1282.準決勝!
「さあ、いよいよ決まったベスト4! ついに戦いは準決勝を迎えます!」
団員たちが、残った勝者である四人を連れて場所を移動する。
その先にあったのは、四方を観客席に囲まれた特別舞台だ。
野球のスタジアムのような会場には、すでにたくさんの観客が詰めかけている。
「メイ! ここまで来たら負けるなよ!」
「メイちゃーん! がんばってねーっ!
「ありがとーっ! がんばりますっ!」
グラムやシオールから向けられた声援に、メイは元気に応える。
そして四人が舞台の中央に来たところで、始まるアナウンス。
「準決勝第一試合は、メイさんと大熊猫さんの戦いとなります!」
クローナとアンズーは、観客席の一部に作られた特別席へ。
残ったメイとリザードは、大熊猫たちと向かい合う。
「うぇひひ。本当にリザードちゃんとの戦いが始まりますな」
「どっちも燃えてる……っ!」
腕を組み、にらみ合うリザードとパンダ。
「このライバル感、良き……! ですが負けないでありますっ!」
「こっちこそだよっ!」
二人は背を向け距離を取る。
「さあ、この試合はどっちだ?」
「大熊猫のパンダは、マジで良いぞ」
聞こえてくる観衆の声。
両者が再び、向かい合ったところで――。
「準決勝第一試合――――スタート!」
戦いが始まった。
「パンダちゃん! ごー!」
大熊猫の指示で、パンダが地面を蹴る。
一気に距離を縮めると、得意の打撃を開始する。
左の前蹴りをリザードがかわすと、そのまま踏み込み右のローキックへとつなぐ。
「下がって!」
言われるまま、後方へ下がるリザード。
「パンダちゃん! 【閃肘】!」
するとそれを追う形で、雷光のような尾を引く高速移動肘打ちで追撃してきた。
リザードの体高では肘を直接受けることはないが、身体に当たれば高い衝突ダメージとなる一撃。
「防御!」
その意外な速度にメイは、無理をせず防御を選択。
すると、大きく弾かれた。
「まだまだであります! 【掌天破】!」
「っ!」
突き出す掌底は、グランダリアで一緒になった時と同じ動きのスキル。しかし。
「りーちゃん! 横に跳んで!」
掌底から飛び出した衝撃波がドン! と激しい音を鳴らし、真横を通り過ぎていく。
どうやら、一回り強化させてきたようだ。
「畳みかけるであります! 【大回転】!」
ここで大熊猫は、回避のために転がったリザードに向けて、さらなる追撃。
三歩のダッシュから跳躍し、そのまま丸まって敵に体当たりする攻撃を放つ。
「防御でお願いしますっ!」
見事な攻勢に、メイは再び防御を選択。
今度は大きく弾き飛ばされて、再び地面を転がることになったものの、防御のかいあり体勢の立て直しが早かった。
「反撃は【ウィンドクロー】連射で!」
生まれた距離。
すぐさまリザードは、反撃の空刃を連続で飛ばす。
迫る幾筋もの刃は全て、パンダに向けて飛来。
「ここで【覇気開放】っ!」
するとパンダは両手をパン! と胸の前で打ち鳴らし、巻き起こす衝撃で空刃をまとめてかき消した。
「さすが大熊猫! 変わり者だけど強い……!」
「指示を出す時に変なポーズを取るのが気になるけど、見事だな!」
わき立つ観客たち。
どうやら従魔界隈では『変わったパンダマニア』という印象らしい大熊猫。
しかしその育成は見事で、リザードと正面からぶつかり合う。
「まだまだ! 【ウィンドクロー】!」
しかし【覇気開放】は、そこまで早い連続使用ができるスキルではない。
メイはさらに空刃を飛ばして、パンダを狙い撃つ。
「パンダちゃん! とにかく回避で、程よい距離に!」
言われるまま、パンダは必死の二足歩行で逃げ回る。
「さあ、どうする?」
かすめていく空刃に、観客たちが何かしらのアクションが必要だと思ったその瞬間。
「パンダちゃん! ここでジャンプ!」
大熊猫は、高い跳躍を指示。
跳んでしまうと着地時を狙われ不利となる。
そのため悪手となりがちだ。
「……おそらくここは、マグマのやつでありますな」
大熊猫がつぶやく。
接近してくる打撃に対し、マグマを噴き上げてカウンターを取るスキルがあることを、大熊猫は覚えている。
「パンダちゃん! 【疾空瞬脚】!」
それでも使う、このスキル。
内容は跳躍後に、目的の場所目がけて急降下蹴りをするというもの。
これもグランダリアの際に使った蹴りスキルの、上位版だ。
そして敵の使用する魔法系攻撃に対する高い『防御体勢』と『貫通力』を持っている。
決まれば戦いが優位になると確信して、放たれる高速蹴り。
「りーちゃん、勝負っ!」
それを見たメイも、この蹴りが特別だと即座に理解する。
目前に迫るパンダの蹴りに、メイが放つのは――。
「【雄叫び砲】だああああ――――っ!!」
「「「「っ!?」」」」
「「がおおおおおおおお――――っ!!」」
メイとリザードが、同時にポーズを取ってあげる叫び声。
モンスターに覚えさせられるスキルは五つ。
そしてメイはその全てを予選で使ってきたため、手の内は知られている。
そのため突然放たれた六つ目のスキルに、誰もが驚きの声を上げた。
爆発的に広がる音波によって、弾かれるパンダ。
「今だよっ! 詰めて!」
地に落ち、大きくバウンドして転がったところに、リザードが駆け込んでくる。
「【猛ダッシュ】からの――!」
そしてどうにか体を起こそうとするパンダの目前に迫ると、その足を強く踏み込んだ。
「【鉄拳】だああああああ――――っ!!」
突き刺さる拳打が、パンダを弾き飛ばした。
「重い一撃が決まったぞ!」
「もしかして、ベスト4まで来たところでスキルを入れ替えたのか……!?」
ざわつく観客席。
レンの思いつきは見事に、リザードの背中を後押しした。
「【雄叫び砲】の代わりに消したのは、すでにネタが割れてる【カメレオン】と考えるのが普通であります。そして範囲攻撃ゆえに【雄叫び砲】はクールタイムも長め。ならば……【掌天破】!」
起き上がったパンダの放つ掌底から放たれた衝撃波を、リザードは大きく飛び退きかわす。
「【疾空瞬脚】を前方に!」
ここで大熊猫は、再び【疾空瞬脚】の使用を指示。
跳び上がったパンダが、体勢を整えられていないリザードに向けて放つ急降下蹴り。
「りーちゃん、後ろに避けてっ!」
蹴りの攻撃は、そこまで範囲が広くない。
そう踏んでメイが出した指示に従い、リザードは後方に身を倒す形で退避する。しかし。
「「「っ!?」」」
パンダの急降下蹴りは、リザードの数歩前に突き刺さった。
「まさか、わざと外したのか!?」
「大熊猫も、抜群の駆け引き上手だ!」
吹き荒れる衝撃に、虚を突かれたリザードが転がった。
「パンダちゃん! もう一回【疾空瞬脚】!」
「「「っ!?」」」
大熊猫は、なんとここでもう一度急降下蹴りを選択。
パンダは『防御態勢』と『貫通』性能を持つ、【疾空瞬脚】で迫り来る。
仮に【マグマ・スプラッシュ】を出されても、蹴りの性能が上回ることは間違いない。
「決まったか!?」
「いや、防御すればまだ可能性は……っ!」
走る緊張、求められる選択。
メイは、空中のパンダに向けて指を差した。
「いきましょうっ!」
大きくうなずくリザードに、指示を出す。
「【超雷光蹴り】だああああ――――っ!」
「「「っ!?」」」
今度は観客だけでなく、大熊猫も驚きに目を見開いた。
「まさか! マグマのやつも変えているんでありますか!?」
実はメイが変更していたスキルは、二つ。
ネタが割れている【カメレオン】の代わりにしたのが【雄叫び砲】
そして【雄叫び砲】という範囲攻撃を得たメイが、【マグマスプラッシュ】に代えて選んだのは【超雷光蹴り】だった。
リザードが、足にまとう雷光。
地対空。
放つ跳躍蹴りが、まるで格闘漫画のように空中でぶつかり合う。
パンダの【疾空瞬脚】は、魔法系の攻撃に対する『貫通能力』こそ高いが、物理攻撃には耐性なし。
単純なぶつかり合いは、【筋力】で上回るリザードが制する。
パンダは雷撃の激しいエフェクトと共に宙を舞い落下。
HPゲージが弾け飛び、魔法陣に消えていった。
「勝負あり! 勝者メイ・リザード組!」
「やったー!」
「「「おおおおおおおお――――っ!!」」」
抱き合うメイとリザードに、あがる歓声。
「準決勝で急なスキル変更……モンスターも使用スキルもバレているからこその作戦。驚きでありますな」
感嘆の表情を見せる大熊猫。
「お見事であります!」
「ありがとうございますっ」
「スキルを完成させてくるか、直前で変えるか。これはまた戦略が広がるであります……!」
そう言ってリザードを、興味深そうに見つめていると――。
「「「うおおおおおおお――――っ!!」」」
忍者少女アンズーの忍タヌキと、クローナのレギアーラ。
準決勝二回戦を行う二人が現れて、再び大きな歓声が上がる。
メイと大熊猫が観客席の専用席に下がると、もう一つの準決勝が始まった。
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