表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1290/1381

1290.Cain Judas

 メイは進む。

 レンが下がってなお、余裕の笑みを浮かべたままでいる男の元へ。

 空いた観客席に腰を下ろし、この事態を楽しむように睥睨しているのは、スターダスト団リーダー。

 キャイン・ジューダ。


「お見事でした、メイさん」


 やって来たメイを、ゆっくりとした拍手で出迎える。


「まさかあの邪炎龍に勝利してしまうとは……あなたはモンスターで、世界に覇を成すことができるほどの逸材だ」

「皆のモンスターたちを、解放してくださいっ」


 メイの要求を聞いたキャインは立ち上がり、わざとらしく首を振る。


「そうはいきませんよ。ここにいるモンスターたちを使い、さらに世界の有望な魔物たちも捕獲して洗脳。最強のモンスター軍団でこの世界を蹂躙するのが、私の野望なのですから。モンスターたちを助けたければ、この宝珠を砕くしかない」


 その手に取り出したのは、今も多くのモンスターとトレーナーを拘束している魔力装置のスイッチ。


「メイちゃん! 頼む!」

「俺たちの相棒を助けてくれ!」


 観客席のトレーナーたちから、あがる懇願の声。


「ですが、もちろん易々と渡すつもりはありません」


 キャインが静かに、空いた手を上げる。


「見せてあげましょう。鉄の森で捕えた至高のモンスターを。それは神話にも登場する伝説の一体。誰もが畏怖し、崇める最強の魔物……っ!」


 生まれた黒煙が渦巻き出し、じんわりと現界していく魔法陣。


「来たれ――――フェンリル」


 地面に垂直に展開された大型の陣から、ゆっくりと出てきたのは大型の黒狼。

 しかしその目と口に揺れる炎が、身体の各所に残る千切れた鎖が、その個体が特別な存在であることを物語っている。


「我がフェンリルが、世界のモンスターたちの王となる。そしてその王を……このキャイン・ジューダが使役するんです」


 フェンリルはキャインに唸り声をあげるが、宝珠の出力を上げれば魔力が身体を駆けめぐり、再び洗脳状態となる。


「さあチャンピオン、あなたのリザードもいただきましょう」

「りーちゃんは渡しませんっ! 皆の相棒も返してもらいますっ!」

「ふふ。見事なトレーナーぶりを見せていただきましたが、我がフェンリルの前には有象無象も同然。ここで覆しようのない力の差を見せてあげましょう! そして全てのモンスターは、我が前にひざまずくのです!」


 フェンリルが、灯る炎を揺らしながら前に出る。


「りーちゃん、がんばろうね!」


 大きくうなずいたリザードが、向かい合うように立つ。

 にらみ合う両者、静まり返る舞台。

 キャインが、その手を伸ばす。


「駆けろフェンリル! そして全てを――――喰い千切れ!」


 放たれた号令を合図に、最後の戦いが始まった。


「【月追い】」

「っ!?」


 恐ろしい加速で迫るフェンリルに、驚くメイ。

 これだけの速度であれば、その巨体は単なる体当たりでも脅威となる。

 防御しても弾き飛ばされそうな勢いの体当たりに、出すのは短い指示。


「【猛ダッシュ】!」


 リザードも自慢の足で走り出し、両者がぶつかり合うその手前。


「跳び越えちゃえっ!」


 リザードはなんと、フェンリルの背中に手を突いて、跳び箱のようにやり過ごす。

 すれ違ったフェンリルとリザードは、同時に振り返る。

 フェンリルは再び走り、先手を打ってきた。


「【紅蓮火爪】」


 左前足による叩きつけは、溶岩の様に煌々と燃える爪の一撃。


「バックステップで!」


 リザードが指示通り下がってかわすと、地面から盛大に閃熱が噴きあがる。

 目前に広がる炎が、額の前をかすめていった。

 安堵の息をつくメイだが、フェンリルは止まらない。

 着いた左足を軸に、続けざまに右前足を振り下ろす。

 慌てて下がるリザードは爪の一撃をギリギリでかわすことに成功したが、直後に噴きあがった閃熱に吹き飛ばされた。


「りーちゃん!」


 炎に焼かれ、転がるリザードに対してキャインは追撃を放つ。


「【激流砲】」

「りーちゃん! 【キノコ!】!」


 それは恐ろしく早い判断。

 メイはフェンリルが駆け出さなかったこと、胸元をふくらませて首を後方に下げる動作を見て、『ブレス』の類だと予測して指示を出した。

 直後、フェンリルの口から放たれたのは『水のレーザー』のような一撃。

 しかしリザードの目前に生えた三本のメルヘンキノコが、水レーザーから見事に防御。


「防御の判断、早っ!!」


 これには思わず、感嘆してしまう観客席。


「ならば、そいつごと【食いちぎれ】」

「っ!?」


【月追い】で距離を詰めたフェンリルは、大きなキノコの一つを喰いちぎって振り回す。

 自分で生み出したオブジェクトの振り回し攻撃には、さすがに対処できず直撃。

 ダメージは衝突判定で少ないが、リザードは地面を跳ね転がった。


「【月追い】」


 胞子となって消えていくキノコを放り出したフェンリルは、すぐさま後を追ってくる。

 慌てて立ち上がったリザードに仕掛けるのは、前足での払い。

 これを下がってかわしたところに、続く喰らいつき。

 さらに大きな後方へのステップで、これを避けたところで――。


「【紅蓮火爪】だ!」


 右前足を、叩きつけてきた。

 爪による攻撃の直後に噴き出す閃熱は、追撃と同時に敵の反撃も抑える優秀さを誇る。しかし。


「ここだよっ! 【超雷光蹴り】を前に!」


 さらに大きく一歩下がっていたリザードは、霧散していく閃熱の中へ、飛び込む形で跳躍。

 足に雷光を輝かせ、距離を詰めていく。


「防御でいい」


 対してギリギリで間に合うと判断したキャインは、しっかり守って反撃を狙う流れに舵を切る。


「っ!?」


 そして、驚愕する。

 メイの指示は、大熊猫がカンフーパンダに行ったものと同じ。

 このタイミングで飛んでも直撃は狙えないと感じたメイは、蹴り技を出しておきながら『わざと外して手前に着地する』という攻撃を指示。

 なんとリザードもそれに応え、そのままフェンリルの目前に着地。

 地面をかける雷光にフェンリルが身体を引き、まさかの事態に驚くキャインも硬直。


「【キノコ!】」


 複数の設置はできないが、再使用までの時間が短いこのスキル。

 足元から勢い良く突き出すキノコで、フェンリルを弾き上げた。

 この時点でダメージはないが、宙を舞った状態では反撃も防御すらできない。


「もう一回【超雷光蹴り】だああああ――――っ!」


 落ちてくるフェンリルに、叩き込む雷光。

 激しい光と共に蹴り飛ばされて、転がっていく巨体を見て、メイはすかさず指示を続ける。


「キノコを蹴って、向こう側へ!」


 言われるままリザードは、生えたてのキノコを足場にして跳躍し、空中に躍り出る。


「そのまま【テールバッシュ】だああああ――――っ!!」


 宙でくるりと回って体勢を作り、着地と同時に放つ尻尾の叩きつけ。

 駆ける衝撃波が、ようやく起き上がったばかりのフェンリルのもとに迫る。


「フェンリル! 【食いちぎり】だっ!」


 キャインの指示に、なんとフェンリルは真っ向から衝撃波に喰らいつく。

 そして『神すら飲み込んだ』という恐ろしい口で、そのまま飲み込んでみせた。そして。

 吐き出す。


「りーちゃん!」


 まったく同じ威力のまま、迫り来る衝撃波。

 これを大きなサイドステップで、リザードもかわす。

 衝撃波はキノコを吹き飛ばし、そのまま駆けていった。


「なんだ、これ……」

「モンスターバトルって、こんなレベルになるのか……?」


 吹き荒れる風。

 邪炎龍との戦いに続いての凄まじさに、トレーナーたちは拘束されたまま唖然とするのだった。

ご感想いただきました! ありがとうございます!

返信はご感想欄にてっ!


お読みいただきありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら。

【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
キャイン・ジューダでフェンリルとは、なんとも不穏な連中の名前が集まってるなぁ…。 【激流砲】は弟のヨルムンガンドに教わったのかな? キノコ!のスキルが密林の巫女並みに汎用性があって、ますますメイちゃ…
何のキノコか分からんキノコを口にして大丈夫なのか?フェンリルよ。
キャイン「…この宝珠を砕くしかn メイ「【投石】っ!」ぱりーん!! キャイン「…」 メイ「…」 メルヘンキノコつっよ。堅った。ただし喰われる。 飲み込んだらバフかデバフにランダムだったりして。 足…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ