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1288.立ち塞がる闇

「ツバメちゃんとまもりちゃんが、操られちゃってる……!」


 育ててきた大切なモンスターを取り戻すため、激しい戦いを行う16組のトレーナーたち。

 大熊猫とクローナは、洗脳されたツバメやまもりと激しい戦いを行っている。


「すぐになんとかするから、待っててね! 行こうりーちゃん!」


 騒動の仕掛け人にして、スターダスト団の首領であるキャイン。

 洗脳と拘束で場を制圧し、集まった全モンスター回収する。

 そんな狙いを現実にするための戦いを、余裕の態度で眺めている。

 メイはリザードの戦い方を見直しつつ、勢い勇んで走り出すが――。


「……えっ?」


 その前に現れる、一つの魔法陣。

 紫がかった黒炎が噴き上がり、そこから闇色のローブをまとった魔導士が現れる。


「ええええええええ――――っ!?」


 白銀の長髪を揺らすレンの姿に、思わずメイが驚きの声を上げた。


「もしかして、レンちゃんも操られてるの!?」

「……いいえ」


 立ち塞がるレンに頭を痛ませる様子はなく、むしろいつも以上に冷静だ。


「それなら、どうして?」

「私はこの野望を知った時、モンスターたちもこの世界の大きな『力』の一つだと考えたわ。それなら、そこに手を伸ばそうとする者に接触するのは当然の事。何を目論み、何を可能とするのか、量らないといけないでしょう?」


 当然のことの様に語るレンに、観客席で拘束されているプレイヤーたちも息を飲む。


「そのためなら、どんな舞台だって利用するわ」


 レンはそう言って、メイに向き直る。


「世界に覇を成そうとしている者は、一人じゃない。そしてそれらの勢力の均衡が、同時に世界のバランスを取っているの。おそらく私自身も、その一人。そしてスターダスト団の台頭は、世界という観点から見れば決して悪いことではない」

「どういうこと……?」

「崩壊を狙う深淵の者たちにとっては、強力なモンスターを使役する集団は脅威になるということよ……大局的に見て、私はスターダスト団にはこのまま力を得て欲しいと思っているわ」

「ええっ! みんなのモンスターが帰ってこられないのはダメだよっ!」

「……貴方なら、そう言うと思ったわ」


 そう言ってレンは、静かに笑う。


「それなら、示しなさい」


 そして再び、闇を超える者の顔に戻った。


「モンスターたちを集めて武器にするスターダスト団などよりも、恐れるべきものがあるのだと。深淵の者たちをが畏怖すべきは、人間とモンスターの『絆の力』なのだと」

「レンちゃん……」

「私のモンスターに勝てないようでは、深淵の者たちに脅威など感じさせられない。皆を助けたいというのであれば、倒して進みなさい」


 そう言って右手を突き上げると、レンの魔眼が輝き出す。


「頂点に立った貴方のリザード、その力を試させてもらうわ」


 空に雲がかかり、吹き荒れる風が髪を大きく揺らす。

 暗くなった空に描かれた、魔法陣。


「来なさい――――邪炎龍」


 レンが呼ぶと、陣に紫の炎が駆けめぐる。

 そして天を焼くほどの炎を突き破り、恐ろしい咆哮と共にすさまじい勢いで、一頭の龍が降ってきた。


「っ!?」


 その衝撃に流された炎が地面を駆け、メイもこれには思わず後ずさる。

 リザードも、その威容に目を奪われている。


「すごい……」


 それは二足や四足型の『ドラゴン』ではなく、10メートル級の長さを誇る真っ黒な『龍』だ。

 常に宙に浮いている姿には、どこか優雅さすら感じる。

 レンは足跡に残り火を灯しながら進み、邪炎龍を従えた。


「始めましょう、メイ。太陽ですら逃れられない深き闇の龍、貴方に超えられるかしら?」


 妖艶な立ち姿で、掲げる手。


「いこう、りーちゃん」


 メイが呼びかけると、リザードがうなずき前に出る。

 開始の合図を送る者が、いない戦い。

 暗くなった空の下。


「――――【邪炎弾】」


 レンが指示と共に手を下げると、邪炎龍が紫の炎弾を吐き出した。


「りーちゃん! 回避を!」


 迫る【邪炎弾】は、連射が可能。

 次々に放たれる炎砲弾を、リザードは止まらぬステップで回避。

 すると邪炎龍の、炎砲弾連射が停止した。


「今だよっ! 【猛ダッシュ】!」


 リザードを一直線に走らせる。

 レンは回り込むような形で邪炎龍を飛行させて、距離を取る。

 そして予想通り、それでも止まらず追ってきたリザードを見て、指示を出す。


「【邪炎弾】!」

「っ!?」


 放たれる『溜め』の【邪炎弾】

 攻撃を止めていた時間は、どうやら溜め時間だったようだ。

 大型化した紫の炎弾が、変わらぬ高速度で飛んでくる。


「しゃがんで! りーちゃん!」


 メイの指示に、リザードはその場に伏せる。

 すると頭上を擦るようにして行った炎弾が炸裂し、付近を明るく紫に照らす。


「そのまま【超雷光蹴り】だああああ――――っ!」

「下がりなさい」


 立ち上がりから、わずか一歩の助走で放たれる跳躍蹴り。

 まばゆく閃く雷光が見えた瞬間、レンは邪炎龍に回避を指示。

 すると半円を描くような飛行で軸を外し、リザードの飛び蹴りに対応してみせた。

 邪炎龍の飛行速度は、かなりのものだ。


「いいわ、この距離なら優位を取れる。【邪炎弾】を続けて」


 レンの指示に、再び放たれる炎砲弾の連射。

 リザードは回避しながら、再び態勢を整える。


「前へ!」


 そして再び【邪炎弾】が止まったところで、前方へ走らせる。

 再度の連続発射でも、『溜め』の一撃でも対応できるよう意識。

 レンの次の指示に、集中するメイ。


「【黒龍裂衝波】!」

「ッ!?」


 しかし放たれたのは、炎を含んだ猛烈な衝撃波。

 先ほど『溜め』の一撃を見せたのは、ここで虚を突くため。

 直撃すれば、ダメージに加えて転倒。

 防御しても体勢を大きく崩すことになる【黒龍烈衝波】は、撃たれるだけで不利になる厄介なスキルだ。


「左に一歩、から防御っ!」


 しかしそれでもメイは最速かつ細心の指示で、直撃を避ける形での防御に成功。


「さすがね。最低限に抑えられた……でも」


 異常な早さを見せるメイの反応に、慣れているはずのレンが驚きを見せる。


「斬り裂け、【黒撃爪】」


 だが、攻撃は止まらない。

 指差すレンの指示に合わせて、超高速で空を駆ける邪炎龍。

 二本の腕から伸びる爪を開けば、空中に次元を切り裂くような激しいエフェクトが描かれる。


「このまま防御でお願いしますっ!」


 衝撃波に足をフラつかせていたリザードに、この速度での攻撃を避けるのは難しい。

 メイは防御態勢を取らせる。

 直撃の形になった黒龍の爪は、そのまま空中に長いエフェクトを残しつつ通り過ぎていく。

 鳴り続ける擦過音は激しく、HPを1割ほど削った上に弾き飛ばし、リザードの防御を解かせた。


「すごい威力……っ!」

「振り返って【邪炎弾】」


 慌ててリザードが顔を上げると、そこにはすでに迫るいくつもの炎弾。

 防御はもちろん、回避も間に合わない。

 炸裂する紫の炎に飲み込まれて、ダメージ。


「そのまま【黒龍烈衝波】」


 レンはまだ、攻撃を止めない。

 燃え上がった紫の炎が、走る烈風に霧散する。

 駆ける炎を伴う衝撃波は範囲も広いため、追撃としてこれ以上ない攻撃。

 レンらしい見事な選択だ。


「りーちゃん!」


 すると迫る衝撃波を前に、メイは両手を口元に構えてポーズ。


「「がおおおおおお――――っ!!」」


 放つ【雄叫び砲】は迫り来る衝撃を正面から打ち破り、さらに邪炎龍を地に落とした。


「そのまま【超雷光蹴り】だああああ――――っ!」

「っ!?」


 先行して効果時間の長い範囲攻撃を出しておくことで、攻めを継続する。

 レンの選択は間違いのないものだったが、メイはさらにその上をいった。

 一瞬の隙間に挟み込んだ指示に、リザードが間髪入れずに反応。

 地面にぶつかり跳ねた邪炎龍は、電撃をまとった蹴りを叩き込まれてダメージを受けた。


「……やっぱりメイはすごいわね。流れでそのまま攻撃できそうなところでも、しっかり反撃を挟んで決めてくる」


 つぶやくレン。

 楽しさに思わず笑みを浮かべそうになるが、代わりに妖しい口端の笑みを見せたのだった。

誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!

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― 新着の感想 ―
レンちゃんにはドラゴンか人語を語るリッチが最適解だと思っていました あと、そろそろレンちゃんはそろそろ妹ちゃんに怒られるんじゃ?
レンちゃんキター!しかも今回は世界の調停者として登場! メイちゃんへの理解度の高さと、りーちゃんの手の内まで全部把握してる上に、 モンスターの強さも、指示や判断の正確さも申し分のない、まさに最強の敵!…
ノリノリじゃねぇか!! これまた後で頭を抱えるのでは?
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