1289.邪炎龍
「リザード、やはり秘めた力は予想以上だったわね」
メイの前に立つ小型のモンスターを見て、レンは息をつく。
「メイの指示も、変わらず見事だわ」
「えへへ」
「続けましょう、戦いを。邪炎龍……」
そして短く言葉を交わした後、口端に笑みを浮かべる。
「【邪炎弾】!」
「っ!?」
放たれたのは、戦艦から放たれたのかというほどに大きな火炎弾。
「会話しながら溜めてたんだ……さすがレンちゃん!」
仕切り直しの先手を、虚を突く形で放つ。
これまで何度も戦況をひっくり返してきたレンの手際に、驚くメイ。
「【猛ダッシュ】!」
しかしメイの反応も、負けていない。
大型の火炎弾の真下を、ギリギリのタイミングで駆け抜ける。
「続けて!」
ここでレンは、避けてきたところを狙い撃つ形での炎弾を指示。
「ここっ!」
リザードはメイの言葉に合わせて、邪炎龍に向けて跳躍することで回避。
「もう一回! 着地際を狙って【邪炎弾】!」
レンはリザードが着地したところを狙って、再び炎弾を放たせる。
「そのまま【超雷光蹴り】だああああ――――っ!」
するとメイは、着地した次の足で踏み切っての飛び蹴りを指示。
跳び上がるリザードと、迫り来る炎弾が、足先をかすめるギリギリのところで交差する。
宙に舞ったリザードの脚に、閃く強烈な雷光。
そのまま邪炎龍の首元に、見事な蹴りが炸裂した。
弾かれ、落下する邪炎龍。
「りーちゃん、そのまま追撃だーっ!」
「……見事ね。でも、これならどうかしら?」
熱くなってきたレンは、ここでしっかりと頭を働かせる。
「邪炎龍、慌てなくていいわ」
迫るリザードに対し、早い滞空をしなくていいと指示。そして。
「そのまま、喰らいつきなさい」
「っ!?」
宙に浮いていない状況は、一見体勢が崩れたままでいるように見えるが、そうではない。
龍は蛇のように、地上でも攻撃する術を持つ。
「りーちゃん! 防御でっ!」
そのことに気づいたメイは防御を指示。
リザードは守りの体勢に入るが、邪炎龍はそのままリザードに喰らいつき、そのまま空へ。
「【邪炎弾】!」
その口内に紫色の光が輝き、【邪炎弾】が炸裂。
リザードは炎に焼かれながら、地に落ちた。
通常攻撃である喰らいつきを受けた状態で放つ【邪炎弾】は、防御を許さない。
ここまでこの通常攻撃を見せずに残していたのは、黒龍が地上に落ちた状態を『隙』と勘違いさせたうえで虚を突いて攻撃、そこから流れを奪うためだった。
狙い通りとなれば当然、レンは攻める。
燃えて転がったリザードに、すぐさま放つ追撃。
「斬り裂きなさい【黒撃爪】!」
伸ばした手に応えるように、高速で飛来する邪炎龍。
防御を崩すその一撃は、受ければ追撃を喰らうことが確定的。
だがすでにかわすにも、厳しい状態だ。
生まれる派手な斬り裂きエフェクトを前に、メイがくだす選択は――。
「――――【キノコ!】」
『!』までがスキル名に含まれるめずらしいそのスキルを、地面に手を突いたままのリザードが発動。
すると足元から勢いよく突き出した三本の大型キノコが、迫る邪炎龍の頭部に下から直撃。
その圧倒的な弾力で、天高く弾き飛ばした。
「あれはツバメがマーケットで選んだスキル……! さすが、予期せぬところで活きてくる……っ!」
胞子になって消えていくメルヘン色のキノコを見て、レンが悔しそうにつぶやく。
「りーちゃん、【超雷光蹴り】!」
跳ね上がって落ちてきたところに、再び決まる【超雷光蹴り】
邪炎龍が背中を打ち、跳ねる。
ここでリザードは、さらに距離を詰めていく。
すでにHPが、3割を切っている両者。
「……次の一撃は、勝負を決めるものになりそうね」
息もつかせぬ戦いと、紙一重の一撃に思わずスイッチが入るレン。
静かに、息を一つ。
右目を輝かせたまま、片手を掲げる。
「……暗天喰らう逢魔の猛り、我が黄昏は識を獲る」
「っ!?」
「倒錯を続ける逆十字は、廻り、狂い、偽なる調和を統制と成す」
「これって、詠唱っ!?」
「式の九十九――――【黒浄天元炎儀】」
神々しくも恐ろしい鳴き声と共に、邪炎龍が地に潜る。
直後、地面に広がる紫の炎。
地鳴りの後、紫光が足元から直上に向けて大量に放たれた。
「足元の光った場所を避けてっ!」
メイの言葉の直後、紫炎の柱が一斉に引き上がった。
それは炎の龍の群れが、天に昇っていくかのような圧巻の光景。
まずはその『隙間』にいることが大事な奥義級の一撃を、しっかりとメイは把握し、リザードもその言葉に応えた。
そして、全ての紫龍が天に上ったところで――。
「終われ、世界よ」
レンは掲げていた手を振り下ろした。
途端、天に輝く紫龍たちが降り注ぐ。
圧倒的な光景を見せる二段階構成のスキルに対し、メイはしかし勝負を選択。
「駆け抜けてりーちゃん! 【猛ダッシュ】!」
メイを思わせる柔軟な足取りで、駆けるリザード。
降り注ぐ紫光の龍が地を打ち出した時、すでに範囲の半分を駆けていた。
「そこは……右っ!」
左右に避けられる状態も、左に行ってしまえば次の一撃がかわし切れない。
視線を広くとったメイの指示に、すぐさま応えるリザード。
その回避は、これまで数々の奥義を駆け抜けてきたメイのようだ。
レンは思わず見惚れる。
だがそれでも、全ての完全回避はならない、
かすめていく炎がHPを少しずつだが、確かに削っていく。
さらに崩れた足場によって走りがわずかに遅くなったことで、肩を弾かれた。
「大丈夫! いけるよりーちゃん!」
それでも、メイの言葉を背に受けたかのように駆け、リザードは攻撃範囲を抜け出した。
「さすがメイのリザード……でも」
これまで何度も見てきたからこそ、レンは切り抜けられる可能性を予想していた。
この隙に取っておいた長い距離は、次撃を間に合わせるために他ならない。
「まだ【雄叫び砲】は回復してない。だからこの距離で二発目は――――かわせないっ!」
しっかりリザードを引き寄せたところで、放つのは――。
「【黒龍烈衝波】」
放たれる猛烈な炎と衝撃波に、もう逃げ場はなし。
詰将棋のような一撃は、完璧なラストアタックだ。
「いくよ、りーちゃん!」
しかし、メイは止まらない。
「必殺の……」
リザードが足を止め、迫る炎の衝撃波を前に力強く足を引いた。
「【テールバッシュ】だああああああああ――――っ!」
メインの攻撃を【超雷光蹴り】にしていたのは、このスキルを隠しておくため。
振り上げる尾は、地面に擦れて火花を上げる。
【筋力】にそのまま依存する一撃は、衝撃波を割って駆けて行く。
相殺されてもなお高い威力を誇るその一撃は、そのまま邪炎龍を吹き飛ばした。
「……最後の最後に、【鉄拳】を替えてたのね」
消えていく邪炎龍を眺めながら、ここでもう一度レンは意識を切り替える。
楽しいモンスターバトルが終わったら、『役割』に戻らなくてはならないからだ。
「貴方とリザードが見せた絆、深淵の者たちへの抑止力になりそうね」
抱き合うメイとリザードを見ながら、浮かべる満足気な笑み。
「あとはモンスターたちを我がものとして振りかざそうとする者を倒し、奪われた絆たちを取り戻すのみ。貴方に、その役を任せてもいいかしら?」
「レンちゃん……もちろんだよっ!」
そう言って、拳を握るメイ。
「レンちゃんも、闇のお仕事がんばってね……!」
一方のレンは、白目をむいた。
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