時はもっと形を保ってた。でも……きっといる。セレーネがっ!」
転がる大量のガレキを乗り越えながら、壊れかけの建物目がけて駆けていくムーナ。
「待って! あれは……っ!」
空に見えたのは、魔導鎧の一団。
白い魔力光を吐き出しながら、空を移動している。
編隊を組んで飛ぶ戦闘機のようにも見える五機の魔導鎧たちはしかし、これまでに見た警備用個体とは少し趣が違う。
一団はメイたちを追い抜き、ビルの前に滞空。
「もしかして、目的地は同じですか……?」
ガレキの一部に隠れて、様子をうかがうメイたち。すると。
「「「「っ!?」」」」
一団の中心になっていた魔導鎧が突然、魔力砲を発射。
昔ムーナたちが住んでいたという建物は、盛大に爆発して崩れ落ちた。
鳴り続けていた警報も、それに合わせて停止。
まさかの事態に、唖然とするメイたち。
「うそ、セレーネ……」
もうもうと上がる白煙。
一瞬でガレキとかしたビルを見たムーナは愕然とした後、慌てて走り出す。すると。
「待って、あの子はっ!?」
一人の少女が、ガレキの間から飛び出してきた。
気付いた魔導鎧はホバーで近づき、逃げる少女にその腕を伸ばすが――。
「いやっ!」
少女は慌てて、まっすぐに伸ばした手を右へと払う。
すると魔導鎧が、少女の指し示した方向に飛んでいき建物の壁にめり込んだ。
「吹き飛ばすというよりは、壁に向かって落ちていくような軌道でした……!」
つぶやくツバメがムーナの方を見ると、その表情が大きく変わった。
「セレーネ……!」
「もしかして、あれがお姉さんですか!?」
月の獣を眠らせ、ルアリアの民を逃がし、一人月に残ることを選んだムーナの姉。
白のワンピースに、淡く長い金色の髪。
月桂の冠を乗せ、同じく虹色の目をした少女は確かに、ムーナによく似ている。
壁にめり込んでいた味方機が、倒れる。
するとそれを見た残りの魔導鎧たちが、動き出した。
ホバーで正面から迫り、強引につかみかかりに行く機体を、セレーネは再び指の動き一つで軌道をそらして回避。
その隙に上部から飛び掛かりに来ていた機体には、指を大きく下に払うようにしてみせる。
するとセレーネから逸れていくような軌道で、そのまま地面に突き刺さった。
「どいてっ!」
その隙に左右から迫っていた二体も、指を左右に払うことでガレキに突撃。
見事な敵のさばき方だ。
「もう一機、動いてるよっ!」
思わずメイが叫ぶ。
二機同時に動かすことで視線を向けさせ、最後の一機が死角を突く戦法。
速いホバー移動で接近した五機目の機体はそのまま接近し、硬質なガントレットでセレーネを弾き飛ばした。
「きゃあっ!」
強力な一撃に地を跳ねたセレーネは転がり、倒れる。
「セレーネ!」
それを見たムーナは、慌てて声をあげた。
呼ばれて振り返ったセレーネ。
「っ!?」
よほど驚いたのか、目を大きく見開いた。
「ムーナ……!? ムーナなの!? どうしてあなたが月に?」
「迎えに来たの……セレーネを! ラビもいるよ!」
「ラビも!?」
まさかの再会が続き、思わず叫ぶセレーネ。
「……ほう、誰かと思えばルアリア王家の末娘ではないか」
すると容赦なくセレーネを弾き飛ばした魔導鎧が、言葉を発した。
見れば一機だけ、マントをなびかせたその機体。
甲冑のような兜の下から、低く威圧感のある声が届く。
どうやらこの一団の中心になっていた魔導鎧には、搭乗者がいたようだ。
「まさか姉妹どちらも生き残っていようとは……運命というのは面白いものだ」
甲冑がそう言うと、セレーネに不思議な力で弾かれた魔導鎧たちが背後に並ぶ。
五機がそろうと、なかなかの迫力だ。
「その声……もしかして」
ムーナがその視線を、甲冑に向ける。
すると取った兜から出て来たのは、グレーの長い髪を後ろに流した壮年の男。
「その通り。我こそがアンブラ王――――レクス・オブスクルスだ」
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