1304.永き眠り
モナココの地下遺跡に隠された、謎の空間。
広い一本道を守っていた魔導鎧を打倒し、四人は最奥の部屋へと進む。
ノブのないドアに触れると、それは魔力で張られた壁だったようで、ゆっくりと消失していく。
「ここは……」
レンを先頭にして踏み込むと、そこは白いブロック積みの部屋だった。
広さは『教室』の半分ほどか。
しかしその中心には台座があり、その上に同じく純白の棺桶のようなものが乗っている。
そして棺桶には無数の魔法陣が描かれており、そこから伸びた一部の紋様は部屋の床や壁にまで伸びている。
「触れずにおく理由は、ないわよね」
レンは王女がうなずいたのを見て、四人一緒に棺桶のもとへ。
「「「「っ!?」」」」
すると突然魔法陣が強く輝き、棺桶から勢いよく白煙が吐き出された。
「な、何が起きるのでしょうかっ!?」
まもりは慌てて盾を構え、その背後から謎の棺桶を見守る。
一方メイは覚悟を決めて、魔法陣の刻まれたフタをそっと押しのけていく。
「わあ……」
そして、感嘆の声をもらした。
そこには淡い金色の髪をした、15歳ほどの少女が眠っていた。
袖のない白のワンピーズには、銀色の美しい紋様が入っていて、キラキラと輝いている。
肩までの髪を一房だけ結ぶ、月桂の葉。
ゆっくりと、目を開く。
美しい虹色の目をした少女は、驚きと期待に目をキラキラさせていたメイを見つけて、そっとその口を開いた。
「――――」
「……なんて言ってるの?」
聞きなじみのない発音に、首と尻尾を傾げるメイ。
「おそらく古い月の言語なんだろうが……さすがに初めての言語を聞き取るのは難しい」
「『月の民』の言葉だと思いますが、今の言葉とは別物ですから……」
考古学者と王女が、同時に首を振る。
すると謎の少女はそんな気配に気づいたのか、また何かをつぶやいた。
直後、小さな輝きが胸の前に灯って弾ける。
「――――行かないと」
「「「「っ!?」」」」
少女の言葉が突然聞き取れて、驚く四人。
「月の文明では、言葉を変換する魔法が確立していたのね」
「でも、行くってどこに?」
メイがたずねると、少女は真剣な面持ちで続ける。
「行かないといけないの――――月に」
「月の文明は、もうなくなっているかもしれないそうよ」
「それでも……行かないと。すごく、すごく大切な何かが、そこにあるから」
「あなた、名前は?」
「私は」
「私は……?」
「私は!」
「私は……っ!?」
「誰だろう」
「……えっ」
首を傾げる少女に、思わずレンがこけそうになる。
「どうして、こんなところにいるの?」
この質問には、首を振った。
「眠りが長かったせいか、記憶が曖昧かも。でも一つだけ確かなことは、永い眠りを選んだのは、この瞬間のため。それだけは間違いない!」
「この封印は、コールドスリープと同じようなシステムなのかもしれないわね」
「さ、さっきの警報は、それが解けることを知らせるためのものですか」
「とても盛大な目覚ましですね」
「……その石は?」
考古学者が持っていた『石』を見て、少女が問いかける。
レンは受け取ると、魔力を込めた。
すると、例の警報が鳴り始める。
「この音には覚えがある。何かすごく大事な……」
「危険を知らせるため、月で鳴らされているものらしいが」
「違う……もっと何か別の……」
考古学者の説明に、あらためて残念そうに首を振る。
どうやら少女は長い眠りのせいで記憶が欠けており、覚えているのは『月に行かなくてはならない』ということだけらしい。
再びこちらに向き直ると、少女はあらためて言う。
「お願いっ! 私を月に連れて行って!」
「ここでクエストになるのね……!」
「ということは、月から来る魔物に備えるわけではなく、月に向かうクエストなのですか!?」
「ええええーっ! すごーい!!」
「お、おどろきました」
またしても、星屑史上初の試みだ。
依頼内容はなんと、少女を月へ連れて行くこと。
「今まさに夜空に出ているあの月に、向かうってことでいいのよね」
「……でも、どうやって?」
再びメイが、首と尻尾を傾げる。
「あの大型船を使うのではないでしょうか」
「なるほど。大型船を守るクエストは、この時のためだったのね。輸送船を思わせる造りは、月からこの星へ向かう多くのルアリア人を運ぶため」
それはメイとレンが、紅の翼との競争の末に持ち帰った大型の飛行艇。
尾を上げた鯨のような形状をした船は、大きさもデザインのコンセプトも通常の飛行艇とは違っていた。
それはそもそも、旧文明の輸送船だったからなのだろう。
「皆さんは『月の船』をご存じなのですか?」
王女が、困惑気味に問いかける。
「はいっ。ブライトの近くで見つけましたっ」
「そうなのですか。もし月の船が動くのなら、可能かもしれません。月に向かうことも……!」
王女の言葉で、物語がさらに動き出す感覚。
「行きましょう! 私たちが運んできた大型船は今、ブライトに運ばれていたはずよ!」
「「「はいっ!」」」
「それならば、念のため私も同行します。大型船の使用や飛行珠を狙う魔物の存在。それだけ大きな問題の決定は容易ではありません。他国の王女からの進言は、飛行珠や大型船の使用を決断する後押しにもなるでしょう」
こうして王女と考古学者も、ブライトまで同行することが決定。
メイが手を伸ばすと、少女はそっとつかんで台座を降りる。
「まずはセフィロト丸で、ブライトへ向かいましょうっ!」
こうして四人は謎の少女を連れ、ブライトへと引き返していくのだった。
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