1283.始まる決勝戦
「ぽんぽこちゃん! 【変わり身の術】!」
準決勝第二試合。
忍タヌキを使う忍者少女アンズーと、伝説のモンスターの一角であるレギアーラを使うクローナの戦いに、観客がわき立つ。
大人よりもやや高い体高を持つ竜であるレギアーラの【テールウィップ】は速く強力。
舞台を切り裂く尾の乱舞が、ついに忍者タヌキを捉えた瞬間。
忍者タヌキは丸太と入れ替わって、危機を脱した。
「あんなに良い動きするのに、レギアーラには防戦一方なのか……!」
「クローナ、王者の風格だな……っ!」
悠然とした戦いを見せるクローナとレギアーラに、観客は息を飲む。
「確かに強い……けど!」
対してアンズーは、秘技の使用を指示。
「【口寄せ】!」
忍者タヌキが印を結ぶと、巻き上がる風が砂煙を上げる。
視界が晴れると、そこにいたのは――。
「なんか忍者がいる!」
「あはは! 動物忍者が口寄せすると、逆に人間がくるのか!」
長いマフラーに、獅子舞を思わせる広がった長い白髪。
その気配が、大物の雰囲気を放っている。
「お願いします! 先生っ!」
アンズーが叫ぶと、口寄せ忍者は印を結び忍術を発動。
「【火遁・炎虎爆進走】」
「「「っ!?」」」
生み出した炎の虎は、数十体に及ぶ。
一斉に走り出し、レギアーラに容赦なく飛び掛かる。
「来るぞ! 下剋上!」
「番狂わせだああああ――――っ!!」
その光景に、立ち上がる観客たち。
「【光翼閃華】」
クローナのつぶやきに、レギアーラが広げた翼。
すると浮かび上がる紋様から無数の光線が広がり、炎の虎たちを霧散させた。
「そのまま攻撃」
レギアーラは一足飛びで接近し、口寄せ忍者を弾き飛ばす。
そして忍者タヌキに、そのままタックルで攻撃を仕掛ける。
「ぽんぽこちゃん! 防御ーっ!」
その威力は驚異的。
防御には成功するも、忍者タヌキは【耐久】の低さゆえに転倒する。
レギアーラは追撃を仕掛け、前蹴りを防御されたところで――。
「【翼撃】」
後ろから伸びてきた右の翼が拳となって、上方からタヌキ忍者に叩き込まれた。
この一撃で跳ね上がったところに、さらに続く左の翼による正拳突き。
「「「おおっ!?」」」
殴り飛ばされたタヌキ忍者は、観客席に飛び込む勢いで転がり勝負あり。
「準決勝第二試合! 勝者はクローナ・レギアーラ組!」
「「「おおおおおおおお――――っ!!」」」
余裕すら感じさせる勝利に、あがる歓声。
「やっぱり、クローナが大本命か!」
「レギアーラとの組み合わせ、強すぎだろ……!」
準決勝ですらあっさりと決めてしまう戦いぶりには、誰もが興奮する。
そんな中、舞台に上がってくる一人の男。
「さあ、いよいよモンスターバトル無差別級も決勝を迎えます!」
それはもちろん、スターダスト団のリーダーであるキャインだ。
「決勝はリザード使いのメイ、そしてレギアーラ使いのクローナの戦いとなります!」
「「「うおおおおおおおお――――っ!!」」」
「メイさん、舞台へどうぞ!」
「はいっ!」
メイとリザードは仲良く手を上げて応えると、舞台に上がる。
続けてクローナと、レギアーラも。
するとさらに、歓声が大きくなった。
見ればすぐに分かる、特別な個体であるレギアーラ。
そして誰もが諦めてきた、いわく付きの個体であるリザード。
「さすがに……違うな」
「相手は伝説のモンスターだからな……」
ここまでメイとリザードの活躍を見てきた者たちですら、並ぶとさすがに不利を感じてしまう。
最初からステータスが高く、覚えられるスキルも強力。
そしてトレーナーの能力にも問題なし。
レギアーラは、しっかり全てをそろえた状態だ。
「伝説のモンスターと共にトーナメントを圧勝してきたクローナさん、いよいよ決勝です! 自信はいかがですか?」
「いつも通り、勝ちます」
「これは力強い勝利宣言! ではメイさん、自信のほどは?」
「りーちゃんなら、一番になれると思いますっ!」
「こちらも元気に、おそろいのポーズで勝利宣言です!」
向かい合うメイチームと、クローナチーム。
「それでは、始めます」
スターダスト団リーダー、キャインが手を掲げると、自然と静まり返る観客たち。
芝を揺らす風が吹き抜けた後、力強く手を振り下ろす。
「モンスター・ワールドグランプリ決勝戦。スタートです!」
鳴り響く鐘の音と共に、始まる戦い。
「りーちゃん、【猛ダッシュ】!」
「っ!?」
その速度に、思わず目を見張るクローナ。
対峙して分かる、これまでのモンスターとの明確な違い。
一瞬で懐にもぐりこんだリザードが短い手で放つ拳打を、レギアーラはその腕で防御する。
「レギアーラが後退するほどの威力……でも!」
生まれた距離、レギアーラはすぐさま前蹴りで反撃。
これをリザードは、バックステップ一つでかわしてみせた。
「【翼撃】」
すぐさま、『握った』片翼が光る拳となって右方から迫る。
「下がって!」
メイの声に合わせて、リザードはバク転でこれを回避。
左側の翼での拳打も、続けざまのバク転で回避する。
「【テールウィップ】」
「来るぞ!」
続くのは、目にも止まらぬ速度の尾の振り回し。
エフェクトが明らかに本来の尾より長いのは、この攻撃の持つ範囲延長効果によるものだ。
まずは、縦の叩きつけ。
「りーちゃん! 右っ!」
「「「かわしたあっ!」」」
これを見事にかわしたリザードに、上がる歓声。
「りーちゃん、そのままジャンプ!」
続く払いの一撃を、なんとリザードは側方回転で越える。
「すげえ……メイちゃんみたいだ!」
「そうだよな! あの回避、メイちゃんの動きだよな!」
これまでメイを追ってきたプレイヤーたちは、野生を思わせる華麗で柔らかな回避に、思わず声をあげる。
「りーちゃん! そのまま【猛ダッシュ】で前進っ!」
言われるまま駆け出すその姿は、【バンビステップ】で走るメイのよう。
一気に距離を詰めたリザードは、そのまま拳を引く。
「【鉄拳】だああああ――――っ!!」
その拳に生まれる衝撃が、空気を揺らす。
「レギアーラ! 防御っ!」
ここでついに、クローナが大きな声を上げた。
するとレギアーラは、両翼を手前に出して組む形での防御を展開。
リザードの拳とレギアーラの翼が衝突し、駆ける突風が観客席に吹き込む。
そしてこれまで余裕の勝利を続けてきた白い竜が、大きな後退をみせた。
「「「うおおおおおおおおおお――――っ!!」」」
「全然負けてねぇ! 伝説相手にも、一歩も引かねえぞ!」
最高の盛り上がりを見せる観客たち。
決して大きくない体型で、しかし無限のパワーを感じさせるリザード。
四足獣の様に速く、軽やかな動きで敵を翻弄する姿は、メイを彷彿とさせる。
「……かつて一人も、これだけリザードを懐かせた者はいなかった」
これまでずっと、クールな姿を見せていたクローナですら――。
「やっぱり、全力じゃなきゃ勝てる相手じゃない……っ!」
そう言って、楽しそうに笑った。
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