1319.向かえアンブラへ!
記憶を取り戻した、謎の少女ムーナ。
その正体は、ルアリア王家の末娘だった。
生まれた新たな目的は、月を崩壊に追い込んだ『月の獣』の最強種を打倒すること。
「おそらく完全に打倒する形が取れないと、その時点で月の獣を眠らせて危機を回避。姉妹のどちらかが次の目覚めに備えて月に残るところを、目の当たりにする形になるんでしょうね」
「打倒に成功すれば、月に残って眠りの魔法を使い続けているセレーネさんを役目から解放して、姉妹一緒に役目から解放されるのですね」
「絶対に助けようね!」
大きな敵の存在に、気合の入るメイ。
すると少女が、振り返る。
そこには、カゴに入って様子をうかがっている一匹のウサギ。
「……思い出したよ、ラビ! ただいま!」
その身体を持ち上げると、満面の笑顔で白いウサギを抱きしめた。
「この子とは、小さな頃からずっと一緒だったの。私たちがアンブラに向かった時もついて来てくれた。でも月の獣の攻撃でアンブラが破壊されて、ルアリアに戻る時に離れ離れになっちゃったの。それからずっと私たちの帰りを、部屋を守りながら待っていてくれたんだね……っ!」
ウサギの負った傷の多さには、長い戦いの歴史が感じ取れる。
「千年以上の時を、ずっと待っていた? ずいぶん長生きなのですね」
「この子も正確には、『月の獣』の一種のようなものだから。必要ない時は、限界まで出力を落として眠っていたんだと思う」
「し、姉妹をつなぐウサギなんですね」
ルアリアの各所に住むウサギたちから、この場所を守りながら姉妹の帰りを待っていた。
そんな果てしない話に、まもりも感嘆する。
滅びゆく月に一人残り、月の獣が地球に来るのを防ぎ続けているセレーネ。
そんな姉に会うため、時が来るのを地上で待ち続けたムーナ。
そしてそんな姉妹を待ち、一緒に過ごした部屋を守り続けたラビ。
「欠けさせたくないですね。誰一人」
「うんっ!」
「そうね。知ってしまったらもう、完全クリアしか見えないわ」
「は、はひっ」
「行きましょうか。三つ目の国アンブラに、セレーネがいるんでしょう?」
「うん、間違いないと思う」
ムーナが大きくうなずく。
するとウサギのラビもうれしそうにカゴを出て、ムーナの足元へ。
どうやら、一緒についてくるようだ。
「わあーっ、可愛いねぇ」
さっそくメイが撫でると、その手に身体を摺り寄せる。
「ふふ、メイもムーナたちと姉妹だったのかってくらい懐かれてるわね」
こういう時は姉妹以外を警戒しそうだが、最初から好感度最高のラビに思わず笑うレン。
四人はムーナの記憶を頼りに、宮殿の地下通路を通って外へ出る。
そこから別口の地下トンネルへ入り、今度はアンブラへと進む道を行く。
まずは重力をゼロにして、高速飛行で突き進む。
そして一気に距離を進めたところで、地上と同じ『通常重力』の区画にたどり着いた。
「重力が戻ったという事は、何かがありそうですね」
「罠か魔物か、それとも魔導鎧か」
着地して、武器を手にする四人。
「月の獣の一体ってところかな」
現れたのは、フレイムアリゲーター。
真紅の身体に黒い斑点を持つ姿は、月の獣版サラマンダーといったところか。
その黒目をこちらに向け、ターゲットを確認した次の直後。
「「「「っ!!」」」」
フレイムアリゲーターの放つ火の大きさに、思わず目を見開く。
広いトンネルに逃げ場がないほど大きく広がった、灼熱の炎。
どうやら防御を取らせて、敵優位で始まる戦いのようだ。しかし。
「【装備変更】っ!」
いち早い反応はメイ。
フレイムアリゲーターの大きく開いた口の奥に、わずかな輝きが見えた瞬間に身体が動いていた。
それを見て、先頭のメイの背後に下がる四人。
その肩にまとった【王者のマント】を払い、仁王立ちのメイが炎を吹き飛ばす。
「【フリーズストライク】!」
レンは早い反撃で、フレイムアリゲーターを狙う。
しかし敵も速い動きで、これを回避してみせた。
「意外と【敏捷】高めね!」
「【加速】!」
この隙を突き、回り込むような軌道での接近を図っていたツバメに、吐き出す三連続の炎弾。
「【四連剣舞】【斬り捨て】――――御免!」
その全てを、ツバメは二刀流の四連撃で霧散させる。
余った最後の一発で、しれっと空を斬ってる辺りが、なんともツバメらしい対応だ。
フレイムアリゲーターの攻勢は終わらない。
煌々と赤熱させた尾を大きく振り回すと、大量の火花が辺り一面に広がる。
そして、次々に爆発炎上。
距離を置いていたメイたちにダメージはないが、フレイムアリゲーターはこの炎の中を特攻してくる。
ツバメの前に飛び出してきて、煌々と赤熱させた尾を振り回して攻撃。
「っ!」
ツバメはその場に伏せて尾を避けると後転、返しの一撃を後方への【跳躍】で回避する。
だがフレイムアリゲーターは止まらず、さらに前進を継続。
「【かばう】!」
迫っての一回転攻撃は威力も高く、同時に火花を生み出す厄介な攻撃だ。
対してまもりは、これをわざと通常防御で受けることで弾かれ後退。
ツバメと共に、火花の爆発によるダメージ範囲を抜け出した。
「本当に嫌な場所での戦いね……っ!」
範囲攻撃なだけでなく、炎のように広がる特性を持つ攻撃は、密閉空間ではやっかいだ。
ましてフレイムアリゲーターには炎が一切効かないため、いくらでも炎の中を駆けてくる。
まさにやりたい放題状態。そんな中。
「……追撃、お願いします」
「ムーナ?」
これまで後方で控えていたムーナが、レンにそう言って二本指を掲げた。
すると勢いよく駆けてくるフレイムアリゲーターに、集まる魔力。
「――――【グラビティダウン】!」
その指を、強く振り下ろす。
「「「「っ!?」」」」
空気が揺れる。
直後フレイムアリゲーターにかかる重力が突然大きく上がり、そのまま地面にめり込んだ。
地面に走る無数のヒビが、その威力を如実に物語っている。
「フ、【フリーズブラスト】!」
指先一つで重力を変える。
そんな凄まじい能力に驚きながらも、レンはすぐさま追撃。
重力から解放される瞬間を狙って放つ氷嵐で、フレイムアリゲーターを切り裂いた。
「……これがルアリアの王族が持つ力? 重力操作ってまた面白いわね……っ!」
「すごーいっ!」
記憶を取り戻し、思わぬ能力を見せたムーナにレンとメイが感嘆する。
ルアリア国の特長である、重力の操作。
どうやらムーナは、自身の力でそれを行えるようだ。
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