1296.報酬タイムですっ!
「…………」
ドロップアイテムの売買などのため、バイセルでマーちゃんと会っていたレンは立ち尽くしていた。
無事に受け渡しを終え、ラフテリアに戻ろうとしたその時。
「と、いうように考えている」
「くく、それには賛成だ」
全員黒づくめという、いかにもなパーティを見つけて雲隠れ。
通りがかった従魔士の、キマイラの胴体に身を隠す。
「最近増えてるわねぇ……」
様子をうかがっていると、前からやって来たのは白の一団。
「これは闇の使徒の皆さん、バイセルで何を?」
「貴様たちには関係のないことだ」
これ見よがしな笑みを浮かべる光の使徒、相手になどしないという態度の闇の使徒。
「ここは天下の往来です。くれぐれも粗相のないようお願いしますね」
変わらぬ笑顔も、その手はしっかり剣の柄。
「ふん、それは貴様たち次第だな」
妖しい笑みで返す闇の使徒たちも、魔杖を握っている。
剣呑な雰囲気のまま両者はすれ違い、バイセルの人ごみに消えていく。
「……本当やめて」
そんな光景を見ていたレンは、謎の羞恥に顔を赤くする。
去年の自分だったら、絶対に同じことをしていた。
それも自ら進んで。
そう考えると、たまらない。
「早くラフテリアに戻りましょう……っ!」
居ても立っても居られない。
レンは早足でポータルを使用し、行き先をラフテリアへ。
そこにはいつも通り綺麗な海と、まばゆい太陽が待っていた。
「レンちゃーん!」
堤防に向かうと、そこにはすでにツバメとまもりの姿もあり。
「お待たせ」
大きく手を振るメイに、駆け寄っていく。
「今日はどこに行くーっ?」
「まずは、イベントの報酬を受け取りに行きましょう」
今回はパーティでの育成も可能だったため、全員で報酬受取会場へ向かう形になる。
四人はポータルを使用して、すっかりモンスター育成の街になったサマラへとたどり着く。
そこに待っていたのは、今もモンスターバトルを楽しむプレイヤーたち。
運営の狙い通り、トレーナーとして遊ぶことも、一つの文化として定着し始めたようだ。
「これは優勝者パーティの皆さん! お待ちしていました!」
会場の内部に作られた綺麗な白石造りの建物は、モンスターバトルセンター。
モンスターバトルの説明や、アイテムの販売なども行うこの建物に待っていたのは、消えたスターダスト団の後を継ぐと宣言した青年だ。
「モンスターバトルは、これから僕が運営していきます! 今大会の報酬もしっかりスターダスト団が用意してくれていたので、問題なく配布できそうです」
「スターダスト団、悪の組織だった割にしっかりしてるのよね。あくまでモンスターでのバトル以外はしなかったし」
「大規模な洗脳装置や拘束の魔法を開発していても、世界征服はモンスターによってなのですね」
「しょ、少年漫画の悪い組織みたいですっ」
そんなことを言っていると、青年が思い出したように手を打った。
「そうです。今回のモンスターバトルで相棒となった魔物は、今後の『専用クエスト』などにも問題なく参加していただけます。ただし直接的にストーリークエストなどに参加することはできません」
「従魔士や召喚士の特性がなくなっちゃうものね」
「その通りです。ただし」
「ただし?」
「優勝者であるメイさんには、【チャンピオンリング】を差し上げます」
「【チャンピオンリング】?」
「こちらを身につけておくと、召喚という形でストーリークエストにもリザードを登場させることが可能です」
「本当ーっ!?」
「一撃加えるまで共闘できるという、少しめずらしい形の召喚となっています」
「殿堂入りモンスターの特権ね」
「おおーっ!」
メイはさっそく白銀のリングをつけて、目を輝かせる。
「りーちゃん、これからもよろしくねっ!」
さっそく尻尾をブンブン振って、喜びの表情を見せるメイ。
一通りの説明が終わると、青年は一呼吸をついてからセンターの奥へ。
その手に、宝箱を抱えて戻ってきた。
目の前に置かれた宝箱に、レンが手を伸ばす。
【コキュートス】:氷弾が炸裂して吹き荒れる純白の猛吹雪。付近一帯を凍結させる。
「今度は氷雪系の上位魔法ね。直接凍結が狙えるっていうのはいいわね」
「いよいよ、炎と氷の最上級魔法がそろった感じですね」
「メ、メイさんの召喚象と一緒に使うと、大変なことになりそうです……っ」
「おおーっ! それは楽しみかもっ!」
連携の可能性も含めて、楽しそうにするメイ。
次にツバメが、置かれた宝箱を開く。
【剣速向上】:短剣の乱舞を最大高速12連に、剣による連続攻撃の振りを高速化する。
「12連……これって、分身と一緒に使ったらどうなるのかしら」
「見た目での判断は難しいですね。イチかバチかでの対応になりそうです」
「防御貫通の武器と一緒に使うと、恐ろしいですね……っ」
「刀の早い連続攻撃、カッコいいかも……!」
「【斬り捨て】で使うと、連続魔法を次々に斬って払う感じになるかもね」
「おおーっ!」
レンの予想にワクワクするメイ。
次はまもりが、目前の宝箱を開く。
【暴食の盾】:一定時間の無形攻撃を全て吸収し、ミックスして吐き出す。
「これはどうなるのかしら……まとめて百人が魔法攻撃して来たら、それを全部吸収して混ぜて吐き出すってこと?」
「ぞ、属性がバラバラだった場合、全属性を含んだ攻撃みたいになるのでしょうか……っ」
「それはすごそうだねっ!」
場合によっては大変なことになりそうなスキルに、目を輝かせるメイ。
その前に、最後の宝箱を持ってきたのはリザードだった。
「りーちゃん、ありがとーっ!」
メイはその頭を撫でながら、箱を開く。
【大自然のお仕置き】:【お仕置き戦樹】の更新強化版。広範囲に渡る木々の根や枝が容赦なくつかみ、叩き、斬り、貫く。木々の密度が深いほど強力。
「メイが使う魔法みたいな感じになりそうね。ジャングルの木々が一斉に攻撃……まさに自然の怒りって感じね」
「森そのものが牙を向く、すごいです」
「み、密林ど真ん中で使うとどうなるのか、気になります……っ」
「絶対、【野生回帰】で使ったらダメなやつだーっ」
四人はさっそく、報酬の使い道に盛り上がる。
「モンスター・ワールドグランプリ優勝、あらためておめでとうございます!」
報酬の確認が終わると、青年があらためてメイたちを祝福。
こうして、サマラの冒険も終了だ。
「次はどこに行こうかっ」
センターを出ると、メイがさっそく尻尾をブンブンさせながらたずねる。
「何かクエストや行きたい場所があれば、皆さんぜひ」
ツバメがそう言うと、まもりが小さく手を上げた。
「ひ、独りで戦っていた時、気になったけど達成は無理だなと思ったクエストがあります」
「今ならいけるかも。ゲームのあるあるね。それなら行ってみましょうか」
「りょうかいですっ!」
こうして四人は、まもりが思い出したクエストに向かうことにしたのだった。
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