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1298.ロード・オブ・ザ・ストーン/尊き犠牲たち

 草原から崖を登り、長い岩肌の道を下っていくメイたち。

 触れただけで【劇毒】とその他状態異常を押し付けてくる、重たく丸い石。

【悪魔石】の運搬は、好調だ。

 その重さに傾く鉄の船をこいで湖を進めば、そこはもう火山の麓。

 あとは火口から溶岩に【悪魔石】を捨てれば、クエストクリアだ。


「【ダイナブラスト】! それーっ!」

「ナイスショットです!」


 ツバメの思い付きで始めた『ダイナブラスト・ゴルフ』で、距離を稼ぐ。

 こうして麓から緩やかな坂を進めば、あとは最後の急こう配を上がるだけ。

 わずか数時間でここまで来たメイたちは、快挙と言えるだろう。


「おわっ!? なんか禍々しい石が飛んできたぞ……?」


 メイが打った石に驚き、じっと見つめているのは15人ほどの大人数パーティ。

 どうやらこの付近での狩りを終えて、帰る途中のようだ。


「この重たい【悪魔石】を、火山に捨てに行くのがクエストなの」

「それに触れてしまうと、【劇毒】に加えて状態異常まで罹患してしまうという、恐ろしい石なのです」

「おおっ!? 五月晴れだ!」

「さすが、面白そうなクエストやってるなぁ」


 説明すると、めずらしいクエストの内容に感心される。


「ここからは坂が急になるから、持って運ぶ形だねっ」


 そう言ってメイが、【悪魔石】に手を伸ばしたところで――。


「あっ!」


 ツバメが気づいた。

【原始肉】の効果が、切れていることに。


「メイさんっ! 予備の【原始肉】を食べないと状態異常が! 【加速】【リブースト】!」


 大慌てで、メイにタックルを仕掛けに行く。

 そして今まさに【悪魔石】に手を伸ばしたメイに激突して、抱えて転がった。


「……メイさん?」


 なぜか倒れたままのメイ。

 ツバメが、そっと近づく。

【悪魔石】に触れているのか、いないのか。

 触れているなら【麻痺】や【睡眠】か。

 いつもとは明らかに違う雰囲気に、恐る恐る返事を待つと――。


「……がるるるる」

「『バーサク』です!」

「はい逃走っ!! 振り返らずに全力で!!」

「「「うおおおおおおお――――っ!!」」」


【悪魔石】を超える災厄が、今ここに爆誕した。

 レンは即座に撤退を指示。

 三人はもちろん、付近で見ていたプレイヤーたちも、少し離れた岩石の影に全速力で逃走する。


「がるるるるるるるっ!」


 こちらを追ってくれば、始まるのは地獄だ。

 息を飲むような緊張感の中、早い逃走の指示が活きた。

 付近に人がいなかったため、メイは付近にあった【悪魔石】を手に取った。

 そして、始める助走。


「マズいわ! メイがあれを投げても、抱えて走っても大きなマイナスになる!」

「ですが【麻痺】ならまだしも、【バーサク】は手が付けられません……!」

「さ、最悪湖に投じられる可能性も……っ」


 まさかの事態に、頭を抱えるレンたち。すると。


「……どうやら、俺たちが行くしかなさそうだな」

「えっ?」


 思わず振り返るレン。

 そこには15人パーティの面々が、ワクワクを抑えきれない顔で立っていた。


「怖くないって言ったらウソになるよ。でも、俺たちだって世界の危機を憂う戦士なんだ」

「あの石を、手放してもらう!」


 うなずき合う、男たち。


「行くぞォォォォォォ!」

「「「うおおおおおおおお――――っ!!」」」


 雄叫びと共に、駆け出して行く。


「【疾駆】【ローリングブレイド】!」


 先行した剣士が放つ、豪快な回転撃。

 暴走メイは、これを自前のジャンプで回避する。


「【フルスイング】」

「うああああああああ――――っ!」


 そのまま剣を振り降ろし、一撃で打倒。


「よくもフロルドを――っ! 【降雷剣】!」


 続く雷を落としながらの振り降ろしも、暴走メイはダンスのような回転でかわす。


「そんな重たい石を持ってその回避って、ヤバすぎだろっ!?」

「【フルスイング】」

「ぎゃあああああああ――――っ!!」

「フロルド! ドリエル! 目を覚ましてくれ、メイちゃ――ん!!」


 魔導士の渾身の叫びに、暴走メイは剣を抱えたままピタッと制止。


「うそ……まさか俺の声が届いて――」

「【ソードバッシュ】」

「うぎゃああああああああ――――っ!!」


 上がる火力、巻き起こる大惨事。

 しかし大きなクエストの最中でもなく、狩りも終えた後だけあって、思い残すことは何もなし。

 ノリノリで突っ込んでいく男たちが犠牲となって生み出す、わずかな隙。


「【超高速魔法】【フリーズボルト】!」


 レンの狙撃が見事に【悪魔石】を打ち、暴走メイの手からこぼれ落ちた。


「今だ! 【ラピッドダッシュ】!」


 駆け出した一人の武道家が、猛ダッシュで【悪魔石】を抱える。

 そして暴走メイから少しでも距離を取ろうと、自慢の【腕力】で十メートルほどの距離を駆け抜けた。しかし。


「む、無念」


【劇毒】と【麻痺】の前に倒れ込む。


「任せろ! メイちゃんが正気を取り戻すための時間は、俺が稼ぐっ!」


 続く重戦士が遺志を継ぎ、【悪魔石】を手に駆け出す。

 そして十数歩ほど進んだ先で振り返ると、そこには剣を掲げた百人のメイ。


「えっ、ええええええええ――――っ!?」


 今度は【劇毒】と【幻覚】だ。


「「「「【ソードバッシュ】」」」」

「ひっ、ひいいいいいいいいいい――――っ!!」


 見た目には百人のメイが放つ一撃に、恐怖と共に吹き飛ぶ重戦士。

 すると今度は騎士が【悪魔石】を受け取り、これを必死に保持。


「守れ! ガルフを守るんだ!」


 残ったプレイヤーたちは騎士の前に壁となり、暴走メイの剣技に消し飛ぶ。それでも。


「呪われし石を運ぶという使命。俺たちの犠牲でそれが成せるのなら、一向に構わない……っ!」


 倒れゆく騎士は最高の表情で、そう叫んだ。


「……レンさん、このまま放ってはおけません。オトリになってもらった以上、私たちにはこのクエストを達成する義務があります!」


 このノリに、思わず乗ったのはツバメ。

 するとその言葉を聞いた一人の剣士が、覚悟を決めたように笑みを浮かべた。


「メイちゃんにダメージを与えることは難しいけど、暴走状態なら隙を作ることくらいは……っ!」


 そして、猛然と走り出す。


「あとは頼みます! 世界を、世界を救ってください。今だぁぁぁぁっ! ――――【自爆】っ!」

「「「っ!?」」」


 持てるHPとMPの全てを持って、巻き起こす爆発。

 その威力は凄まじい。しかし。


「【裸足の女神】」


 それでも暴走メイは、超加速で直撃の範囲を免れた。


「ですがっ!」


 しかし命をかけた一撃は、暴走メイの体勢を崩すことに成功。

 これを見たツバメが、レンに視線を送る。


「来たれよ深き混沌より、時すら凍る絶対零度の祝福よ――!」

「【コキュートス】!」


 杖から放たれたクリスタルのような美しさを誇る氷弾が、一直線にメイのもとへ。

 炸裂し、付近一帯を純白の氷雪世界に塗り替える。

 そして暴走しているがゆえに防御を忘れたメイを、凍結することに成功した。


「……詠唱しなくてもいいのよ?」

「新スキルなので」


 とにもかくにも、メイを硬直させることで時間を稼いだ二人。さらに。


「【加速】【紫電】!」


 接近し、凍結が切れたところでさらに別種のスキルで硬直を継続する。


「……はっ!?」


 すると狙い通り、メイが時間経過で【バーサク】から解放された。

 ようやく身体が、自由を取り戻す。


「わあーっ! 皆さん、大丈夫ですかーっ!」


【劇毒】によるダメージを受けてはいるが、そんなことは気に留めずに犠牲者のもとへ駆けるメイ。

 すると【自爆】で隙を生み出した剣士が、「待ってました!」とばかりに声をあげる。


「俺たちのことはいいんだ……進んでくれメイちゃん。君たちには、石を運ぶという……特別な使命が、あるのだから……ぐふっ」

「ああーっ! 剣士さああああ――んっ!」


 やってやったぜ。

 最高に気持ちよさそうな顔で、ゆっくりと目を閉じる剣士。


「メイさん、進みましょう。皆さんの犠牲を無駄にしないために」

「……ツバメちゃん」

「お、想いを背負って、進むのですね」

「とりあえず、予備の【原始肉】を食べた方がいいんじゃない?」


 火口までの短い道。

 メイは冷静なレンの提案通り【原始肉】を食べながら、【悪魔石】を運ぶ。


「くるっ!」


 そして火口にたどり着いたところで、飛来する一体の翼竜を発見。

 おそらくこのクエスト最後の難関。

 容赦のない特攻で、メイを狙って突撃を仕掛けてくる。しかし。


「【かばう】!」


 その前に飛び込んだまもりが、掲げる盾。


「【獅子霊の盾】!」


 迫る飛竜に喰らいつくと、そのまま背負い投げのような形で地面にたたきつけた。


「【ソードバッシュ】!」


 続く一撃で容赦なく翼竜を吹き飛ばすと、二人はうなずき合う。

 それからメイは、【悪魔石】を溶岩に放り投げた。

 落下していく呪いの石はそのまま、灼熱の中へと沈んでいく。

 やがて黒い煙が上がり、【悪魔石】は消滅した。

 こうして長期クエストを、短い時間で達成したメイたち。


「みんな……ありがとう」


 振り返れば、そこには倒れ伏したままのプレイヤーたち。

 倒れたまま見守っていた皆に笑みを向けると、まるで成仏したかのように死に戻っていく。


「本当に、演出まで完璧ね……」


 ちゃんとタイミングを待って死に戻ることで、見事な演出を見せた成仏パーティ。

 とにかく楽しそうな男たちに手を振るメイの背中を見ながら、レンはくすくすと笑うのだった。

脱字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!

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アイテムの効果時間はちゃんと確認しましょう、といういい啓発になりましたね。 こういう綻びから色々なものが崩壊するんだなって。 レンちゃんの咄嗟の避難指示はさすがの領域。 まさか新魔法のコキュートスを…
見事な演出! そして掲示板にこの一件を書き込んでマウント氏を悔しがらせるんですね分かります(笑) 掲示板民「マウント氏がマウント取られてらw」
恐るべしバーサク! FFとかでも、バーサク化した前衛に後衛がワンパンされた記憶があるw そして次回は…報酬かな? 『フハハハ!』 「はひぃ…悪魔さんが出て来ました」 「わぁー! でっかい黒豹さんだね…
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