1308.重力を手繰れ!
メイたちがたどり着いたのは、ルアリアへと続く地下トンネル。
レールはないが、足元には謎の鉱石を使ったラインが、四本ほど真っ直ぐに走っている。
そのため、道幅は結構広い。
「……これは何?」
ホームになる部分から降りると、ラインの端に謎の大きなレバーを発見。
見ればトンネルには、等間隔でこのレバーが設置されている。
「引いてみてもいいかな?」
メイは駆け寄って、垂直に立っているレバーに手をかける。
「もちろん。おそらく何か起こるんだろうし、触らずに行くのはもったいないもの」
「それじゃあいくよーっ! せーのっ!」
うなずくツバメとまもりを見て、メイは思い切ってレバーを引く。
「「「「っ!?」」」」
すると突然、身体が信じられないほど軽くなった。
それは身体が、勝手に浮かび出すほどだ。
「これ、重力が消えてる……っ!?」
まさかの事態に、驚く四人。
「わあーっ! 面白いね! 【ラビットジャンプ】!」
「あっメイ、待って!」
「ふぎゃっ!?」
メイの大きなジャンプは爆発的な勢いで上昇し、そのまま天井に直撃した。
「あははははっ! 何これーっ?」
それでもメイは楽しそう。
空中でくるっと半回転して天井を蹴ると、そのまま宙を飛んでレンのもとへ。
「はいっと」
「こんなの初めてだよー! 面白いねっ!」
そしてレンが抱き留めると、また楽しそうに笑う。
「まもりさん、手を」
一方ワタワタと空中でもがいているまもりの手を、ツバメが取って引き下ろす。
「無重力だと、周りに何もない状態では大変ですね」
「少し待ってて。メイ、ちょっといい?」
レンはメイの肩に、そっと手を乗せる。
「宇宙船内での移動に、こうやって反動を使うのは見たことあるでしょう? それっ」
そのまま肩を押し、反動を使って一つ先の区画を目指して進む。
【低空高速飛行】では身体を斜め前方に傾けるような形で飛んでいたが、今回は完全に地面に水平の体勢で飛行だ。
フワフワと真っ直ぐに飛んでいったレンは、次の区画のレバーにしがみついた。
「ここからの区画は……これで!」
予想通り、レバーは無重力になる前のポイントでも止められる。
するとトンネル内の一区画が、通常の重力よりも軽くなる程度にとどまった。
「それじゃメイ、まずはツバメとまもりを軽くパスして」
「りょうかいですっ!」
メイはツバメの手を引き、背中側から肩をつかむと、ポンと前に押した。
するとツバメは滑空するような形で低空を進み、そのまま次の区画に入ったところで自然と重力に引かれて着地。
「こちらは普段よりも、身体が軽い感じですね」
「次はまもりちゃんっ」
「はひっ」
続けてまもりの肩を押すと、同じく滑るような軌道で飛んで、次の区画へ。
そのまま綺麗に、着地を決める。
「最後はメイ、【ターザンロープ】を投げてみて」
「【ターザンロープ】!」
レンの掲げた杖に向けて投じたロープの輪を、レンは杖の先ですくうようにして受け止める。
「それからクエスト主の手を取って」
「はいっ」
メイが少女の手を取ったのを確認して、レンがロープを引く。
すると、メイが少女と共にふわっと飛んできた。
「わあーっ! やっぱりこれ楽しいよーっ!」
目を輝かせながら着地したメイに、レンもうなずく。
「こういう遊びができるのも、この世界の良いところね」
そう言ってレンがジャンプしてみせると、魔導士らしからぬ大きな跳躍となる。
「おおーっ!」
「多分走っても速くなるんじゃないかしら」
「【バンビステップ】!」
「【加速】【リブースト】!」
「「っ!?」」
その速度に、思わず感嘆してしまうレンとまもり。
「すごーい!」
「いつも以上の加速がかかります!」
「じゅ、重力の変化は、これまでになかった仕掛けですね」
「多分このシステムから、飛行艇を自在に滞空させたり飛ばす技術が作られたんでしょうね」
どうやらこのルートでは、重力の変化がカギを握ってきそうだ。
「長い道を進むためには、助かりますね。とはいえゴールが見えないほどの距離。時間が結構かかりそうですが……」
「確かにそうねぇ」
ゴールが見えないほどのトンネル。
ツバメの言う通り、いくら身体が軽くても踏破には時間がかかりそうだ。
「それでは進みましょうか」
「ちょっと待って」
走破する気だったのか、準備運動をしていた少女に笑いながら、レンはレバーを反対側に押してみる。
すると先に続く空間のレバーも、同じように連動して傾いた。
どうやら右に倒すと『該当区画のみ』、左に倒すと『続く区画もまとめて』重力を変えられるようだ。
「……やっぱり」
そして予想通り、重力は軽くなった。
「それなら」
レンはさらにレバーを、左側に全開まで押して倒す。
それから、楽しそうな顔で振り返った。
「ここまでは低重力。ここから先は無重力。そして続くのは長い長い道」
そう言って無重力区画に向けて、長めの助走を取ると――。
「【低空高速飛行】!」
一気に速度をつけて飛行し、そのまま無重力区画に飛び込んでいく。
すると【低空高速飛行】を解除しても、止まることなく一直線に飛んでいく。
「わあーっ! 楽しそう!」
「【加速】!」
ツバメも続けて走り出し、無重力区画前で前方にジャンプ。
すると心地よい速度での飛行が始まった。
「まもりちゃん、この子を背負ってもらってもいいかな?」
「は、はひっ」
無重力区画を突き進む二人を見たメイは、まもりに少女を背負うよう提案。
アキレス腱を伸ばしていた少女が、まもりの背中にしがみついたところで、今度はメイが腰を下ろす。
「そのままわたしにおぶさって」
「こ、この子を背負った私を背負うんですかっ!?」
その発想に驚きながらも、まもりは素直にメイの首元に手を回す。
「まもりちゃん、大丈夫?」
「は、はひっ。大丈夫ですっ」
「それでは行きますっ! 【バンビステップ】!」
メイは軽快に走り出し、そのまま加速。
「それーっ!」
そして無重力区画に飛び込む形で大きく前方に跳躍した。
するとスムーズな高速飛行に成功。
五人はそのまま、長い無重力の空間を一直線に飛んでいく。
「これ……楽しいかもーっ!」
「はひっ!」
無重力の使い方に気付かなければ、ひたすら真っ直ぐに走って進むだけの可能性もあったこの長いトンネル。
メイたちは少女と共に、一番この空間を楽しめる形でルアリアを目指すのだった。
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