1297.ロード・オブ・ザ・ストーン
「これはまた、すごいクエストを見つけていたのですね……」
草原の途中で、ツバメが感心したように言う。
「ふ、普通に受けたのでは達成に何ヶ月かかるか分からないので、置きっぱなしにしていたんです」
任された仕事は、【悪魔石】を火山に捨てるというシンプルな物。
しかしこの【悪魔石】の大きさは砲丸並み、重さはそれ以上。
何より大変なのは、持っているだけで多種多様な状態異常に罹患する点だ。
しかも『劇毒』という高速度でHPを減らす上に、他の状態異常も重複させるという反則的な異常には必ずかかる。
持っているだけでやがて死ぬ恐怖の石を、湖を挟んだ先の火山に捨てるのは、本当に数ヶ月かけての達成を見込む必要がありそうだ。
「【劇毒】の減りの早さが厳しいわね」
「はい、その上持っているだけで新たに【麻痺】や【混乱】、【酩酊】に【視界狭窄】などが乗ってくるというは……」
その重さゆえに、持って走っても著しく速度が遅くなる。
力自慢の従魔でも容赦なく状態異常にかかり、移動使用の召喚獣は嫌がり逃げる。
放つ瘴気は木材を腐らせるため、飛行艇の利用も許さない。
状態異常を回復しても、持ち直したところでまた新たな状態異常になってしまうのでは、どうしたって進みは遅くなる。
驚異的な厳しさを見せるクエストは、長い時間をかけてちょっとずつ進めて、そのうち達成できればいい。
そんな気長なものとして、作られているのかもしれない。
「【加速】!」
スキルを発動すると、ドスドスドスと進んで停止。
「これは大変です……」
両手で持って、一歩ずつ進んでいたツバメが【悪魔石】を降ろす。
普通に歩くとなると、その速度は通常の歩行の半分以下だ。
「そ、それでは、次は私が」
そう言って、【腕力】もそこそこあるまもりが【悪魔石】を持ち上げる。
「【チャリオット】!」
これまたドスドスと足跡を残しながらの進行。
こうして二人で、約10メートルちょっとほど進むことができた。
「こういう、受けっぱなし状態で何か月かけて達成みたいなクエストも面白いわね……でも」
時間をかけろ。
そんなクエストに立ち向かうのは、【腕力】上げのバナナを食べたメイ。
【悪魔石】を持ち上げると、スローインのスタイルで投擲する。
「それーっ!」
もちろんメイも、ツバメたちと同様に【原始肉】を食べた状態だ。
綺麗な放物線を描いて、飛んでいく【悪魔石】
これで一度に、数十メートルほど進むことができる。
メイたちに関して言えば、このクエストはゴルフのような形式になっていると言えるだろう。
しかし順調に進んできた四人の前に立ち塞がるのは、高く長い崖。
「崖もあるのは、厳しいですね」
「は、はひっ」
やや切り立った崖は、登山道で言えば『手すり代わりの鎖』が用意されるレベルの急こう配。
高さもある上に距離も長いとなると、メイが投げても一発クリアとはいかないだろう。
「投げて進もうとしても、途中でどこかに置こうとして失敗しても、おむすびころりん状態なんでしょうねぇ」
持ちっぱなしでは死んでしまうが、下手に手を離してしまえば、転がり落ちて振り出しへ戻る。
手ごわい仕掛けに、苦笑いのレン。
崖を通らず回り道することも可能だが、そうなれば当然余計に時間がかかる。
ここは、難所だ。
「……ツバメ、ちょっと一緒にきてくれる?」
しかしレンには、ひらめきあり。
「はい」
「こういうクエストだと、多分……」
レンはメイにタッチしてから、【浮遊】で崖の上へ。
ツバメは【エアリアル】による二段ジャンプを利用して、後に続く。
そして登り切ったところで、「やっぱりね」と笑みを浮かべる。
「ツバメ、モンスターをお願い」
「はい」
「メイ! 【悪魔石】を持って!」
「りょうかいですっ!」
現れたのは【突撃】が得意な牛型の魔物、エクスプロードオックスが二頭。
ツバメを見つけて猛烈な勢いで駆けてくると、当たれば爆発を巻き起こす【爆破特攻】を繰り出してきた。
「【稲妻】!」
しかしツバメはその横を通り過ぎる形で一頭目を斬り、二体目のエクスプロードオックスの特攻を【スライディング】で回避。
「【反転】【投擲】!」
いち早く振り返ったところで、投じる【雷ブレイド】
駆ける電撃で、硬直を奪ったところで――。
「それではさっそく……【加速】!」
走り出し、武器を短剣の二刀流に戻す。
「【十二連剣舞】!」
放つ剣舞は、【剣速向上】によって『八連』の時と変わらない時間で十二発の斬撃を放つため、とにかく速い。
空に描かれるエフェクトが生まれた瞬間消える演出は、その剣速を見事に表現している。
こうして二体目のエクスプロードオックスも、一撃で倒され消えていく。
「ルーン発動!」
その瞬間レンが、左手をあげた。
するとその姿が消え、崖の上に【悪魔石】を持ったメイが現れる。
「なるほど、これは見事な作戦ですね……!」
「さすがレンちゃん!」
ここは【悪魔石】を持って上がれば、劇毒ダメージ。
間違えて手を離せば、転がり落ちて振り出しへという難所。
さらに上まで登ったところに突撃型の魔物が二体待ち、爆破が起きれば【悪魔石】が転がり落ちる可能性もあり。
そんな発狂ポイントを、レンは見事に一発で突破してみせた。
「お待たせ」
今度はまもりと一緒に、崖の道を上がってきたレン。
みんな仲良く、息をついたその瞬間。
「あっ!」
空から猛スピードで降りてきた、一体の巨鳥。
「「「「っ!?」」」」
挨拶代わりに、巻き起こす暴風。
四人が倒れないよう体勢を低くすると、なんとそのまま【悪魔石】をくわえて空へ。
「待ちなさい!」
まさかの危機。
レンは杖を構え、案の定スタート地点の方へ逃げて行こうとする巨鳥に、照準を合わせる。
「……ん?」
すると突然、巨鳥がビクリと身体を震わせた。
そして、そのまま墜落。
「「「…………」」」
倒れ伏し、ビクビクしている巨鳥。
そのクチバシから、【悪魔石】が転がり出た。
まさかの事態に、さすがに言葉を失うメイたち。
「劇毒と麻痺。その結果は墜落ですか」
「本来はこれで、せっかく運んできた距離を戻されてしまうっていう罠なんでしょうけど……」
【悪魔石】の効果が強すぎて、モンスターすら敵としての職務を執行できない。
あまりに容赦のないクエストに、あらためて息をつくレン。
気の抜けないクエストに苦笑いしながら、四人は火山を目指すのだった。
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