1314.月ウサギの対処法
「魔導鎧たち、無事でよかったわね」
「本当だねっ」
「まもりさんも、気を落とさず」
「は、はひ……」
穴からまもりを引き上げて、大きくうなずくツバメ。
四人は無事ガレキの山から、太めの魔導鎧を助け出すことに成功。
細い魔導鎧に肩を叩かれ安堵する姿は、何とも人間味がある。
「……ちょっと待って」
すると少女が突然、辺りを見回しながらつぶやいた。
「こっちに何か……あるかも」
まるで初めて訪れた町でデジャブを体験したかのように、付近を確認しながら歩を進めていく。
「追いかけましょう」
まだ魔導鎧たちが肩を叩き合っているが、レンは少女を追って歩き出す。
するとその先にあったのは、小さな宮殿のような建物。
シンプルな造りながら、他の建物にはない飾りが見受けられる建物は、前庭部分が長い。そして。
「この建物、覚えがあるよ……」
「すごい数のウサギですね」
「で、でも……魔物みたいですっ」
門扉に近づくと、前庭を雪のように白く染めているウサギたちが、一斉にこちらを見る。
さらにその全てにHPゲージが現れると、自然と生まれる緊張感。
「倒しても終わらないって」
すると突然少女が、つぶやいた。
どうやら一緒についてきた魔導鎧たちが、何やら教えてくれたようだ。
「奥にある穴から、いくらでも出て来るって」
「ここは進むなってこと?」
レンがたずねると、少女は首を振る。
「眠らせればいいみたい」
「どうやってですか?」
ツバメが問いかけると、少女は指を差した。
その先にあるのは、小さな広場。
「そこで餅をついて、持っていけって」
「「「「餅?」」」」
意外な言葉に、四人は一緒になって首を傾げたのだった。
◆
「なんで、臼と杵があるの?」
「楽しそうです……!」
首を傾げるレンと、興味深そうにするツバメ。
広場で待っていると、魔導鎧コンビが持ってきたのは臼と杵。
魔導鎧が大きな紙袋に入った白い粉を臼に入れ、水を混ぜてこねると、餅の原型ができあがった。
「あとはつくだけだって!」
「何このクエスト」
「大事なのはタイミングみたいだよ。叩くほど餅ができていくけど、遅くなると餅がドンドン粉に戻っていっちゃうみたい」
早くも乗り気な少女がそう言うと、細い魔導鎧が餅をこねる真似をして、太い魔導鎧が杵でつく動きをしてみせる。
「かつて月の町内会で、餅つき大会をしていたのでしょうか」
「その発想はなかったわ」
「楽しそうだねぇ」
いそいそと杵を手に取り、ブンブンと振ってみせるツバメ。
「お、お餅は、混ぜる方も大事です……!」
するとまもりが真剣な面持ちで、臼の前に片ヒザを突いた。
「とにかくここは、二人に任せてみましょうか」
「いいと思いますっ」
乗り気な二人に任せて、レンとメイは見学に回る。
「それでは始めましょう」
「はひっ」
少女いわく、大事なのはとにかくタイミングよくつき続ける事。
大きくうなずいて、杵を掲げるツバメ。
まもりもそれに応えて、餅つき体制に入る。
「せーのっ! はいっ」
「はいっ」
ツバメがつく、まもりがこねる。
二人の掛け声が交互にあがる餅つきは、始めてみると意外と楽しい。
メイとレンは、二人の共同作業をのんびりと眺める。
「はいっ」
「はいっ」
「はいっ」
「はいっ」
リズミカルな動きが心地よい、二人の餅つきコンビネーション。
餅がその姿を、程よく丸いものに変えていく。
伸びもよく、ドンドン完成が近づいてくる。しかし。
「……おいしそう」
まもりが一瞬、白く輝く餅に目を奪われた。
そしてズレる、二人の呼吸。
「はいっ」
「痛っ」
「はいっ」
「痛っ」
「はいっ」
「痛っ」
「はいっ」
「痛っ」
「「あははははははっ!」」
そこからずっと、タイミングがツバメに手を叩かれる形になってしまった。
それを見たレンが、笑い転げる。
メイもまもりの手を叩くマシーンと化したツバメの姿に、レンに抱き着いて笑う。
もちろん痛みはないのだが、叩かれれば薄くHPが減る。
どうやら、衝突ダメージをとられているようだ。
「いったん、いったん落ち着きましょう!」
「はひっ!」
そこでツバメは、いったん動きを止めて深呼吸。
慌てずに、再始動を提案する。
「せーの! で、仕切り直しを始めましょう」
「はひっ」
二人しっかり目を合わせて、うなずき合う。
「「せーのっ!」」
そして綺麗に声を重ねて、再び餅つきを再開する。
「はいっ」
「痛っ」
「はいっ」
「痛っ」
ちゃんと「せーの」で振り下ろしたツバメと、「せーの」で餅をこねにいったまもりの手が再び激突。
「「あははははははははははっ!」」
わざわざタイミングを合わせて、ピッタリのタイミングでまもりの手を打ったツバメに、息ができないほど笑うメイとレン。
「……まもりさん、お願いします」
「はひっ」
今度はツバメが一度待って、まもりがこねたのを確認して餅を叩くという形にスローダウン。
「お願いします」
「はひっ」
「お願いします」
「はひっ」
もちろんこの速度では、どれだけ時間がかかるか分からない。
再び交互に作業を行う中で、ゆっくりとスピードアップ。
今度はしっかりと、見事な連携で餅がついていく。
「はいっ」
「はいっ」
「はいっ!」
「はいっ!」
まもりも今回は、しっかりと最後まで集中。
「「はいーっ!」」
すると問題なく、まん丸で白い餅がつき上がった。
「ここは失敗判定はなしで、ちゃんと一定以上の速度で回数を叩けば餅ができあがるのね」
笑い過ぎて出た涙をぬぐいながら、レンが餅をのぞき込む。
無事に完成した餅は大きな塊と、小分けの団子という二つのアイテムに分かれた。
その中から【大きな餅】を取り出した太い魔導鎧は、最後に【眠り粉】をまぶして【眠り餅】を完成させる。
「こっちのお団子は、持って行っていいみたいだよ!」
「っ!」
少女の言葉に思わず、ウサギも驚くほどの歓喜のジャンプを見せるまもり。
さきほどの『崩落事件』の件も、現物を前にしてしまうと、うっかり頭から抜けてしまうようだ。
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