1305.月の船
モナココの地下で眠り続けていた少女を連れて、メイたちは再びブライトへ。
セフィロト丸を留めると、合計七人で城内へと駆け込む。
そのまま格納庫へ向かうと、そこにはまだ兵長の姿があった。
「なんだ? 飛び出して行ったと思ったらもう戻ってきたのか?」
「飛行珠を積んだ大型船を使わせて欲しいの」
「……大型船を? なぜだ?」
世界最速のセフィロト丸を駆るメイたちには必要なさそうな唐突な要望に、怪訝にする兵長。
「あの光の紋様、月の文明の一つが『ターゲット』に向けるマークみたいなものらしいの。聞こえてた信号音も、危険を知らせるためものだって」
「なんだと?」
「かつて月から飛行珠を追ってやって来たのが、例の巨竜だって言えば分かるかしら」
「……また月から、あんな化物がやって来る可能性があるということか?」
「そうなるわね」
「だがその化物の狙いが飛行珠なのであれば、今飛行艇に使っているフロートやまだ分割していない飛行珠の使用も、停止しておく必要があるのではないか?」
兵長の鋭い疑問に、答えるのは王女。
「そうなります。そんな中で彼女たちは、月に向かうことを決めました」
「月に……!? 確かに月に向かうことができれば、化物の動向についても分かりそうだが……飛行艇はブライトの国家戦略の一つ。その全てを停止させるというのは……」
「そのために、私がきました」
「失礼ですが、貴方は?」
「申し遅れました。私はモナココの王女、エルーナ・モナココです」
「なんと……!」
兵長はまさかの事実に驚きながらも、現状でするべきことに思考を傾ける。
「分かりました。私は王に現状をご報告し、飛行艇の一時的な利用停止と、大型船の使用許可を提案します。皆さんは先に準備を済ませ、大型船の停泊先に向かっていてください」
「はいっ」
メイたちは飛行艇が並ぶ格納庫を突き進み、その最奥へ。
両開きの重たいドアが開くと、そこは最初に飛行艇がブライトの街から飛び立った時のような、開閉屋根の空間になっていた。
その下には、大型船が静かにたたずんでいる。
「カッコいいですね……」
「ド、ドキドキしてしまいますっ」
それは現実でも、星屑の世界でも異様となる光景。
夜の格納庫。
明るさを下げた照明珠の光に照らされる『月の船』は、迫力も段違いだ。
「これが、私たちの先祖がこの地にやって来た時に使った船……なんという大きさでしょうか」
「すごい……ゼティアとは違う方向に進んだ文明の最先端。やはり圧倒的だ」
「この船……!」
大型船を見た少女が、途端に息を飲む。
「もしかして、何か覚えがあるの?」
「この船……すごく大きい」
「……でしょうね」
相変わらず思わせぶりな少女に、言葉を失うレン。
王女と考古学者は呆然と見上げているが、やはり少女に驚きはないようだ。
ただ静かに、月の船を見上げている。
「お待たせした」
するとそこに、ブライト王を連れた兵長がやって来た。
「誠なのか? かの巨竜のような化物が、ブライトやウィンディアにある飛行珠やフロートを狙って、動き出す可能性があるというのは」
「はい、間違いありません」
「本当にモナココの王女殿下が……!」
本当にモナココの王女が出向いてきていたことに、あらためて驚くブライト王。
「だが、不確定な情報のために国の主力を封じるというのは……」
やはり王は悩んでいるようだが、兵長が口添えする。
「この者たちがいなければ、すでにこの国はなくなっていたかもしれません。そして今回もそれだけの脅威が迫っている可能性があります。一時的に飛行艇が使えなくとも、私たち紅の翼の力は先の戦いもあり、十分な練度を持っておりますので、数日程度なら問題ありません」
「何とぞ、お願い致します」
「おねがいしますっ!」
力強い兵長の言葉に続き、王女とメイが見せる懇願。
ブライト王は、覚悟を決めるように大きく息を吸った。
「他ならぬブライトの救世主の言う事だ。何より、真の最悪に備えるのが王の勤めであろう……大型船の使用を許可しましょう。新たな危機の調査、よろしくお願いします」
「ウィンディアには俺が直接出向いて、同じ説明と要請をしておこう」
「ありがとうございますっ! それでは、行きましょうっ!」
メイの言葉に、少女が静かにうなずく。
「どうか、ご無事で」
王女が静かに頭を下げ、考古学者は興味深そうに大型飛行艇を見つめる。
四人は少女と共に専用のタラップを上がり、大型船に乗り込んだ。
すると兵長が先頭に立って、屋根の開放を始めた。
徐々に見えてくる美しい夜空には、まばゆい満月が浮かんでいる。
「『月の船』の正常稼働を確認。進路クリア、外部空域異常なし」
響く、兵長の声。
「発艦準備よし!」
ガイド灯を持って、発進を先導する。
今回も運転はツバメだ。
飛行珠が一気に力を開放し、月の船が浮かび上がる。
吹き出す風に、格納庫の全てが揺れる。
「『月の船』、発進します!」
屋根の上部まで浮かび上がった月の船は、そのまま夜空へと舞い上がる。
こうしてメイたちはついに、月に向けて飛び立ったのだった。
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