1315.眠り餅と月ウサギ
「月から青い星を見ながらお団子を食べるって、なんだか不思議だねぇ」
「変わった風情がありますね」
広場にあった小さな塔は、内側の螺旋階段を登ることで、三階ほどの高さに上がれる。
灯台のようにも見えるモニュメントの縁に腰かけたメイが、団子を頬張り笑う。
そこそこの数を手に入れることができた【星見団子】
何気に状態異常耐性の上昇を持つこのアイテムは程よく甘く、いくつでも食べられてしまいそうだ。
「とても美味しいです……っ」
つきたての餅から派生して生まれた団子を食べながら、まもりは青い星を眺める。
通りを駆けて行くのは、車ではなくウサギ。
それは、月ならではの経験だ。
「……でもこれって、千年単位で置きっぱなしだった粉で作ったんじゃないの?」
「た、たしかにそうですね……っ」
そんな事実に、笑うレン。
「ウサギ、やっぱり気になる」
一方で少女はもぐもぐしながら、駆けるウサギたちを静かに見つめていた。
テネブラエでは見かけなかった、たくさんの白ウサギたち。
どうやら危険な個体もいれば、そうでない個体もいるようだ。
「それじゃあそろそろ、宮殿前を占拠してるウサギたちには退いてもらいましょうか」
餅をついたのは、あくまで通り道を塞ぐ大量のウサギ対策のため。
塔から降りた四人は少女と共に、小さな宮殿へと続く前庭へ。
「お餅、ありがとーっ!」
臼と杵を抱えて帰って行く魔導鎧コンビを見つけて、手を振って見送る。
それから檻のような門をそっと開いて踏み込むと、ウサギたちが一斉にその赤い目でこちらをにらんできた。
五人が前庭の真ん中まで来ると、今度はその身体をこちらに向けてくる。
「これ以上進むと、襲い掛かってきそうです」
ここでツバメは、先ほど作成した【眠り餅】を取り出す。
両手で抱えるほどの大きさの【眠り餅】をその場に置くと、一羽のウサギが近づいてきて匂いを確認。
それから一斉に、ウサギたちが駆け寄ってきた。
「下がりましょう」
メイたちは後退して、様子を確認する。
すると大量のウサギが【眠り餅】に殺到して試食、そのまま巣穴に持って行った。
しばらくすると、前庭のウサギたちがその場に倒れ伏す。
どうやら、眠っているようだ。
「これであの穴から、無限に増援が来ることもないわけね」
そのまま五人は進み、宮殿の両開きドアをレンを先頭にして開く。
そこは、白を基調にした広いホール。
描かれた月とウサギの天井画に金の装飾が映え、その中心から降りている大きなシャンデリアが、その魅力をさらに引き立てている。
「あれは、なんでしょうか……」
自然と足が止まる。
ホールの奥にある道を塞ぐように、あるいはこの場所の主であることを誇示するかのように、大きな白い毛玉が一つ。
進むと、毛玉から二本の長い耳が立ち上がった。
足音を聞きつけるのと同時に身体を起こし、平原で天敵を探しているかのように、二足状態で起き上がる。
「大きなウサギ?」
高さは2メートル50センチほど。
目の下や腕、腹部に大きな傷痕を負った一羽の大きな月ウサギ。
その真紅の目を、ギラリと輝かせる。そして。
「くるよっ!」
メイの言葉に応えるかのように、猛烈な勢いで駆け出した。
「【フレアストライク】!」
レンがけん制と様子見を兼ねて放った炎砲弾を、大ウサギは短く低めの跳躍で回避。
「【加速】【リブースト】【電光石火】!」
そこに駆け込むのはツバメ。
迫る速い斬り抜けを、大ウサギは大きな前方宙返りでやり過ごす。
その狙いはメイ。
大ウサギは、跳躍の勢いのまま飛び掛かってきた。
「【アクロバット】!」
メイも負けじと、華麗なバク転でこれを回避。
「【投擲】!」
大ウサギの背中を狙って、投じられる【雷ブレイド】
すると大ウサギもなんと、これをバク宙で回避。
さらに『ひねり』を入れたことで、その着地はツバメの方を向いていた。
「うわっと!」
まさかの回避によって、飛んできた【雷ブレイド】をしゃがんでかわすメイ。
「背後からの攻撃を完全回避! このウサギ、メイみたいに『音』に反応してるのかもしれないわ!」
レンの予想は正解だ。
草食動物ならではの逃げ足に、大小強弱自在の跳躍。
そして耳の良さも、この大ウサギの大きな武器となっている。
「【投擲】!」
速い四足の移動で迫り来るところを狙って、再び投じる【雷ブレイド】
「っ!?」
大ウサギは低空の速い跳躍ですれ違い、まだ【投擲】の硬直下にあるツバメに飛び掛かってきた。
圧し掛かりではなく、押し倒し。
大ウサギは乗りかかったツバメに、そのまま【嚙り付き】を発動する。
「くっ!」
くわえた状態のツバメを振り回し、今まさに攻撃に入ろうとしていたメイに向かって放り投げた。
「わっと!」
そしてメイがツバメを受け止めたところで、その目を煌々と赤く輝かせる。
すると今度は、まもりの足元に生まれる半径2メートルほどの魔法陣。
二つの盾を、まもりはすぐさま構えるが――。
足元から垂直に噴きあがった、白の波に飲み込まれた。
「まもりちゃんっ!」
「まもり!」
白い波の正体は、小型のウサギたち。
大量のウサギが一気に噛み付くこの攻撃に、防御は意味をなさない。
魔法陣に吸い込まれるかのように、引いていくウサギたち。
この攻撃によってまもりは、HPを3割ほど持っていかれていた。
「まもりがこのダメージ……!? このウサギ、侮れないわ……っ!」
ルアリアの宮殿に棲みつく思わぬ強敵に、レンは杖を構え直した。
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