130.強襲の金糸雀
「天軍将の、パーティメンバーだったわね」
「まあな」
レンの言葉に応えたのは、雑な結びの金髪少女。
その背には、大きな金属製のハンマー。
文様の描かれた神具のような趣は、良い武器なのであろうことがすぐに分かる。
胸元を守るしっかりとした鎧と、大きめのガントレットからも感じられる風格。
「カナリアさん！」
向き合うメイたちと金糸雀。
そこにやって来たのは、10人ほどの天軍部隊。
「援護します」
「そういうことならあたしは地軍将を狙うから、他の二人はまかせていい？」
「分かりました！」
「あと彫像を狙うのはなしで頼むよ。普通に戦って勝ちゃいいんだからさ」
「はい！」
金糸雀はそう言って、再びメイの方を向く。
「置いときな。そいつは狙わねえから」
それはともすれば、余裕を見せつけるかのような行為。
「ありがとうございますっ！」
しかしメイ、単純に感謝して彫像を置く。
「……ツバメは一応、彫像にも注意しておいてもらえる？」
「分かりました」
その辺りは、レンがきっちりフォロー。
「そんじゃ行くぜ…………地軍将さんよおっ！」
金糸雀は、メイが向き直るのを待って駆け出した。
「【アクセルスウィング】！」
「うわっと！」
一気に距離をつめ、ハンマーを全力で振り上げる『移動+攻撃』のスキル。
意外にも硬直はほとんどなく、そこから大きな踏み出しと共に二回転。
文字通りハンマーをブン回す。
「【アクロバット】！ からの【アクロバット】！」
「やるな！ これならどうだあっ！ 【ギガントハンマー】」
回転の勢いに任せて、ハンマーを高く振り上げる。
すると金糸雀のハンマーが、突然巨大化した。
当然、振り下ろす一撃の攻撃範囲と威力は爆発的に増加する。
「うわ！ すっごい！」
感動の声をあげたメイは【バンビステップ】による後退で、巨大ハンマーの攻撃範囲を抜け出す。
直後、巨大ハンマーが地を砕き、衝撃波が駆け抜けて行った。
「なるほどな。【敏捷】特化の回避型ってわけか」
強靭かつ軽やかなステップで距離をつめてくる姿に、金糸雀はそう確信。
「【ラビットジャンプ】！」
対してメイは、勢いのままに高く跳び上がった。
「いっくよー！ ジャンピング【ソードバッシュ】だー！」
「【ソードバッシュ】だあ!? 何で今さらそんな技を【アクセルスウィング】！」
【敏捷】の低い金糸雀は、移動攻撃スキルを使ってメイの攻撃を回避する。しかし。
「なっ!? うおおっ!?」
巻き起こった猛烈な衝撃波に飛ばされ、地を転がった。
「……おいおい、マジかよ」
間違いなく回避したと言える距離でも、思わぬ高ダメージ。
これには驚かざるを得ない。
「あれだけの機動力だ。【敏捷】に特化してる分だけ他ステータスは低いのが常識。それにも関わらず攻撃力も高えってわけか。なるほどローランが警戒するわけだ」
「【バンビステップ】！」
メイは再び、距離をつめていく。
「だがな……その二つにステ振りしてるヤツは、絶対的に【耐久】が低ィ」
金糸雀はメイが狙いの距離に来た、その瞬間。
「行くぞぉぉぉぉ！ 【アクセルスウィング】！」
「【アクロバット】！」
これをメイは、急停止からの後方回転で回避する。
「――――【キャンセル】！」
しかしメイの目前に迫った金糸雀の『振り上げ』が、ハンマーを振ることなく停止した。
スキル【キャンセル】による、まさかのフェイントだ。
「ええっ!?」
まともな対人経験があまりなく、そのうえ素直なメイにこれは予想もできない。
「【敏捷】型は、必殺の一撃をまともに喰らっちまったら終わりだよなぁ！ あたしの勝ちだ！ 【ミョルニルインパクト】――――ッ!!」
炸裂する一撃は地を割り、天を突く派手なエネルギーエフェクトを噴き上げる。
それはこれまで、幾度となく強敵を一発で叩き潰してきた必殺スキル。
誰もが恐れる無情の一撃だ。
「う、うわああああー！」
メイはとっさにガードするも、その強烈な威力に大きく後退した。
「……すごーい！」
そのド派手なエフェクトに、思わず驚きの声をあげるメイ。
「……お、おいおいおい」
一方、金糸雀は愕然としていた。
「ウソだろ？ 【腕力】【敏捷】特化のヤツにあたしの必殺スキルが防ぎ切れるわけがねえ……一体、何がどうなってんだ!?」
強くて速いのに、なおかつ硬いという不可解な状況。
ただただ楽しそうなメイに、必殺の一撃を叩き込んだはずの金糸雀は混乱する。そして。
「ッ!! 【アクセルスウィング】！」
突然足元を覆った陰に、慌てて飛び退く。
直後、隕石のように落下してきた氷塊が地面に突き刺さった。
「使えそうね」
「……なんだ、この魔法は」
空から落ちてくる魔法など、これまで見たことがない。
いぶかしむ金糸雀。
「落ちてくる氷塊を気にして空を見てたら、メイの相手なんて不可能でしょう？」
『氷塊落とし』は、空に向けて【魔砲術】で【フリーズストライク】を発射。
これに【誘導弾】を付加しておくことで、氷塊を目標に向かって落下させる技。
もちろんレンの独自アレンジだ。
「面白い攻撃ですね」
少し得意げにするレンの隣に、ツバメが並ぶ。
気がつけば天軍プレイヤーはすべて倒され、残るは金糸雀だけになっていた。
「マジかよ……」
ハンマーを手にしたまま、ため息を吐く。
「今年はちょっと違うみたいだな。地軍将は強ぇし、中二病はやり手だし、アサシンは……ちっちゃいし」
「ちゅ、中二病」
「ちっちゃい……」
レンとツバメ、その言われように思わず硬直する。
「カッコ悪ィけど、勝手に出て来て失格は申し訳が立たねえからよ」
金糸雀は「悪ィな」と苦笑いして、ハンマーを振り上げた。
「【ミョルニルインパクト】！」
「「「ッ!!」」」
とっさに防御に入る三人。
突き上がるエネルギーエフェクトが消えると、そこにもう金糸雀の姿はなかった。
誤字報告ありがとうございます！ 適用させていただきました！
やはり勝ち続けていると、余裕が過ぎてしまうのでしょうか。
強者を求めて、あえて仲間に立ちはだかる金糸雀というのも面白そうですね。
お読みいただきありがとうございました。
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